第2話

文字数 596文字

「抜けてるからなあ、羽夕(はゆ)は」と動揺を悟られないように、わざとのんびり言う。

「だって暴投をカバーするのは、キミの役目でしょ? キャッチャーさん」

 そう言いながら、高校の野球部規定の短髪を「ツンツンだね」とふざけて触り、いたずらな目をして僕を見上げてくる。
 鼓動が速くなる。イレギュラーじゃなくて、千本ノックみたいなドキドキが飛んできた。

 つかんだままだった彼女の腕を、離すべきか引き寄せるべきか迷う。彼女のことはなんでも知っているのに、気持ちだけが見えない。

僕たちの間に生まれた、かすかな緊張を破るように、ひゅーっと甲高い音がした。見上げると、遠くの方で小さな光の玉がゆらゆらと空に上がり、パラパラっと音をたてて花とも言えないような火花を散らした。

 さっき見た花火大会の夜空を彩る大輪の花とは大違いだ。でも、なんだか悪くない。花火大会の楽しさを引き延ばしているような悪あがき。名残惜しい感じを見知らぬ誰かと共有しているような気がしてくすぐったい。

「花火大会が終わった後に普通の花火をやってるのって、変だけど……」と言いかけると、「うん、でも、いいよね」と彼女が続けた。

 羽夕を好きだという気持ちは、気が付いたら体にしみ込んでいたから、どこが好きかなんてもうわからない。だけど僕がいいなと思ったものをイイね、と感じてくれる、こんな瞬間が好きなのは確かだ。そしてその度、僕は彼女をもっと好きになる。
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