文字数 801文字

「わたし、緑茶は好みじゃないんだけど」
ぽかぽかと暖かい午後の昼下がり。目の前の彼女がうんざりしたような顔でつぶやいた。
「僕だって紅茶なんか好きじゃないよ」

緑茶をバカにした仕返しだ。そう吐き捨てると彼女は
「なんだとこの野郎。わたしの好きな紅茶をバカにしやがって、ふざけんじゃねーぞ」
と言わんばかりの顔で僕をにらんできた。

「だって、あきらかに君のほうが紅茶って感じじゃないか。僕は緑茶のほうが好きだ」
きわめて客観的な事実として彼女にそう伝える。明らかに、洋風な雰囲気の彼女のほうが紅茶にピッタリだ。
「……そ、そうよ! 緑茶とか和風な感じのあなたのほうがお似合いだし! なんでわたしが紅茶じゃないのよ」

少しばかりほおを赤くした彼女がそっぽを向く。出窓から入ってきたおだやかな風がカーテンを揺らしていた。
しかしながら本当に、なんで僕たちはいつもお互いのイメージと逆の飲み物ばかりにされるのだろうか。

「それでも結局、緑茶……無くなっちゃったみたいかな」
変わらず不機嫌そうに、目を伏せながら彼女がつぶやいた。

「僕のほうも紅茶、飲んじゃったみたいだな……」
微妙に彼女のマネをしながら、僕もわざと不機嫌そうにそう言ってみる。

しかし我らが主たちは、本当に飲み物のチョイスに限っては感覚が変わっていると思う。
そうしている間にも、館の給仕たちが続々と新しい飲み物を持ってくる。
主たちは、次はどんな飲み物を僕たちに与えてくれるのだろうか。

「休んでる暇がないわね。ほら、次の飲み物が来たわよ……って」
運ばれてきた、良い香りのするその液体を目の前にした彼女が叫ぶ。
「今度は味噌汁とか、なに考えてるのよおおおおおおお!」

「僕は味噌汁のほうが良かったなぁ……」
シチューを注がれる湯のみの僕に向かって、ピシッとヒビが入らんばかりの形相でティーカップの彼女がにらんできた。
明らかに、洋風な雰囲気の彼女のほうがホワイトシチューにピッタリだ。
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