毛虫の気持ち

文字数 861文字

 突如、巨大な枝が目の前に現れた。目線が変だ。さっきまでの下の川ではなく、空の方を向いている。

 毛虫が見えない?頭の周りに無数の茶色のトゲが見える。毛虫は僕だ。
 子供の頃、刺された記憶がよみがえる。オウメと近くの公園で木登りをした時だ。あいつは嫌がる僕を、無理やりケヤキか何かに登らせた。僕は怖くて木にしがみついた。おかげで、腕に毛虫のトゲが刺さった。

 これが憑依ってやつか。それじゃあ下へ降りるかな?体が動かない。いや、勝手に進んでる。
 憑依ってのは、感覚だけが共有されるのか。
「下へ行ってくれ。」
「・・・」
 僕の願いもむなしく、こいつは勝手に進む。思い通りにいかない。いらいらする。体が乗っ取られたような感じだ。

 突如、空が暗くなった。巨大な四角い陰が太陽を遮る。
「鳥か?飛行機か?いや、スーパーのレジ袋だ!」
 毛虫というのは、いつもこんなに怯えて暮らしているのだろうか?

 緑色のつるつるした広いところで止まった。葉っぱの上か。
「う~、落ち着く。」
 ほっとした瞬間、葉っぱが離れていく。落ちてる?いや、僕が浮かんでるのだ。毛虫は、くねくねと動く。黄色で細長いものの先に、二つの黒くて丸いものが不気味に光っている。
「鳥だー。こいつが食べようしてるのか?逃げろ僕!逃げろ、毛虫!」
 パニクッた僕は、鳥に憑依するなんて考えつかなかった。

 小鳥が飛び立った。
「空って広いなー。」
 なんて、考えられるか!どこへ連れていく気だ。しばらく、恐怖の空中遊泳を味わった。思ったほど揺れない。うちの親父よりよっぽど安全運転だ。
「落とすなよ。」
 ここから落ちたら、毛虫といえど死んでしまうかもしれない。
 激しい上下振動の後、眼下には3つの赤い花が咲いている。
「ピピピ。」
 花から音がする。よく見ると、ヒナのくちばしだ。
「僕は、餌じゃない。」
 一羽の口の中に入る直前、
「このヒナに乗り換えますか?」
 と聞こえた。僕は、ためらうことなく
「は、はい!!」
 と、その問いに叫んだ。
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登場人物紹介

とりの ぎょくじ(玉子)

中学三年

王女の幼馴染で隣に住む

鉄道オタク

生物の雑学がある

いづみ おうめ(王女)

中学三年

玉子の幼馴染で隣に住む

ヘルパー死神

玉子の担当死神

おっちょこちょい

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