タルト・タタン

文字数 1,919文字

 日本において、リンゴを使ったお菓子といえばアップルパイ
 もしかすると、それ以外は思いつかないのでは? というほど圧倒的である
 ここまで言い切っておいて、ふと、リンゴ飴の存在を思い出してしまったけども……あれは〝お菓子〟ではなくて〝おやつ〟ということで
 
 基本的に日本のリンゴは単体で充分に甘くて美味しいです
 それに加えて、常温でそこそこ日持ちもします
 となれば、当たり前ですが加工される機会には恵まれません
 焼いてもジャムにしてもコンポートにしても――生食にはどうも勝てそうにない
 
 そんな中、リンゴの季節になると果敢にもパティスリーに並ぶ商品があります
 それがタルト・タタン
 見た目はほぼ茶色で華やかさの欠片もありませんが、立派なフランス生まれのお菓子です
 
 構成としては単純で、使われているのはバターと砂糖でカラメル状に火を通したリンゴと、パイ生地だけ
 通常のタルトと違って、

パイ生地を被せて焼くという特徴を持っています
 それによって、オーブンの中でリンゴがカラメル状になっていき――焼き上がりをひっくり返すと、表面が飴がけのようにツヤツヤしていて、見るからに美味しそうに仕上がるのです
 この熱々のタルト・タタンに、冷たいアイスクリームを添えて食べるのが至高の逸品
 
 このタルト・タタンですが、面白い逸話があるからか、一般知名度の割に漫画や小説などではたびたび登場するのを見かけます
 ――いわゆる、災い転じて福となる
 そう、これは失敗から生まれたお菓子なのです(クレープシュゼットもそうなんだけど、あまり言われない)

 時は19世紀後半、季節は秋冬、場所はフランスのオルレアン
 ラモット・ブーブロンという、町ならぬ村にある小さな旅宿(ホテル)に二人の姉妹がいました
 料理担当のステファニー・タタンと給仕担当のカロリーヌ・タタン(40~50代のマダム姉妹です)
 どうやら、この地方は狩りのシーズン(ジビエの季節)になると、とても忙しくなるようで、二人はてんてこ舞いで働いておりました
 
 ――そんなある日、

が起きてしまう
 
 そのうっかりは諸説あるようで――

1、本来は型にパイ生地を敷いてから、バターと砂糖で炒めた(ソテー)したリンゴを入れるはずが逆になってしまった(途中で気付いて、慌ててパイ生地を被せて焼成した)

2、コースの途中でアップルパイ(デセール)を作り忘れていたことに気付いて、作業と時間を短縮した結果(型にリンゴを敷いてオーブンに入れれば、その間にパイ生地を伸ばせる)

3、鍋でリンゴをソテーし過ぎて、焦がしてしまった(これ以上、火が通らないようにパイ生地を被せてオーブンに入れた)
 
 個人的には、2と3の合わせ技かなぁ~と思ったり(急いでいたから、リンゴを焦がしてしまった)
 理由としては、タルト・タタンが本来は温かいお菓子だということ
 1だと、温かいまま出す理由が見当たらない――と思いきや、アップルパイも焼きたてを出す予定だったら、あり得なくもないという……

 ちなみに、焼成したお菓子をひっくり返して供するのはランヴェルセと言って、フランスでは既に存在していました
 わかりやすい例だと、プッチンプリンです(正式にはクレーム・ランヴェルセ)

 さて、このタルト・タタン――というか、タタン姉妹が働いていたホテルは現在でも残っているようです

――HOTEL(オテル) TATIN(タタン)

 ラモット・ブーブロンの町は田舎で、観光名所もないようですが本場のタルト・タタンを食べに、日本人もよくやってくるみたいです(ホテルも小さく、14部屋しかない様子?)
 まぁ、オルレアンといえばジャンヌダルクの聖地でもありますので、そのついでかもしれませんが
 私もいつか、本場のタルト・タタンを食べてみたいものです
 勿論、紅茶を合わせて――

 というわけで、どの紅茶がいいかを考えてみましょう
 このタルト・タタンは酸味の強いリンゴ(日本だと紅玉)が使われますので、飴がけになっているものの、酸っぱさが感じられます
 ですので、嫌いな人もいるでしょうがミルクティーとの相性は抜群
 だから、私としてはアッサムやブレンドで淹れた濃いミルクティーと一緒にいただきたい
 けど、ウバは駄目
 口に入れたあとに残る特徴的な渋味が、リンゴの心地よい酸味を邪魔するような気がするから

 ストレートならディンブラやキームン、ニルギリ
 この辺りはもはや鉄板です
 フレーバーティーだとやっぱりリンゴ 
 アップルティーは多くのブランドでも扱っているから、容易く手に入れられるのが嬉しい
 中でも、フランスのフォションが有名ですね

※タルト・タタンはリンゴのお菓子ということで、秋~冬にかけて扱うお店が増えていきます
 
 
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