第47話 アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の設計図:2023年5月

文字数 2,567文字

(南山洋子が、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の説明会を開く)

2023年5月。東京。G社オフィス。

G社で、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の説明会が始まった。
会場は、100人規模の会議室で、前方に大きなスクリーンがある。
洋子は、真っ赤なスーツで臨んだ。勝負服である。会場には、10人の幹部が前方左に陣取り、その他に70人程度の人がいた。政治プロセス分析チームのメンバーの顔も見えた。
「おはようございます。アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社の南山洋子です。
アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社は、G社が、『ユニバーサル・ジェンダー計画』を社会的に支援する活動をするために設立しようしている子会社です。この会社のミッションは、『ユニバーサル・ジェンダー計画』と同じで、ジェンダーギャップを解消することです。アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社は、ジェンダーギャップの解消のためにIT技術を活用するビジネスを展開する会社です。
このように、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社のビジネスには格段の制約はありませんが、実行可能なビジネス・モデルがなければ、活動はできません。2週間前に、私は、G社から、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社のスタートアップに必要なビジネス・モデルをデザインするように依頼されました。本日は、そのビジネス・モデルの提案をします。

アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社は、3本マストの船です。推進力を得るために、3つのコア事業を立ち上げたいと思っています。

第1は、ジェンダー・エクイティ・レポートです。この分野は、ユニバーサル・ジェンダー計画が出て、マーケットが拡大しているので、是非とりたいと考えています。一方、参入企業も多く、競争の激しい部門です。G社の協力が得られるのであれば、この課題には、リアルタイム・モニタリングとのリンクを組み込みたいと考えています。この技術を導入すれば、ジェンダー・エクイティ・レポートを生きているレポート(アクティブ・ジェンダー・エクイティ・レポート)にすることができます。通常のレポートは、紙か、電子書籍で、年に1回発行されます。アクティブ・ジェンダー・エクイティ・レポートは、リアルタイム・モニタリングと、レポート・ジェネレータを使って、データが更新されるごとに、毎日、最新のレポートを自動的に作成します。

第2は、セキュリティ・モニタリングです。ここでは、カメラとマイクを活用します。中国では、2018年頃から、カメラとマイクを使った、監視が広がりました。これに対して、西欧では、プライバシーの面から、表向きは、監視社会は、良くないという意見が強いようです。これは、オーウェルの1984の影響かもしれません。しかし、一方では、ロンドンのように、既に、膨大な数の監視カメラが設置されていることが知られている都市もあります。これは、非常に、センシティブな問題ですが、いつまでも、避けて通れる問題ではないと考えます。現在の問題に関する私の仮説は、以下です。

1)監視カメラがあるかないかを主体的選択出来る条件が全くない。
2)記録されたカメラのデータを、どの様に処理して使うかを、主体的に選択出来る条件が全くない。

つまり、訳の分からない監視が進行していて、それを、主体的に回避する手段が全く与えられていないのです。これでは、拒絶反応が起こることは当然です。逆に、カメラとその後の処理を主体的に選択できれば、拒絶反応は、起こりません。自動車にドライブ・レコーダーをつけると、プライバシーの侵害になると考える人はいません。これは、記録されたデータの処理ルート、情報流出に対するセキュリティが明確になっているためです。このような点をクリアすれば、この分野には非常に大きな潜在マーケットがあると思われます。アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社のミッションは、ジェンダー問題ですので、当面はジェンダー・バイオレンスを対象とした監視カメラ・ビジネスの立ち上げから始められると考えます。

第3は、ジェンダー問題のためのデジタル政治サポートシステムです。これは、今まで、政治プロセス分析チームで検討してきたツールを、ジェンダー問題に応用する部分です。G社の皆さんは、既に、政治プロセス分析チームを、ご存知ですので、多言を要しないでしょう。一言だけ、付け加えれば、このツールは、女性だけでなく、男性も対象にします。そして、男性のユーザーを引き付けるには、ジェンダー問題に限らない、魅力的なサービスメニューの展開を心掛ける必要があります。

第4は、第3の派生問題です。これは、派生問題なので、コア事業にはカウントしませんが、非常に重要な問題です。日本を『ユニバーサル・ジェンダー計画』に対応可能な社会に変えることをITでサポートすることが、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社のミッションです。それでは、サポートする主体、つまり、社会を変える主体は何かというと、政治であり、政党です。現在の政党に、それが出来るところはありません。このままでは、ビジネス・モデルが動きません。つまり、日本を『ユニバーサル・ジェンダー計画』に対応可能な社会に変えることを公約とした政党、ここでは、仮に、ユニバーサル・ジェンダー党と呼んでおきますが、が必要です。もちろん、政党と企業は別の組織です。ですから、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社は、近い将来ユニバーサル・ジェンダー党が出来るという前提で、ビジネス・モデルを作って、活動します。そして、ユニバーサル・ジェンダー党を準備して、切り離して、立ち上げないと前に進みません。社内で、ユニバーサル・ジェンダー党という飛行体を仕込んで置き、時期が来たら、離陸させるようなイメージです。政党は、動き出せば別組織になりますが、それまでの準備は、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社で進めます。これは、政治プロセス分析プロジェクトが、理論と基本問題を扱ったと考えれば、アマゾネス・ウーマンズ・パートナー社では、応用問題を扱うことに相当します。

以上で、説明を終わります」

洋子は、ふっと肩の荷がおりる気がした。出来ることは、これで、すべてやった。あとは、G社のメンバーの反応次第だ。

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