自由意志の班編成という悪魔的所業

文字数 1,847文字

 宗介くん、少しいいですか?
梓先輩? どうしたんですか?
 宗介が次の授業のため理科室に向かっている途中、梓は声をかけてきた。
いえ、少し気になったことがあって……。
秋良さんは、隣のクラスでしたよね?
秋良……?

……あー、部員の。

 秋良……地球防衛部に加入した須藤秋良のことであることを、宗介は思い出す。
秋良さん、入部してから一度も顔を出していないでしょ?

もちろん個人の自由ではあるんですけど……少し、心配になって……。

宗介くん、これから移動教室で秋良さんのクラスと合同授業ですよね?
少し、様子を見てくれませんか?
はい喜んで!
 梓のお願いに、無条件で了承する宗介。

 まさにパブロフの犬。

 理科室――。
(とは言ったものの……どうするかなぁ……)
 彼の見つめる先には、秋良がいた。
…………。
(なんか不機嫌そうな顔してて、近付きにくいんだよね……。友達もいなさそうだし……)
…………。
(いやそれ……僕もじゃん)
 思ってて悲しくなった宗介であった。
はーいじゃあ、二人組を作ってくださーい。
 理科担当先生の、悪魔の指示が飛ぶ。
(……よし、ちょうどいいかな)
 意を決した宗介は立ち上がり、秋良の元へと向かった。
 そして彼女が宗介に気付くと、ギロリと睨みつけてきた。
……何か用?
二人組。作れってよ?
なんでアンタと組まないといけないわけ?
ええと……ほら、僕ちょうどあぶれちゃったから……。
……ボッチ。
(お前に言われたくねえよ!!)
 心の中で絶叫しつつも、一度息を吐き出し、宗介は秋良の隣に座る。
ちょ、ちょっと……なに勝手に座ってんの? キモイんだけど……。
キモイはやめてください。マジで。
 心に痛恨の一撃をくらう宗介であった。
二人組作らないと授業進まないだろ?

僕のことは無視してていいから、ちょっとは我慢してよ。

はぁぁ……最悪。
 それからも重苦しい雰囲気のまま、授業が進み始めた。
(なんかすんごい嫌われてるなー……。でも、梓先輩に頼まれてるし……)
(逆に言えば、これ以上嫌われることはないだろうからちょっと聞いてみるかな)
 変な度胸だけは身に付いた宗介であった。
……地球防衛部、来ないの?
は? 何よ急に……。
いや、入部してから一度も来てないからさ。
行くわけないじゃん。

あんな変な部活。

だよねー。
…………。
…………。
……え? それで終わり?
なにが?
いやだって……普通そのあと、『一回くらい来いよ!』とか、『どうして来ないんだよ!』とか、そういうの言ったりするもんじゃないの?
行きたくないんだよね?

だったらそれでいいじゃん。

(それに、完全な幽霊部員なら侵略者の線は消えるだろうから、僕としても楽だし)
……部長は、それでいいって言ってるわけ?
ひなた先輩に限ってそれはないよ。

むしろ、そろそろクラスまで乗り込んできて無理やり連れて行くんじゃない?

それは……ちょっと……。
行きたくないんだったらそう言ってよ。

梓先輩は自由意志を尊重しているし、僕と梓先輩でなんとかひなた先輩を引き留めるからさ。

…………。
 宗介は、本当にそれ以上部活の話をすることはなかった。
…………。
(……変な奴)
 時間は経過し、放課後の部室――。
……ってことで、須藤さんは単純に来るつもりがなかったみたいです。
そうですか。

ありがとうございました、宗介くん。

……でも、せっかく入部したのに会えない残念ですね。
うん! そんなのやっぱりほっとけないよ!

ここはさっそく、秋ちゃんをみんなで迎えに行って――!


ややこしくなるんで、絶対にやめてください。
そんなことしたら、下手すればそのまま辞めるんじゃないの?
あぅー……。

それは、ちょっと困るかも……。

でも、そこまで来るつもりがないのに、なぜ部活に入ったデスか〜?

理解できないデ〜ス。

(エリカの素性を知ってると、なんか凄い違和感が……)
……ソースケ?

言いたいことがあるなら言ってみろ……DEATH

僕もよくわかんないデスね!

HAHAHA!


宗ちゃん大丈夫?

なんか汗びっしょりだよ?

とにかく、今は静観するしかありませんね。
宗介くん。

可能な限りでいいので、今後も様子を見ててくれませんか?

もちろんデス!
…………。
 梓と宗介……二人のやり取りを横で見ていた栞は、誰にも気付かれることなく、膝の上の手を強く握り締める。
(本当の敵は、この人だ……)
 栞の中で沸き起こる濁った感情……。

 その隆起に気付いたのは、その部屋の中で、一人だけだった。


 そしてその人物は……。

(……これは何やら……面白いことになってきたなぁ!)
 面白がってた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山田宗介。栄優学園1年。

本作の主人公。

なんやかんやで地球防衛部に入部する。

ツッコミ担当であるものの、時折暴走することも。

密かに、地球外敵性侵略者のスパイを探すことに。

桐島ひなた。栄優学園2年。

地球防衛部の創設者にして部長。

天真爛漫という名のお花畑。

正義のヒーローを夢見る。

姫野梓。栄優学園3年。

地球防衛部の副部長。

全てを包む慈愛の心を持つ女神。

桐島ひなたの数少ない理解者にして親友。

宗介を地球防衛部へ引き込んだ元凶。

鈴沢栞。栄優学園2年。

山田宗介の隣同士に住む幼馴染というより姉のような存在。

超過保護。

実はめちゃくちゃ金持ちであるが、宗介は知らなかったりする。

柊木ルシル。年齢不詳。

鈴沢家に仕えるメイドさん。

割と常識人で、辛辣なツッコミが冴える。

鈴沢栞とは主従関係にあるものの、むしろ友達に近くファーストネームで呼び合う。


須藤秋良。栄優学園1年。

何かしら部活に所属しなければいけないらしく、幽霊部員として入部。

あまり心を開かない感じ。

しかしながら、どうやら秘密があるようです。

エリカ・ミュラー。栄優学園2年。

外国からの留学生。

半片言を駆使するが、実は日本語ペラペラとの噂も。

美人ではあるが、時折裏の顔がチラホラと。

冴橋響。栄優学園1年。

地球外敵性侵略者の捜索を宗介に依頼した人物。

世界的組織の一員らしいが、詳細は不明。

ついでに実年齢も不明。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色