第十二話 戦争準備
文字数 1,717文字
池袋からの剣呑 な伝令を受けたのが、俺で良かった。上野のハンドラー・立堀 淳 は心からそう思った。
体中に鳥肌が立っている。時間的にギリギリだった。上野地区のハンドラー全員を探し出すのはたいへんだった。幸運だったのは、同じくハンドラーとなったアサクサエリアの従姉妹の薫 が早々に告白してきてくれたことだった。柔道の天才少女である薫は、同じく卓球のトッププレイヤーである立堀が選ばれたのではと考えたのだった。薫、お前、最高に勘がいいぞ、と立堀は絶賛した。
上野地区は、大きく言うと、上野とアサクサに分かれている。二人は互いに友人を総動員して、それぞれの地域の学校に大きく網をかけた。ハンドラーを割り出し、連絡をとるためだ。
「クルセード・ロワイヤルに関する重要な情報がある。ハンドラーは連絡をくれ。身元は明かさなくてもよいから」と、喧伝してもらった。
ある学校では校内放送で、ある学校では下駄箱にポスターを貼った。
立堀と薫は、本来ライバルであるハンドラーたちの電話を、切迫した思いで待ち構えた。頼む、連絡してくれ…と立堀は祈り続けた。
「大丈夫、きっと連絡してくるよ」
立堀よりも一回り体格が大きい薫が、立堀の肩を叩いた。
ほとんどのハンドラーたちは、孤独で不安である。
ことに、他地区で敗北したハンドラーが「消滅」したという噂を耳にし、様子をうかがって隠れている者がほとんどだった。
喧伝作戦の結果はその夜、出た。薫の言う通り。3人のハンドラーたちが恐る恐る、立堀の家の電話を鳴らすことになったのだ。
一人目は山口というレスリングを得意とする少年だった。
「なんで電話してくれたの?」と尋ねた立堀に、
「真っ向勝負を逃げないプロレスラーになりたい。擬体があればそれができる。今の俺は無敵だ」
と素っ頓狂なことを答えた。ちょっとおばかなのかもしれない、と立堀は思った。
二人目はなかなか名乗らなかった。
「まずは話してみてよ。罠じゃないことを証明してほしい」
真意を理解してようやく明かしてくれたのは、山影 という名と、「たぶん小学生の中で一番走るのが速い」という簡単なプロフィールだった。
「擬体はさらに10倍速いよ」
三人目は百田 。バドミントンの地区代表。犯罪者に遭遇してケガをしたが、劇的な復活をして大会に優勝したという記事をどこかで読んだ記憶があった。
「卓球の立堀くんでしょ、知ってるよ。君の卓球のスマッシュより、俺のシャトルのほうが速いぜ」
シャトルは減速するからな、と立堀は思ったが、黙っていた。今は張り合ってる場合じゃない。
立堀は彼らにそれぞれ、迫っている危機について説明した。池袋の「暴君」が皆殺しに来ること。彼らはハンドラー候補をしらみつぶしに襲うから、隠れられないこと。こちらも分散していると、勝ち目がないぞ、と。
反応はまちまちだったが、立堀の提案に乗らないと別の地区にリンチされて消されるかもしれない、ということは伝わった様子だった。
5人は揃った。池袋は6人全員で来る。あと一人、あと一人にも協力してもらわなければ。立堀は天を仰ぐ。あと一人、どこの誰だ…。
「たぶん、あの子だと思う」薫が言った。
「すっごいなんでもできる子で…。うちの学校にも何人も追っかけがいるの。アサクサでは『王子』って呼ばれてる」
薫が小学校のツテをたどって『王子』の電話番号を探る。番号は4人目で見つかった。
プルルル…。数コールの後、親が出た。
「ひかるくん、いますか」
しばらくして受話器に出た『王子』こと結月 輝 は面倒そうに言った。
「だれ」
「上野地区のハンドラー、立堀だ。君も、選ばれただろう?」
「…どうしてそう思う?」
「勘」
「…。だったらどうする?襲いに来る?」
立堀はふう、と息を吐いた。6人目発見。
上野防衛戦だ、と立堀は言った。まとまって戦わないと勝ち目がない。来てくれ、と。
ひとしきり作戦を説明すると、王子は
「僕は一人でも戦える」
とそっけなく言った。
「でも、少し面白そうだから、行くよ」
戦力になってくれるだろうか。立堀は心配になった。
「明日の昼過ぎ、駅前のオイオイデパートの最上階に来てくれ。頼むぜ」
電話は切れた。立堀は独りごちた。
チームには必ず一人、非協力的なやつがいるものなんだよな。
体中に鳥肌が立っている。時間的にギリギリだった。上野地区のハンドラー全員を探し出すのはたいへんだった。幸運だったのは、同じくハンドラーとなったアサクサエリアの従姉妹の
上野地区は、大きく言うと、上野とアサクサに分かれている。二人は互いに友人を総動員して、それぞれの地域の学校に大きく網をかけた。ハンドラーを割り出し、連絡をとるためだ。
「クルセード・ロワイヤルに関する重要な情報がある。ハンドラーは連絡をくれ。身元は明かさなくてもよいから」と、喧伝してもらった。
ある学校では校内放送で、ある学校では下駄箱にポスターを貼った。
立堀と薫は、本来ライバルであるハンドラーたちの電話を、切迫した思いで待ち構えた。頼む、連絡してくれ…と立堀は祈り続けた。
「大丈夫、きっと連絡してくるよ」
立堀よりも一回り体格が大きい薫が、立堀の肩を叩いた。
ほとんどのハンドラーたちは、孤独で不安である。
ことに、他地区で敗北したハンドラーが「消滅」したという噂を耳にし、様子をうかがって隠れている者がほとんどだった。
喧伝作戦の結果はその夜、出た。薫の言う通り。3人のハンドラーたちが恐る恐る、立堀の家の電話を鳴らすことになったのだ。
一人目は山口というレスリングを得意とする少年だった。
「なんで電話してくれたの?」と尋ねた立堀に、
「真っ向勝負を逃げないプロレスラーになりたい。擬体があればそれができる。今の俺は無敵だ」
と素っ頓狂なことを答えた。ちょっとおばかなのかもしれない、と立堀は思った。
二人目はなかなか名乗らなかった。
「まずは話してみてよ。罠じゃないことを証明してほしい」
真意を理解してようやく明かしてくれたのは、
「擬体はさらに10倍速いよ」
三人目は
「卓球の立堀くんでしょ、知ってるよ。君の卓球のスマッシュより、俺のシャトルのほうが速いぜ」
シャトルは減速するからな、と立堀は思ったが、黙っていた。今は張り合ってる場合じゃない。
立堀は彼らにそれぞれ、迫っている危機について説明した。池袋の「暴君」が皆殺しに来ること。彼らはハンドラー候補をしらみつぶしに襲うから、隠れられないこと。こちらも分散していると、勝ち目がないぞ、と。
反応はまちまちだったが、立堀の提案に乗らないと別の地区にリンチされて消されるかもしれない、ということは伝わった様子だった。
5人は揃った。池袋は6人全員で来る。あと一人、あと一人にも協力してもらわなければ。立堀は天を仰ぐ。あと一人、どこの誰だ…。
「たぶん、あの子だと思う」薫が言った。
「すっごいなんでもできる子で…。うちの学校にも何人も追っかけがいるの。アサクサでは『王子』って呼ばれてる」
薫が小学校のツテをたどって『王子』の電話番号を探る。番号は4人目で見つかった。
プルルル…。数コールの後、親が出た。
「ひかるくん、いますか」
しばらくして受話器に出た『王子』こと
「だれ」
「上野地区のハンドラー、立堀だ。君も、選ばれただろう?」
「…どうしてそう思う?」
「勘」
「…。だったらどうする?襲いに来る?」
立堀はふう、と息を吐いた。6人目発見。
上野防衛戦だ、と立堀は言った。まとまって戦わないと勝ち目がない。来てくれ、と。
ひとしきり作戦を説明すると、王子は
「僕は一人でも戦える」
とそっけなく言った。
「でも、少し面白そうだから、行くよ」
戦力になってくれるだろうか。立堀は心配になった。
「明日の昼過ぎ、駅前のオイオイデパートの最上階に来てくれ。頼むぜ」
電話は切れた。立堀は独りごちた。
チームには必ず一人、非協力的なやつがいるものなんだよな。