第38話 最後になりました

文字数 2,041文字

 やっと「ヴェーダナー」に入ったが、ここでちょっとしたトラブルが起きた。トラブルというほど大袈裟なものではないにしても、私にとっては大変ショックな出来事が起きた。その詳細は、あまり触れたくない。いつか、書いたことはあるけれど、投稿したくない。その件については、忘れたい。ただ、もうお寺さんには行くまい、と思った。
 二年位だろうか、とにかくお世話になった。こういう呼吸法がある、と知らせてくれたことに、感謝したい。

 その出来事以外で、…ほんとにずっと行きたかったが、このお寺でのマインドフルネスをやめるきっかけだけを書こうと思う。
 ・これは自分ひとりでできる、ということ。むしろ、ひとりがいいのではないかということ。
 ・ブッダの説く(それを住職から、またブッダダーサの本を介して瞑想法を実践してきたが)、そのひとつひとつが、私には「荘子」の言葉とリンクして、お寺での説法は自分にもう必要でない、と判断した。

 ・宗教的なもの、確かに仏教は宗教だが、そういったものにはどうしても「絶対」的なものが現れる。絶対的なものにさせるのは、ブッダではない。それを信仰する人々が絶対化させ、その信仰の対象となるブッダは絶対的なものになってしまうこと。
 ・大乗非仏説とか、小乗がホントウに近いとか、私にはどっちも同じ土俵に見える。残された経典が捏造であれ何であれ、そこに読む者が「生き易く」なれるものであれば、それだけで充分ではないか。何がホントウのお釈迦さんの教えであったかに、さしてこだわりを持ちたくないということ。

 私には、ブッダはひとりの人間であり、苦しむ人間を救おうとした、優しい人間である。その「苦」の根源を知ろうとし、それを突き詰め、考え、苦に対する処し方を言葉にした人である。論理的に、思考の順を追い、理不尽になることなく、誰にでもわかり易く言葉を発し続けたブッダの絶え間ない努力は、「人が苦しまない」に貫かれるものだったはずだ。

 神戸のホテルで偶然「仏教聖典」を読み、これは素晴らしいことが書いてある、と感動して一気に読んだのが、私とブッダの出会いだった。ただ、それは自分の中でそれまでくすぶっていたものが文字になって表され、全身をもって共感できたこと、代弁された嬉しさ、たとえ話、比喩の説得力、その読み易さにおいてであった。自分の中に元々あったものが、この本によって表面化され、殻を破って出てきた、そんな感覚をもったものだった。

 以来、ワールポラ・ラーフラの「ブッダの説いたこと」、中村元の一連のブッダ本、岩波の弟子たちの告白、ブッダの言葉、最後の旅等を読み漁った。ブッダがギリシャに生まれていたならば、ソクラテスと双璧の至人、正しい真の人として、宗教的なグループには属されなかったと思う。
 そして「仏教」同様の真理を確立し、説き、プラトンのような弟子達によってその「教え」が後世に広く継がれたことだろう。もちろんこんな仮定はナンセンスで、ブッダもソクラテスもわれわれ同様、ひとりの人間として各々、与えられた運命を辿ったに過ぎない。

 もともと私には宗教アレルギーがあって、信じ始めた友人とは友人でなくなったし、信じている人が職場にいたら、距離を置いた。宗教は戦争に繋がる、という歴史の教訓も、その私のバックボーンになっていた。
 今回、たまたま近所のお寺で「マインドフルネス」講座が行われ、月に二回、必ず行っていたが、どうもその宗教色、お寺だから仕方がないが、宗教的な「ホントウのものへのこだわり」といった直線的な真っ直ぐなものに、私の内部が悲鳴をあげた。
「ホントウのもの」へのこだわりは、十分自分も持っているが、「宗教的なホントウのもの」には、内的に拒否反応を示す。

 ブッダの云う「真の理」は、これがホントウであるとする頑なさや、これはホントウでないとする相対を必要としない。それ自体で、それ自体として自然に「在る」ものだ。そこに同化すること、何のはからいもなくそこに同化すること。同化する意識さえ持たずに。

 机上の空論でなく、いかにその「ダンマ」を知るか、体験するか、を瞑想法として具体的にあらわしたことが、いかにもブッダらしいと思う。この「マインドフルネス」は、私ひとりで、やる時にやっていくだろう。

 ── お寺でのマインドフルネスの進行に合わせて書いてきた連載ですが、ひとまず終了とさせて頂きます。実際のところ、16のステップは、何年後かにお寺で行われるのかもしれませんが、40分以上は瞑想の時間に費やせないとのことなので、やったとしてもかなり短縮した形になるようです。
 最後まで、時間短縮せず16のところまで実践する目的があったので、そこまでやった結果報告をもって終了したかったのですが…。
 長い連載になり、進行が止まるたびにマインドフルネスと関係のない埋め草のようなことも書いてしまい、申し訳ありませんでした。
 読んで下さった方、どうもすみません。ありがとうございました。
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