10:状況終了につき撤収開始
文字数 1,216文字
沙雪さんがテントから出てからも、空は紅く染まったままでした。
暗い夜空の中にあって、その一部を塗り替えるほどに光り輝くそれが何なのかを、正確に理解できている人間がこの場にどれだけいたでしょうか。
ジン災とは、死んでしまった人間が残した感情が引き起こす災害です。
そんな不可思議な現象に対応できる人間もまた同様に、感情の表現によって災害に対応します。
人が死んで神になり、神のごとき人が治める災害。
ゆえに、人はこの災害のことをジン災と呼び。
それに対応できる人間のことを、感情の専門家――感情家と呼ぶのです。
サーニャちゃんはそう言うと、沙雪さんの横を通り抜けてテントの中へと入っていきました。
そして、
――こっちの仕事は終わったから、あとは全部そっちでやってちょうだいな!
あと、車を一台借りていくわよ?
……はあ? 帰るのに足が必要だからに決まってるでしょうが!
それともなに、送迎にわざわざ人を割くほど余裕があるっての!?
――無いんでしょうが! だったら文句言うんじゃないわよ!!
一方的にそう言い放つと、すぐにテントから出てきました。
その様子をなんともいえない様子で見ていた沙雪さんでしたが、サーニャちゃんがなによと言わんばかりの不満げな表情を浮かべたのをみて、ため息を吐いて表情を戻します。
そして、小言の代わりにそう言いました。
サーニャちゃんは沙雪さんの言葉を聞いて、心底嫌そうに表情を歪めてそう言いました。
だから、沙雪さんはこう応じました。
サーニャちゃんはそう言って沙雪さんに鍵を投げ渡すと、鼻歌を歌いながら歩き出しました。
沙雪さんはそんなサーニャちゃんと後ろにあるテントの間で一度だけ視線を往復させた後で、
誰にでもなく、呟くようにそう言ってから、サーニャちゃんの後を追うように歩き出しました。