ガクジくんの給食

文字数 916文字

 ああ・・・食べたくないなあ・・・

 僕は鮭のムニエルが嫌いなわけじゃないよ。
 でも、他の人の唾液は嫌いだよ。
 気持ち悪いもん。

 毎日僕の給食のトレーに乗ったおかずには、みんなが唾液を垂らしていく。

 そして、

「食えないんなら、死ね」

 って言って自分の席に戻っていく。

 同じクラスだから、ってだけでどうしてご飯まで一緒に食べないといけないんだろう。
 なんなら、小学校の敷地に入った時点でひとりひとり専用の通路があって自分の席まで誰にも会わずに行って、休み時間もブースみたいな自分の席でご飯食べて、授業が終わったら家に帰る。

 なんなら、家でWEBの授業で済ませられれば。

 そうすれば僕が自虐(じぎゃく)なんてあだ名で呼ばれることもなくって、この人たちのヨダレ入りの給食を食べるなんてこともないのに。

 だって、この人たちと僕の人生って、今までもこの後も、いじめ以外の関係って何もないのに。

 僕がムニエルに手をつけずにいるとさ、

「先生、コイツ残してるよ」

 って言うんだ。

 先生も人間だからさ、

「ほら、ガクジ! 残しちゃダメだぞ!」

 って、長いものに巻かれるんだ。知らないはずないのに。

 幼稚園の先生の方が小学校の先生よりも偉かったな。いじめなんか絶対許さないもん。

 唾液の匂いが一番臭いのは、遅火。次に臭いのが、南。
 僕は、こんな人たちのせいで死ぬのは嫌だからムニエルを食べたよ。

 ああ。

 物を普通に味わって食べられる人が羨ましいな。

 食べた瞬間はまだ平気さ。慣れてるからね。
 でも、食べ物が胃に届いたぐらいのタイミングで、遅火と南の唾液が吸収されて僕の血と肉の一部になるんだって思ったらさ。

 耐え切れないよ。

 だから、トレーを片付けたら、速攻でトイレに行くんだ。

 僕が歩けば後頭部をはたいたり延髄斬りしたりする人だらけだけどさ、この時だけは心の中で、

『どけどけどけどけどけ!』

 って叫んでトイレに駆け込むのさ。

 アイツらの顔が浮かんだらすぐに、

「オエエエエエェ!」

 って全部吐くんだ。給食を。

 だから、僕は痩せてる。
 ガリガリさ。

 こんなこと毎日やってるから胃酸の逆流でたぶん僕は食道ガンになるんじゃないかな。

 いいんだ。

 きっとそれが僕の寿命だから。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み