第62話  守る側の人間

エピソード文字数 3,378文字


 ※



 さて。竜王さんが店内にいる間、休憩時間になった俺は更衣室でスマホと睨めっこしていた。



 そういえば王二朗くんに報告するのはどうなのだろうか。


 だが電話で話す訳にはいかない。声が違うからな。    

 

 なのでSNSで連絡を取ろうと、王二朗くんの番号をクリックしようと思ったが、ここで俺は思いとどまった。



 よくよく考えてみれば「蓮で、この場所に竜王さんがいる」という情報が何処から出てきたのかを問われると、いい訳に苦しいぞ。


 もう少しで送信しそうになったが、急遽中止した。




 まぁ待て。王二朗くんは「危険だ」とは言うものの、俺は彼女がどのくらいヤバいのか見ていないだけに、ここまで警戒するのもどうかと思った。


 それに、白竹さんをマークしているのならば、彼女に危険は及ばないだろう。なんせここは彼女の家だし、二人きりになれるタイミングが無いからな。


待てよ……そういえば


 さっき白竹さんも言っていたが、もし楓蓮に興味を持ったとしたら……



 そっちの方が良くないか?


 

 俺を付け回すようになれば、態々白竹さんをボディガードする必要もなくなるかもしれない。

 そう思うと俄然やる気になってしまった。




 そうだ。俺が囮になりゃいいんだ。

 そうする事で、白竹さんは安全じゃねーか! 


 そして本当にストーカー紛いの行動に出れば、それを俺が叩き潰せば済む話だろ。



 この作戦を思いついた俺は即座に行動開始する。   


 休憩を終えた俺は、早速竜王さんに近寄ると、愛想笑いを発動しつつ、にこやかに受け答えしていた。


楓蓮さんって、どこから通ってるんですか? 結構近所?

すぐそこに親戚の家があって十分もかからない場所ですよ。

実家はもっと遠いんですけどね

 楓蓮は一応「黒澤家の親戚」という設定だからな。こういう言い方をするのが正しい。
楓蓮さん……どうして彼女に接近するの?
楓蓮さん。レジお願いします
? はぁい~~

 白竹さんの指示に従う俺だったが、今度は白竹さんが竜王さんと喋っているぞ。


 あぁ。あまり彼女には竜王さんと接点を持たせたくないのだが……


 

 そう思っているとレジを終えた俺の横に来るのは紫苑さんだ。

今のは……別に自分で行けばえーのに
確かにそんな感じでしたよね。態々俺を呼ぶ意味が無いというか……
 そんな謎采配をした白竹さんだったが……俺と紫苑さんの手を引っ張って、更衣室まで連れて来られてしまった。
あの、楓蓮さん。紫苑さんもちょっと聞いて欲しい
 真剣な白竹さんに、俺は紫苑さんと目を合わせるのだった。
と言う訳で、ちょっとヤバい子かもしれない。だから……気をつけて欲しいんです
 白竹さんは俺にもう一度同じ内容を聞かせると、紫苑さんにも伝える。そして先程から竜王さんと喋っている俺にも「あまり愛想良くしないで欲しい」とお願いされる。
わ、分かった。あんま近寄らんようにするわ
 紫苑さんが納得すると、白竹さんは俺にもう一度「お願いします」と頭を下げるのだった。
大丈夫ですよ。そんな奴は私がやっつけますから
え?

 これには白竹さんも紫苑さんも驚いていた。

 まさか俺がそんな風に言うとは思わなかったのだろうか。



 あぁ~~すっかり忘れていたぜ。


 そう言えば、彼女達の前では、俺って普通の女の子にみえてたのかもしれない。


 俺にバイオレンス耐性があるのを知ってるのは龍子さんだけだ。


ダメです。スタンガンも持ってるって聞いたし、それが本当なら、本当に取り返しのつかない事になってしまうかも
マジ? それはアカン奴や!

 白竹さん。   

 必死に俺を宥めようとするのはいいんですけど……


 今日の彼女には違和感がありすぎる。

 とてもじゃないが同一人物とは思えない。

気をつけてください。

帰りとか。もし彼女が待ってるようだったら、私が家までお送りしますから

……あなたが俺を家に送る。だと?


 強烈な違和感は、やがて疑念へと変化してゆく。


 姿形は一緒でも、ここまで違うと、そう疑問を持たざるを得なくなってきた。



 ※



 そして閉店時間まで粘った竜王さんは愛想よく「また来ます~」と言い残し喫茶店から出て行くと、白竹さんはここでも念を押すように俺達を説得する。


まぁ。これで店の外で待ってたらマジでヤバい子やけどな
そうですね。流石に帰ってるでしょ
 竜王さんの話題はそこで終わり、紫苑さんとわんちゃんの話で盛り上がっていると、あっという間に十時になってしまった。
一回お給料貰ってから、坂田さんにはお話しますね。ペットを飼うのに何も無しだと……

そやな。じゃーさおりんにも言うとくわ。

その内マジョリーナちゃんと一緒に散歩しよっ

うんうん! 是非お願いします!

 メイド服を脱いで、タイムカードを押し、白竹さん一家に挨拶する。


 そして紫苑さんと一緒に喫茶店のドアを開けると……二人は同時に溜息を吐いた。

ほら。おらへんし。

ってかみゅーちゃんが脅かすからやで! もお~~!

 もしかして。そう思ったが大丈夫みたいだな。


 一緒に出てきた白竹さんは周りを伺ってから、俺達にもう一度注意する。

気をつけて帰ってくださいね

 やたら俺達を心配してくれる白竹さんは、そう言い残し喫茶店の中へ入っていく。


 バタンとドアの閉まる音がしてから紫苑さんと仲良く歩き出した。


 ※

まぁでもストーカーとか。マジで困りますよねほんま。
喫茶店は可愛い子ばかりですからね。そーいう人に目を付けられるのもわかりますが、まさか女の子って……

楓蓮さんも気ぃつけてな。

そーいう危ない話。なんならウチに相談してくれてもかまへんで。

 紫苑さんは親指を立ててグっとしてくれる。何だかやたらドヤ顔になってしまったぞ。


 その後に、急に眉尻を下げたと思えば「あんまり言いたくないんやけど」と前置きしてから、遠慮がちに答える。

ウチな……あんま言わんといてほしいんやけど。


この地域じゃ名の知れたヤーさん組織の一人娘なんよ。

マジですか?
ヤーさんの娘なんて……凄い汚点やと思うし、自分でも嫌やねんけど。

 流石に驚いた。今までそんな雰囲気も全然無かっただけに……

 

 学校でも喫茶店でも超明るい、やたら出来た先輩だったと思ったが、そんな家系の一人娘だったとは。

ほんまはこの事、人に話すん好きじゃないんやけどな、だけど……


もし楓蓮さんが、ソッチ方面に困ったことがあればいつでも相談に乗るから。

 そうは言うものの、やたらと落ち込む紫苑さんだった。

 なんとなく、言うのも躊躇ってた感じもしたし、正直に自分のことを伝えて後悔しているような気がした。

ありがとう紫苑さん。もし何かあれば相談させてくださいね

あの、変に思わんとって欲しい……

ほんまは組の人間なんか大嫌いなんやけど。やけど……楓蓮さんが……

分かってます。親がそうだからって……私は全然平気ですから

ありがとぉ楓蓮さん! 正直引くかなって思ってしもて……


何かあったらウチかて親父に言うて組員動かせるし、そんなストーカー紛いのアホなんか蹴散らしてくれるから

 そっか。紫苑さんはそーいう家系の一人娘なんですね。



 そっかそっか。それなら今の状況を言わなくて正解だなこりゃ。

あれ? 楓蓮さん? 家ってこの辺じゃなかったっけ?

 確かに。そこに見えてるマンションなんですけど。


 だが、このまま帰るわけにはいかない。

あっ! そうだ! 紫苑さん。ちょっとお願いがあるんですけど
え? どしたん? 急に
あの……ちょこっとだけマジョリーナちゃんを見たいなぁと思って

んまっ! ええでええで! 全然見に来てや!


やけどさ、家がちょっと極道の屋敷っぽいのは許してな

 と言う訳で、俺は家に帰らず、紫苑さんの家へと向かう。


 一応華凛にも「少し遅くなる」とラインすると、俺は真っ黒な空に溜息を吐いた。

 このまま紫苑さんを一人で家に帰らすことは出来ない。


 なぜなら。さっきからずっと……俺達の後をつけてる奴がいるんだよ。



 尾行されているのを紫苑さんに言えば、本当に組員を呼んで俺を護衛してくれるかもしれないが、そういうのは苦手でな。面倒事は言わない方が正解だろ。



 ただしそれは、その人を頼らず、処理できる能力が必要だと付け加えておく。


 つまり俺は、一人でどうにか出来る。その自信と実力がある。


 とりあえず。紫苑さんを家に送り届けてからだ。

 

 その後は……煮るなり焼くなり、俺の好きにやらせてもらおうか。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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