第11話 トップニュース
文字数 2,660文字
朝日とともに起きて、うすいレースのカーテンを
目覚まし時計もないのにルナの早起きが続いている理由は、まだここが
よそのうち
だという着替えを
いつもは朝食の
「やっぱりかわいいなあ」
朝日にかざして
ゴム
きのう初めて会った、カーネリア・エイカーがプレゼントしてくれた。
ルナにとっては、お姉さん弟子にあたる人だ。
「わたしの宝物」
ルナは鏡に向かって、にっこりと三つ編みの先を
ここへ来てから、ルナに宝物がひとつずつ増えていく。
左右を編み終えると、ルナは部屋を出て、タタタッと階段を下りた。
階段を下りてすぐの部屋が、キッチン
食器棚には大小たくさんの
そのわりに、どれもほとんど使われた
けれど、今は調理台の上のバスケットへ急いだ。
今朝はちょっと、
「今日のパンは何かな」
きのうは長いままの食パンだった。
その前は、表面に切り込みが入った丸パンが山盛り。
ルナがここで朝食をとるようになって、今日で三日目の朝になる。
初日はお師匠さまが用意してくれて、ルナは後片付けだけだったけれど、きのうからはルナが作っている。
なんて、大げさだけれど、ルナのやることといえば、パンを切り分け、トーストし、卵を焼いて、お師匠さまとルナの分のお皿に盛るくらい。
それから、実はこれがいちばんの大仕事で、おおきな牛乳
ちなみに昼と夜はルイ・マックールが用意して、三食必ずいっしょに食べる。パンも大きな牛乳瓶も、一日かけて
ルイ・マックールは積極的に、育ちざかりのルナに牛乳を
これら三点はみんなバスケットの中に入っていて、毎朝キッチンに着くと、必ずそのバスケットが調理台の上に置いてある。
ルナがバスケットに近づくと、パンより先に別のものに目が行った。
「新聞だ」
新聞以外のものから情報を得ている風でもないし、そこをルナは変わっているな、と感じていた。
だって、ルナのお父さんはよく家で新聞を読んでいる。そのうえ、
ルナがちょうど、二人分のお皿を食卓に並べ終えたところで、お師匠さまがキッチンに現れた。
「おはよう、ルナ。今朝は目玉焼きかい。上手に焼けているね」
ルイ・マックールはプルンとした黄身に目を細め、それから食事のわきに置かれた朝刊に気が付いた。
ルナが、いちおう置いておいたのだ。
ルナのお母さんは、食事中にお父さんが新聞を読むのを怒るけれど、特別急ぎの記事があるのかもしれないと気を
しかし、ルイ・マックールは新聞には朝食が終わるまで手を付けなかった。
ルナのお父さんは、読む時間がないから、と言って読んでいたけれど、ルイ・マックールは時間があるのかしら? それとも、お行儀がいいから?
ともかく、ルイ・マックールは、ルナに朝食の感想とごちそうさまを言ってから、静かに新聞を開いた。
「これは……!」
ルイ・マックールがめずらしく、くつくつと声を
朝刊に面白いことでも書いてあったのだろうか。ルナにも、ごらん、と記事を見せてくれた。
『世界ランキング第二位の
今日の記事の目玉であることを表す、でかでかとした見出し。
あとには――
その横には大きな写真と、知らないおじさんの小さな写真。
ルナは大きな写真のほうを見て、気がついた。
「これは、きのう行った――!」
「大バザールの車道だね。このタクシーのピンチを、カーネリアが助けたのではないか、と書いてあるね。記者は現在のカーネリアの様子を運転手から
たしかに、詳しい状況についての
代わりに、取材を受けたタクシードライバーの、話したくてたまらないのに上手く説明できず、もどかしそうにしている様子が詳しく書かれている。
記事の最後は、カーネリア・エイカーが、なぜ、今になって世間に自分の存在を知らしめたのか。その理由に、このタクシーの件が関係しているのでは、という
読み
で「『かつての』だなんて……。カーネリアがまた怒るぞ」
ルイ・マックールにはカーネリア・エイカーの書かれようの方が面白かったらしい。また楽しそうに笑いだした。
それから少し落ち着くと、
「名前の公表と今回のタクシーは関係ないだろう。それにしても、あれだけ世間に名が出ることを嫌っていたのに。一体どういう風の吹き回しだろうね」
お師匠さまは首をかしげているけれど、ルナはそのわけを知っている。
『これからは自分の名前で生きていくわ!』
カーネリア・エイカーの言葉と一緒に、その時の姉弟子の笑顔を思い出すと、ルナの胸の中は、あの青い大バザールの空のように晴れ晴れとした。
口止めなんかはされていない。
けれど姉弟子の言葉をそのままお師匠さまに伝えるだなんて、ルナにはとてもできっこないのだった。
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