第117話 確認

文字数 2,326文字

 ヨーレンは入口に立つ男に声を掛ける。

「工房長にお会いしたい。調査騎士団のディゼル団員とゴブリン殲滅ギルドのレイノス副隊長がご一緒だ。至急の報告があるんだ」

 声を掛けられた男はヨーレンとその後ろにいる二人を見る。物腰柔らかくにこやかだった男の表情から笑顔が消えた。

「承知いたしました。奥で少々お待ちください」

 男はその場を早足で離れていく。ヨーレンたちは出入り口の壁沿いに設置された椅子の付近で少しの間待った。

 ヨーレンが声を掛けた男が戻ってくる。

「工房長を呼びに人を向かわせました。お手数ですが奥の貴賓室でお待ちください」
「ありがとう。貴賓室の場所は知っているから後は私だけで大丈夫だよ
 それともう一つすまないが頼まれてくれないか。ユウトというゴブリンの姿をした男がモリード工房にいるはずなのだがその人物を大至急、貴賓室に呼んでもらいたい」
「承りました。直ちに向かいます」

 男はそうヨーレンに返事をすると外に出ていき、残された三人はヨーレンが先導して最奥の扉を抜け、廊下に出る。窓のない廊下には扉がいくつかあり、ヨーレンはそのうちで最も大きな扉を開けて中に入った。

 その部屋は暗かったがヨーレンが扉を抜けると同時に壁や天井に設置されていた魔術灯に光が灯り明るくなる。部屋の中央には広く長い机が置かれ、その周りには曲線が多用されたつやのある木製の椅子が整然と並んでいた。

 ヨーレンが片側の奥の椅子に座り、反対側の椅子にレイノス、ディゼルの順に座る。そしてヨーレンが口を開いた。

「まずはガラルド隊長のことについてお話いたします。
 昨日ガラルド隊長は停車場の広場にてユウトと決闘を行いました。立会人は私が勤めています」
「決闘だとッ?」

 レイノスは驚いたように目の前の机に手を置いて前傾の姿勢になる。

「どうしてそうなる?いや、それよりガラルドとユウトはどうなったんだ」
「はい。ガラルド隊長とユウト共に命に別条はありません。ただガラルド隊長はまだ眠りについています」
「意識は戻りそうなのか?」
「瀕死の重傷を負いましたがユウトの協力もあり、今は完全に治癒されています。使い切った魔力の回復に時間がかかっていますが遠からず意識は回復すると私は見込んでいます」

 ヨーレンは表情を変えることなく淡々と答えた。

 レイノスは飽きれるように大きなため息をついて頭を垂れる。

「そうなった経緯は説明できるか、ヨーレン?」
「ガラルド隊長の本心は測りかねます。ユウトによればガラルド隊長はこうする他に感情の落としどころがなかったのだろうと言っていました」
「ガラルド卿がそこまで極端な行動を起こすにはそれ相応の状況が必要になるはずだと思う。何があったんだ?」

 ディゼルがヨーレンに質問した。

 ヨーレンは「それは・・・」と発言を続けようとする。その時、貴賓室の扉が丁寧に開けられた。

「待たせてしまったな」

 開けられた扉からマレイが入ってくる。扉を閉め小柄ながら堂々とした歩みでずんずんと進み最奥の椅子に腰を下ろした。

「さて、と。それで?誰から話をするんだ」

 マレイはいたって平静に全員を見渡す。ヨーレンが意思を固めた強い瞳で目線を返した。

「では・・・私からお話します。これからお話しすることはガラルド隊長がユウトと決闘をするきっかけになったと考えられる内容です」

 そうヨーレンは前置きをしてガラルドと共に見てきた雨の屋敷での出来事を語り始める。一言一言を慎重に選びながらゆっくりとしたペースでヨーレンは語った。

 ゴブリンロードの存在、ハイゴブリンという新たなゴブリン種、生存していたレナとハイゴブリンの子供たち、ロードの申し出を受けることにしたユウト、その一つずつを丁寧に語るヨーレン。マレイ、レイノス、ディゼルは目立った反応することなく黙ったまま静かに聞いていた。

「・・・以上が昨日、ジヴァ師匠の屋敷での出来事です。今思えば話を切り上げたガラルド隊長の様子はその時からおかしかった気がします」

 話し終えたヨーレンはレイノスの方を注視する。レイノスは腕を組んで瞳を閉じたまま押し黙っていた。

「ヨーレンの話した内容に関連してると思われる調査騎士団からの調査報告があります。続けてもよろしいですか?」

 ディゼルがマレイにむけて発言の許可を求める。マレイは「構わない、報告してくれ」と顔色を変えることなく許可をした。

「はい。調査騎士団は現在、超大型の魔獣型魔物の存在を捉え監視しています。現在その魔物の動向は蛇行しつつもこの大工房へ接近を続けている状況です。対策は必須でしょう。一時的にでも大工房からの総避難も考えなければならない事態だと団長は考えております。
 ただ、これがこの不自然な超大型魔獣の動きがゴブリンロードを狙っている可能性は十分考えら、ヨーレンの話を裏付けるものだと考えます。私からは以上です」
「そうか」

 マレイは小さく返事をして口に手を当て考え込む。そして時間をおいて口を開いた。

「ヨーレン。そのゴブリンロードとやらは随分と用意周到に感じられる。この事態に対して何も考えていなかったとは思えない。ここに来るまでお前はユウトと共に一度、白灰の元に行ったのち昨日の魔物かどうかよくわからないへんてこなモノと戻ってきているな。何か進展があったんじゃないのか?」

 マレイの発言にもヨーレンは取り乱すことなく返答する。

「その通りです。ただそれには私の口からではなくユウト本人から伝えるべきだと考えます。現在、ここに来るよう伝えてもらっているのでもうすぐここにくると思われるのですが・・・」

 ヨーレンの発言は終わるかというときに扉が開かれる。扉を開けたのはヨーレンが伝言を頼んだ男だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み