アレが語り掛けます、うまい、うますぎる……くさっ!!
文字数 1,978文字
「ウギャー!」
アキラは叫ぶと、床の上でのたうち回った。
「おい、アキラ、大丈夫か!?」
幼馴染のリクトがあわてて部屋の電気を付ける。
リクトのスポーツマン然とした精悍な顔立ちが瞬間的に歪んだ。
テーブルの上にはグツグツと煮えたぎる鍋があった。スープの色は土鍋と同じ黄土色。溶けた苺や魚の頭、ポッキーらしきものの残骸が白菜に突き刺さっている。
そう、闇鍋である。
「不味い、死ぬぅ、誰か助けて……」
「いや、食べる前に臭いで分かっただろ」
「というか、よく躊躇わずに手を出せたよね」
リクトは呆れ、一方、同じく幼馴染で中性的な美少年ハルキは感心したようである。
「う、もうダメだ……何かおじいちゃんが見える……」
「あ、こんにちは、いつもお邪魔してます」
「いつもうるさくてすいません」
「よく来たね、みんな。うん、大丈夫そうだ。ゆっくりしていきなさい」
二人は、心配して孫の様子を見に来たアキラの祖父に挨拶をする。
「くそ、誰だよ! こんな真夏に闇鍋大会しようって言った馬鹿は……」
「「お前だよ」」
「仕方ねえじゃん! 初めての闇鍋パーティーで『くさや』を持参する本格派が仲間内に居るなんて誰が思うよ!」
アキラが元凶を菜箸で掬うとゴミ袋に入れる。
「Oh my goodness! ソレ、マダ食ベテマセン」
三人の視線が金髪碧眼の美少年、イギリスからの留学生ジョージに向けられる。
「お前は犯人かあぁぁ!」
「ハイ、商店街ノ魚屋ノオジサンニ、コレ、Recommendサレマシタ」
「「「あの、クソ親父……ッ!!」」」
魚屋の親父の楽しそうな顔を想像し、三人は歯噛みをした。
「あー止めだ止め! こんな鍋食ってられるか!」
「だな、命に係わる」
「僕、台所から一平ちゃん取ってくるよ」
「ハルキ、ここ俺ん家ぃぃぃっ!!」
「リクトは窓開けといて」
「了解、コロナ対策にもなるしな」
「いや、今更ぁぁぁっ!!」
「アキラ、アキラ。ソレ、ワタシ知ッテマス。ズバリIKKOノ真似デショウ?」
「違げえから! 素だから! なあ、リクト……俺ってやっぱりIKKOさん似なの……?」
「それくらいで傷ついてんじゃねえよ」
「いや、否定しろよ」
「HAHAHA、仲イイデスネ」
ジョージが外人っぽく笑いながら器用に箸を動かす。
「いや、ジョージはなんで普通に食べてるの?」
「普通ニオイシイデスケド?」
「……アキラ。何があってもイギリスとは戦争しちゃだめだ。こいつらはヤバイ」
「いや、実際はイギリス料理ってそんなに不味い訳じゃないらしいからな? 単純にジョージが味音痴なだけだろ」
「ねえ、アキラ……」
トレイを抱えたハルキが戻ってくる。
「お、どうした?」
「一平ちゃん、なかったんですけどっ!!」
「いや、何でお前、他人ん家のパントリー勝手に漁ってキレられるの!?」
ハルキはテーブルに人数分のUFOを置く。
「はぁ、仕方ないから、みんな今日はこれで我慢して」
「だからお前の倫理観どうなってんの!?」
携帯のアラームが鳴り、口直しのカップ焼きそばパーティが始まる。
「そういやハルキは昔っから一平ちゃん好きだよなぁ」
「うん、マヨビーム楽しすぎ」
「好きな理由が子供!」
「ハルキ、ワカリマス。
「好きな理由がアダルト!」
「じゅるり、僕、もう一回探してくる!」
「今ので食欲増すな、性少年! つーか、諦めろ、俺ん家に一平ちゃんはねえ!」
「アキラの言う通りだ、諦め……こほん、ハルキ、アキラん家では諦めろ、アキ――もが」
アキラは肩で息をしながら、リクトの口を押える。
「リクト、これ以上は捌ききれない」
「お、おう、すまなかった」
テーブルから一歩も動いていないのに満身創痍である。
「アキラって難儀な性格だよねー」
「自分ノ家ナンダカラ、モットRelaxスレバイイデス」
「いや、半分以上、お前らのせいだからね!?」
二人がカップ麺を啜りながら楽しそうに笑う。
「もう最悪だよ。鍋は不味いし、部屋くせえし、疲れるし……ああ、彼女に癒されたい……いないけど」
「でも、アキラって女子から人気あるよ? アキラのLINE ID教えてって言われるし。断るけど」
「断んなよ! 教えとけよ!」
「ワタシモヨク聞カレマスネ。断リマスケド」
「何でお前も断んだよ!」
二人は目を合わせ、申し訳なさそうに言った。
「だって、ほら」「個人情報デスカラ」
「万全の情報セキュリティ!」
アキラは血の涙を流した。
「つーか、普通に聞いてくれればいいのに……」
「いや、いつも俺たちとつるんでるせいで声かける暇ないんだろ?」
「……俺、二学期になったらお前等と遊ぶの止めるわ」
こうしてアキラの夏は終わっていくのだった。
アキラは叫ぶと、床の上でのたうち回った。
「おい、アキラ、大丈夫か!?」
幼馴染のリクトがあわてて部屋の電気を付ける。
リクトのスポーツマン然とした精悍な顔立ちが瞬間的に歪んだ。
テーブルの上にはグツグツと煮えたぎる鍋があった。スープの色は土鍋と同じ黄土色。溶けた苺や魚の頭、ポッキーらしきものの残骸が白菜に突き刺さっている。
そう、闇鍋である。
「不味い、死ぬぅ、誰か助けて……」
「いや、食べる前に臭いで分かっただろ」
「というか、よく躊躇わずに手を出せたよね」
リクトは呆れ、一方、同じく幼馴染で中性的な美少年ハルキは感心したようである。
「う、もうダメだ……何かおじいちゃんが見える……」
「あ、こんにちは、いつもお邪魔してます」
「いつもうるさくてすいません」
「よく来たね、みんな。うん、大丈夫そうだ。ゆっくりしていきなさい」
二人は、心配して孫の様子を見に来たアキラの祖父に挨拶をする。
「くそ、誰だよ! こんな真夏に闇鍋大会しようって言った馬鹿は……」
「「お前だよ」」
「仕方ねえじゃん! 初めての闇鍋パーティーで『くさや』を持参する本格派が仲間内に居るなんて誰が思うよ!」
アキラが元凶を菜箸で掬うとゴミ袋に入れる。
「Oh my goodness! ソレ、マダ食ベテマセン」
三人の視線が金髪碧眼の美少年、イギリスからの留学生ジョージに向けられる。
「お前は犯人かあぁぁ!」
「ハイ、商店街ノ魚屋ノオジサンニ、コレ、Recommendサレマシタ」
「「「あの、クソ親父……ッ!!」」」
魚屋の親父の楽しそうな顔を想像し、三人は歯噛みをした。
「あー止めだ止め! こんな鍋食ってられるか!」
「だな、命に係わる」
「僕、台所から一平ちゃん取ってくるよ」
「ハルキ、ここ俺ん家ぃぃぃっ!!」
「リクトは窓開けといて」
「了解、コロナ対策にもなるしな」
「いや、今更ぁぁぁっ!!」
「アキラ、アキラ。ソレ、ワタシ知ッテマス。ズバリIKKOノ真似デショウ?」
「違げえから! 素だから! なあ、リクト……俺ってやっぱりIKKOさん似なの……?」
「それくらいで傷ついてんじゃねえよ」
「いや、否定しろよ」
「HAHAHA、仲イイデスネ」
ジョージが外人っぽく笑いながら器用に箸を動かす。
「いや、ジョージはなんで普通に食べてるの?」
「普通ニオイシイデスケド?」
「……アキラ。何があってもイギリスとは戦争しちゃだめだ。こいつらはヤバイ」
「いや、実際はイギリス料理ってそんなに不味い訳じゃないらしいからな? 単純にジョージが味音痴なだけだろ」
「ねえ、アキラ……」
トレイを抱えたハルキが戻ってくる。
「お、どうした?」
「一平ちゃん、なかったんですけどっ!!」
「いや、何でお前、他人ん家のパントリー勝手に漁ってキレられるの!?」
ハルキはテーブルに人数分のUFOを置く。
「はぁ、仕方ないから、みんな今日はこれで我慢して」
「だからお前の倫理観どうなってんの!?」
携帯のアラームが鳴り、口直しのカップ焼きそばパーティが始まる。
「そういやハルキは昔っから一平ちゃん好きだよなぁ」
「うん、マヨビーム楽しすぎ」
「好きな理由が子供!」
「ハルキ、ワカリマス。
柔らかくドロドロに解れた麺へ、ぷぅんと香ばしく香る黒い液を塗し、ぐちゃぐちゃとかき混ぜ、最後、穢れのない器に濃くて甘酸っぱい白濁ソースをぶちまける
、フフ、タマリマセンヨネ?」「好きな理由がアダルト!」
「じゅるり、僕、もう一回探してくる!」
「今ので食欲増すな、性少年! つーか、諦めろ、俺ん家に一平ちゃんはねえ!」
「アキラの言う通りだ、諦め……こほん、ハルキ、アキラん家では諦めろ、アキ――もが」
アキラは肩で息をしながら、リクトの口を押える。
「リクト、これ以上は捌ききれない」
「お、おう、すまなかった」
テーブルから一歩も動いていないのに満身創痍である。
「アキラって難儀な性格だよねー」
「自分ノ家ナンダカラ、モットRelaxスレバイイデス」
「いや、半分以上、お前らのせいだからね!?」
二人がカップ麺を啜りながら楽しそうに笑う。
「もう最悪だよ。鍋は不味いし、部屋くせえし、疲れるし……ああ、彼女に癒されたい……いないけど」
「でも、アキラって女子から人気あるよ? アキラのLINE ID教えてって言われるし。断るけど」
「断んなよ! 教えとけよ!」
「ワタシモヨク聞カレマスネ。断リマスケド」
「何でお前も断んだよ!」
二人は目を合わせ、申し訳なさそうに言った。
「だって、ほら」「個人情報デスカラ」
「万全の情報セキュリティ!」
アキラは血の涙を流した。
「つーか、普通に聞いてくれればいいのに……」
「いや、いつも俺たちとつるんでるせいで声かける暇ないんだろ?」
「……俺、二学期になったらお前等と遊ぶの止めるわ」
こうしてアキラの夏は終わっていくのだった。