嵐の予感 Ⅴ
文字数 1,556文字
エリューズから離れた原野は、朝方と夕刻になると熱気に満ちていた。
ガウェインは新たに得物とした大尖槍 の扱いを習熟するために、ラウドと修練に励んでいた。
地上と馬上での遣い方は違う。この日は馬上での訓練であった。
「だいぶ遣えるようになったな、ガウェイン」
額から流れる汗を拭ったラウドが、白い歯を見せて笑う。
「いや、まだまだです。」
馬の手綱を引いたガウェインは、大きく息をついた。
「今日はここまでだな。明日はベルナード公との正餐だ。やり過ぎるととんでもないことになるからな」
ラウドが声をあげて笑った。
地平線に陽が沈む。ガウェインとラウド、二人が並んで城まで駆けていく。
エレインのもとで兵として戦うと決めたガウェインは、ラウドのもとで訓練を積んでいた。ラウドの訓練は厳しいものだったが、ガウェインは着実に自分の力を高めていた。早朝にラウドと対峙し、武器の扱いを覚える。朝から夕刻まで軍の教練に加わり、夕刻にまたラウドと対峙する。そうして三日が経過していた。
城内へ戻ると、兵舎でエレインとイグレーヌ、ブラギがガウェインを待っていた。厩に軍馬を戻すと、ガウェインはエレインたちのもとへ駆け寄った。
「やっと戻ってきた。もう、毎日ぼろぼろになるまでやらなくてもいいのに」
エレインが頬を膨らませた。ガウェインは顔が熱くなるのを感じて、気まずそうに頭の後ろを掻いた。すると、後方から大声をあげて笑うラウドが現れた。
「男は汗にまみれて、ぼろぼろになって磨かれていくんですよ。エレイン様。どうです、ガウェイン、以前より男前になったでしょう」
ラウドがガウェインの肩を叩く。ガウェインとエレインが数秒、顔を見合わせる。どちらともなく耳まで赤くなり、眼を逸らす。その光景を、イグレーヌとブラギが微笑ましそうに見守っていた。
「そうだ、ガウェイン。明日はファルディオ様との正餐だから、ちゃんとした格好をしないと駄目だよ。ブラギが手配をしてくれて、新しい甲冑を頼んだの」
エレインが先導して、兵舎の練兵場に入る。そこには特注されたクロースアーマーと、装飾されたブリガンダイン、バイザー付のバシネットと、ガントレット、グリーブが揃っていた。ラウドがひゅう、と口笛を鳴らした。
「クロースアーマーは、ルウェーズ州国の西から取り寄せた、魔法糸を編んで作られたものだ。ブリガンダインは、オピオンの皮を加工し、(蛇の上級魔物。非常に硬い表皮を持ち、牙や目玉など、素材は高値で取引される)裏地はアダマントで出来ておる。ガントレットとグリーブも、一部アダマントを使っておるぞ」
甲冑の前に立ったエレインが、ブリガンダインをそっと撫でる。
「こういうのを見るのはちょっと怖いけど、でも、これなら何処へ行っても恥ずかしくないよね」
エレインが少し首を傾げて微笑む。どきん、と自分の心音が高鳴るのを、ガウェインは感じた。
「俺の装備より手が掛かってないか?」
顎に手を当てたラウドがぽつりと呟くと、イグレーヌが吹き出した。
「ガウェイン。とりあえず、身に付けてもらってよいかな?」
「はい」
ブラギが促すと、ガウェインが前へ出た。何の躊躇いもなく着ていた甲冑を脱いだガウェインを見て、エレインが頬を染めて背を向けた。
ガウェインが装着に手間取っていると、ラウドが近づいて、甲冑を身に付けるのを手伝った。すべて身に付けると、ガウェインは大きく腕を広げた。
「どうですか!」
振り向いたエレインが、感嘆の声をあげて拍手する。それにつられるようにして、イグレーヌやブラギも手を叩いた。
「なかなか映えるじゃないか、ガウェイン」
ラウドがぽんぽんと、背中を叩く。
「うん。かっこいいよ、ガウェイン」
満面の笑みのエレインを前にして、ガウェインの顔面がまた朱に染まっていた。
ガウェインは新たに得物とした
地上と馬上での遣い方は違う。この日は馬上での訓練であった。
「だいぶ遣えるようになったな、ガウェイン」
額から流れる汗を拭ったラウドが、白い歯を見せて笑う。
「いや、まだまだです。」
馬の手綱を引いたガウェインは、大きく息をついた。
「今日はここまでだな。明日はベルナード公との正餐だ。やり過ぎるととんでもないことになるからな」
ラウドが声をあげて笑った。
地平線に陽が沈む。ガウェインとラウド、二人が並んで城まで駆けていく。
エレインのもとで兵として戦うと決めたガウェインは、ラウドのもとで訓練を積んでいた。ラウドの訓練は厳しいものだったが、ガウェインは着実に自分の力を高めていた。早朝にラウドと対峙し、武器の扱いを覚える。朝から夕刻まで軍の教練に加わり、夕刻にまたラウドと対峙する。そうして三日が経過していた。
城内へ戻ると、兵舎でエレインとイグレーヌ、ブラギがガウェインを待っていた。厩に軍馬を戻すと、ガウェインはエレインたちのもとへ駆け寄った。
「やっと戻ってきた。もう、毎日ぼろぼろになるまでやらなくてもいいのに」
エレインが頬を膨らませた。ガウェインは顔が熱くなるのを感じて、気まずそうに頭の後ろを掻いた。すると、後方から大声をあげて笑うラウドが現れた。
「男は汗にまみれて、ぼろぼろになって磨かれていくんですよ。エレイン様。どうです、ガウェイン、以前より男前になったでしょう」
ラウドがガウェインの肩を叩く。ガウェインとエレインが数秒、顔を見合わせる。どちらともなく耳まで赤くなり、眼を逸らす。その光景を、イグレーヌとブラギが微笑ましそうに見守っていた。
「そうだ、ガウェイン。明日はファルディオ様との正餐だから、ちゃんとした格好をしないと駄目だよ。ブラギが手配をしてくれて、新しい甲冑を頼んだの」
エレインが先導して、兵舎の練兵場に入る。そこには特注されたクロースアーマーと、装飾されたブリガンダイン、バイザー付のバシネットと、ガントレット、グリーブが揃っていた。ラウドがひゅう、と口笛を鳴らした。
「クロースアーマーは、ルウェーズ州国の西から取り寄せた、魔法糸を編んで作られたものだ。ブリガンダインは、オピオンの皮を加工し、(蛇の上級魔物。非常に硬い表皮を持ち、牙や目玉など、素材は高値で取引される)裏地はアダマントで出来ておる。ガントレットとグリーブも、一部アダマントを使っておるぞ」
甲冑の前に立ったエレインが、ブリガンダインをそっと撫でる。
「こういうのを見るのはちょっと怖いけど、でも、これなら何処へ行っても恥ずかしくないよね」
エレインが少し首を傾げて微笑む。どきん、と自分の心音が高鳴るのを、ガウェインは感じた。
「俺の装備より手が掛かってないか?」
顎に手を当てたラウドがぽつりと呟くと、イグレーヌが吹き出した。
「ガウェイン。とりあえず、身に付けてもらってよいかな?」
「はい」
ブラギが促すと、ガウェインが前へ出た。何の躊躇いもなく着ていた甲冑を脱いだガウェインを見て、エレインが頬を染めて背を向けた。
ガウェインが装着に手間取っていると、ラウドが近づいて、甲冑を身に付けるのを手伝った。すべて身に付けると、ガウェインは大きく腕を広げた。
「どうですか!」
振り向いたエレインが、感嘆の声をあげて拍手する。それにつられるようにして、イグレーヌやブラギも手を叩いた。
「なかなか映えるじゃないか、ガウェイン」
ラウドがぽんぽんと、背中を叩く。
「うん。かっこいいよ、ガウェイン」
満面の笑みのエレインを前にして、ガウェインの顔面がまた朱に染まっていた。