第90話 NOVEL DAYSヒストリア
文字数 1,771文字
歴史の蓄積と継承って言えば最近、明治維新についての本を読んで、そこに明治維新に対しての歴史観って大きく五つあると考えている、ってその著者が言ってて。面白いんだよ、これ。要するに官軍史観と占領軍史観、そしてそこに対抗する、自分で調べていた系の三つの史観を、そこでは挙げていてさ。
一つ目が薩長(官軍)史観。薩長がなければ日本の近代化はなかっただろうって考え。今の日本は薩長がつくったって奴で、例えばどこかの会社や、業界に入ると学閥ってのがある(出版業界にもあるみたいだよー)し、それと同様に「藩閥」って呼ばれるものが根強くある。嘘だと思うなら政治や行政、官僚のひとたちの出身地を調べてみると傾向があるのがわかるよ。
二つ目が占領軍史観。東京裁判が行われて、「日本の行為は総て悪だ」と宣告されて。歴史観としては「戦前の日本には見るべきものはまったくない。日本が良い国になったのは民主化したからだ。それを行ったのは占領軍だ。歴史にはなにも見るものがない」ってもの。一瞬、そんなひといるのか、というと、いる。僕はミュージアム系のお仕事をしているので、僕は本当にこの史観のひとたちがかなりいるのを知っている。
また、「戦前に見るものがない」というひとに「戦前とは?」と訊くと、「半封建的な軍事国家で民主化もなにも行われていない」って言う史観のひともいる。
三つ目。司馬遼太郎的な史観。僕の読んだ本では特に言及されてなかったけど、司馬の書いた小説は小説なので、かなり現実と違うことも書いている、という前提があるから、これは歴史観ではない、と歴史警察の方からは言われちゃいそう、というのを踏まえた上で。司馬は膨大な著書を残したけど、明治の元勲について詳しく描いたものはなくて、志し半ば倒れたひとたちの努力を追いかけたものが多い。それは、明治維新のときそれだけのエネルギーがあった、ってのを真っ正面から見る必要があったのではないか、ということだと読んだ本には書いてあった。
四つ目が、司馬以外の研究者たちのそれぞれの史観。
五つ目が「後世の現代から歴史を批判するのはたやすい」と釘を刺す考え方。帝国主義の行為が酷かったと後世からは言えるけど、帝国主義のひとたちはその枠組みの中でベストを尽くしていたので、その観点から言うと、歴史の各々の局面ではその時代を生きていた人々の生き様があって、それを正当に評価しないと未来への手がかりは得られないぜ、って史観。
……なにが言いたかったかというと、蓄積と継承の話って、多分にして今述べたような、どの立場から見るか、誰が見るかでまるっきり変わってしまうということを、念頭に置いて、っていう話で。
2022/05/19 12:57