09.冒険センター

文字数 2,590文字

 異世界生活2日目、怜央は朝6時に鳴る鐘の音で目が覚めた。
それは中央噴水広場脇にある大鐘楼から発せられたものだ。
耳元でなるアラームよりはるかに健全である。

 他のメンバーの布団にも動きがあり、一日の始まりを予感させた。


◆◇◆


 朝の準備を済ませ朝食を食べ終わった皆にコバートは指示を出した。

「じゃあ皆、スマホを出してくれ。初期アプリに剣と盾のアイコンのやつがあると思うんだがそれを開いて。さっきパーティの申し込みをやっといたから参加してくれ」

 皆はスマホをいじり、コバートの言われた通りに操作する。
アリータは慣れてないようで苦戦していたが、怜央は現代生活で慣れていたため比較的容易だった。
コバートがレクチャーして皆の参加が完了すると移動を促した。

「よっしゃ! それじゃ少し移動するぜ」
「あそこか? 昨日行かなかった冒険センター」
「そう! 朝の散歩には丁度いい距離さ」

 低血圧のアリータはゲンナリしていたが、他の皆の後をついて冒険センターへと向かうことになった。


◆◇◆


「しかしお前ら、改めて確認するけど本当にそれだけでいいのか?」

 コバートの言うそれだけとは装備のことである。
コバートに関しては戦闘用の弓にナイフ、その他ポーションなどを幾つか持参していたのだが、他の皆にはそれが見られなかった。

 テミスと怜央に関してはパッと見丸腰。
何ら特別な装備をしている様子もなかった。

 アリータに関しては手乗りサイズの洋風ランプを腰につけていたが、それだけといえばそれだけ。
コバートが心配に思うのも無理の無いことだった。

「これだけあれば十分よ。他に何も要らないわ」

 アリータは腰のランプを突き出し尊大な態度を取る。
それは自信の顕れかもしれない。

「私もよ」
「俺も」

 コバートはジトーっとした目で皆を見た。

「本当に、頼むぜ皆……」

 確証は無いが皆の自信に押されたコバートは冒険センターへと入っていった。
皆も後に続いて入っていく。
 そこには幾つもの受け付けカウンターが並んでおり、休日の朝にも関わらず大勢の人で賑わいを見せていた。

「うわ、結構人いるなー」

 人混みが好きでない怜央はげんなりとする。
テミスもあまり好きでないのか、服に付いたフードを被った。

「そりゃなー。ここはいつでも賑わってんよ。金目当てじゃなく冒険が好きだってやつも多いしな」
「そんなことどうでもいいから早くしてよ」
「そう急くなってツン子。今行くからよ。――皆ちょっとここで待っててくれ。手続きしてくる」

 コバートは一人受け付けへ行って事務員と何か話しているようだった。
その間することの無い3人は無言で待機している。
 怜央は流石に何か言った方がいいかと思い思案を重ねた。

「なあ、アリータ」
「……なによ」
「アリータって何歳なんだ?」

 ずっと気になっていたことを、この機会に尋ねる怜央。
明らかに郡を抜いて幼いアリータに、飛び級で来たのかとか、普通に何歳だろうという疑問だ。

「レディにそれ聞くかしら? これだから地味男はダメなのよ! 」
「え……ごめん」
「……まあ別に隠すようなことでもないからいいわ。 私は25よ」
「……は? いや、えっ? ――えっ?」
「怜央は気づかなかったの? ベルちゃんは吸血鬼よ」

 アリータ・フォン・ベルナロッテが吸血鬼だと、この時気づいてなかったのは怜央だけだった。
しかし吸血鬼であることを聞いた途端、怜央の中のあるピースが次々はまっていく。
背が小さいこと、微妙に歳喰ってること、そして紅い瞳だったこと。
それら全てに納得がいき、謎の爽快感が訪れる。

「あー、なーる。そう言われるとそんな気がする」

 アリータは溜息をついて、「こいつ大丈夫?」という反応をした。
気づけば手続きを済ませたコバートがこちらの方へと戻ってきた。

「今回取ってきた依頼は討伐系だ。さっきのアプリで起動して見てくれ。詳細が載ってる」

 コバートはスマホをかかげ、ふりふりしている。
各自がスマホで確認すると、そこにはこう書かれていた。

――――――

【武装ゴブリン退治】
・依頼類別/討伐
・達成条件/ゴブリン×40の討伐
・階級制限/グリーン以下
・時間制限/無
・目的地/カンテレ村付近
・文明度/★★☆☆☆☆☆☆☆☆
・依頼人/カンテレ村村長 テラルテ
・報酬/50万ペグ

備考
新入生にお勧めの依頼。
ただし、討伐対象の数が多いためパーティー推奨。

――――――


 上記の文言に加え、対象ゴブリンの写真、周囲の地図、依頼者の正確な所在地などが写真という形で載っていた。


「うわー。これ便利すぎない? すごいな」
「あくまで学園の目的は育成なんだろうよ。採算度外視じゃなけりゃここまでできないさ」
「何よこれ。こんな華のない仕事なんか取ってきて、所詮田舎者のチャラエルフというとこね」
「面白ければ何でもいいわ。さっさと行きましょ」
「ああよ。んじゃ、こっちきてくれ」

 コバートが導いたのは受け付けフロアの隣の部屋。
そこには壁に沿って12個の大きな鏡が立てかけられていた。
また、その鏡の横には全て認証装置が埋め込まれていた。

 他の生徒を見ていると、その機械と自分の指輪、若しくはスマホを重ねた後に鏡の中へと入っている様子が伺えた。
 コバートは空いている鏡の前に皆を立たせると、認証装置に自分のスマホをかざした。
すると、鏡の反射は消えてどこか見知らぬ長閑そうな村の風景が映り込む。

「他の奴らの見て分かると思うけど、ここに指輪かスマホをかざした後鏡に突っ込めばいい。そうすると、事前に受けた依頼場所の近くまで飛ばしてくれるようになってる。いくぞ?」

 コバートは鏡に触れると波紋が生じ、みるみるうちにその姿全てを飲み込んだ。
すると先程の風景の中にコバートが映り込み、早く来いと手招きをする。
口も動いていたので喋ってもいたのだろうが声は聞こえてこなかった。

その後はテミス、アリータと続き怜央も恐る恐る入った。
そしたらなんてことはない。
あっさりと、学園のある世界と違う、これまた別の異世界へと転移できてしまった。
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