今日のヴァルムとビヒト

文字数 2,636文字

今日のヴァルムとビヒト
宅飲みで酔って絡み酒。最終的に気分を悪くし介抱された挙句抱き着いたまま寝落ちる。
#shindanmaker #今日の二人はなにしてる
https://shindanmaker.com/831289

こちらの診断メーカーで出た結果がぴったりだったのでSSに起こします。
端的にそれだけで目に見えるようなので、蛇足かもですがw
ユエとカエルの結婚式が終わった、その夜のできごと。

 ***

 パエニンスラの城の、ヴァルムの居室。本人はすっかりレモーラ村の邸宅に腰を落ち着けているが、この部屋は変わらずに保持されているようだ。めったに使われることのない寝具は綺麗に整えられたままで、部屋の主さえもホテルに泊まる時のように部屋の中を見渡している。

「ジョッキはなかったかな」
「まだ飲むのか?」
「祝いだぞ? 今日飲まんでいつ飲む」

 すっかり上機嫌で赤い顔をしているのは、珍しく酔っているからだと思うのだが。
 綺麗な部屋の中を、引き出しという引き出しを開けて

を探すヴァルムに呆れる。

「どうせ、注ぐのも面倒になるんじゃないのか?」

 そういうビヒトも少し眠気が来ていた。会場の樽ごと傾けて飲んでいたヴァルムほどではないが、ビヒトも注がれるままに、ついつい飲んでしまっている。祝い事だし、朝まで付き合うのも悪くはないのだが。
 何故気付かなかったのか、という顔をして振り向いたヴァルムが酒でぽっくりと……なんていうのは洒落にならない気がする。

「もう樽ごとはやめろよ。ペースを考えろ。歳なんだから」
「うるせぇ。お前さんももうじじぃじゃねーか。カエルレウムが嫁をもらったんだ。わしなどいつおっ死んでもいいわ」

 どこから出したのか、酒瓶をビヒトに一本二本と投げてよこす。
 ラベルのないもの、見たことのないどろりとした白いもの。きつい火酒も混じっていて、受け取ってはテーブルに並べながらも変な笑いが出る。

「おい。今からさらに強いの入れるつもりか?」

 ヴァルムはすでに一本を傾けながらビヒトの隣にどっかりと腰を落とした。座面がそちらに傾いて、ヴァルムが女の肩を抱くようにビヒトと肩を組む。

「んにゃ。忘れとったな。お前さんも独り身だ。それはイカン。飲め」

 今、自分の口から離した瓶をビヒトに突きつける。ビヒトの話はさっぱり聞いていないようだ。
 仕方なく受け取って傾ければ、飲んだことのない味がした。キリリと辛く、のど越しはスッキリ。海のものと相性が良さそうだ。が、生憎つまみはない。

「うまいな」
「だろう?」

 ニッカと笑う赤ら顔は皺だらけだけれど、どこか少年のようでもあり、何物にも囚われない生き方には、憤りもありつつ、そのままいて欲しくもある。

「お前さんも肩の荷が下りただろう? どんな嫁がいい? 料理上手か? 年上? 年下? 床上手もええな」

 コツコツと頭を寄せながら、下品な笑いを漏らす。

「年上とか、未亡人でも探すつもりか?」
「いたじゃねぇか、ほら、あれは……どこの街だったか。おめえさんを初めて連れて行った、あの娼婦。お気に入りだったろう?」
「なんでそんなこと知ってるんだ! ヴァルムとは一度一緒したきりだろう?!」
「シシシ。別の時に訪ねた時、文句言われたからな。わしに似て、薄情だとよ! 失礼な! わしは情は深いゾ!」

 別の瓶を適当に引っ掴んで、口を開けるのももどかしそうにして、喉の奥へ流し込んでいく。思わずこぼれたため息に、ヴァルムは酒臭い顔を寄せた。

「飲めって」
「飲んでる」
「飲んどらん」
「飲んでるって」
「ヒゲなどくっつけてエラそうに」

 座った目で手を伸ばされたので、払いのける。

「絡むなよ。酒は楽しく飲め」
「そういうところだ! 全く、お前さんは薄情だ!」
「いや。意味が解らん」

 暴れ出したら手の付けられない酔っ払いにここまで付き合うのだから、絶対に薄情ではない。
 上を向いて瓶をまた一本空にするヴァルムの肩を軽く叩いて諫める。

「薄情なら、カエルレウムを置いてもう出て行ってるだろう? あそこまで育てた俺を少しは褒めろよ」
「結婚できたのは、嬢ちゃんのおかげじゃねーか」
「急にもっともなこと言わないでくれ」
「ケケケ……ヒック……うぷ……」

 今さっきまで赤かったヴァルムの顔が、ふいに青褪めた。

「おい。だから、ペースを考えろって」

 太い指がビヒトの服を握りこんで引き寄せる。うつむいた顔が胸元に向けられて、ビヒトはその頭を慌てて押し返す。

「お、まっ……やめろ! 言わんこっちゃない!! 待て!!」
「ふ……ふふふ…………んな、もったいねぇ……こと……」

 ビヒトは巨体を抱えて引きずるようにトイレまで連れ込んだ。火事場のバカ力とはよくいうものだ。

「ほら、好きなだけ出せ」

 ヴァルムを放り出したけれど、酔っ払いは便座を抱え込みつつ、子供のようにいやいやをした。

「もったいねぇ」
「部屋を汚す可能性があるんだから、気分良くなるまでそこにいろ」

 言い放って離れようとしたビヒトの裾を掴んで、ヴァルムはにへら、と彼を見上げた。

「酒、持ってきてくれ。ここで飲みゃあいいんだ」
「あ ほ か」

 ぶちっとどこか切れた音がして、気付けばビヒトはヴァルムの頭を引っ掴んで、その喉の奥に指を突っ込んでいた。
 噴水か浴場の湯の出口のように、酒だけが出てくる。
 冷たくそれを見下ろしながらも、一応背はさすってやるビヒトだった。

 ***

 そのまま放っておいても良かったのだが、吐き疲れてぐったりしているのは少し忍びなく(トイレに巨体が居座られるのも邪魔だったのだが)、連れて行く時よりは幾分苦労してベッドまで連れ戻す。
 「……さけ……」などとうわごとのように伸ばす手は問答無用で叩き落した。
 一緒に転がるようにしてベッドに横たえ、やれやれと身を起こそうとした後ろから、抱きつかれる。

「……おぃ! 放せ!」
「……よかった、なぁ……」
「は?」
「わしも、こうして寝てやることは出来なんだ……嬢ちゃん、ありがとう……」

 もう夢うつつなのか、ヴァルムの言葉はどこに向けられているのかわからない。子供のように頭を擦り付ける仕草も、傍から見れば気持ち悪いかもしれないが、他に誰もいない。
 ビヒトだって、その気持ちが解るだけに無理に引き剥がすのも気が引けた。
 まったく、と口の中でだけ呟いて、疲れたなと目を閉じるのだった。



 翌朝。
 ビヒトが目覚めた時、すでに酒瓶を傾けていたヴァルムの頭にこぶしが落ちたのは、言うまでもないこと。
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