第2話
文字数 1,604文字
クラスで浮いたやつというのは、やっぱり一人はいるものだ。
ヒロはそういうやつだった。みんなとあまり話さないし、遊ぼうとしない。富子先生が心配するのも無理はなかった。
タカキもヒロと話したことはない。
だからその日の放課後、ヒロから声をかけられて、タカキはおどろいた。
「自由研究の話、聞いたぞ。おまえ、あまのじゃく飼ってるのか」
タカキはランドセルに荷物を詰めこみながら、うなずいた。自由研究として天邪鬼のことを調べたということは、友達たちに話していた。ヒロも聞いていたらしい。
「おれの家に来いよ。いいものを見せないこともないぞ」
戸惑ったけれど、ことわる理由もなかったし、タカキはうなずいた。
ヒロはそれ以上なにも言わずに、ずんずん歩いていってしまう。
タカキは後ろからついていった。なにを話したらいいかわからなくて、ちょっと居心地が悪かった。
「ここがおれの家だ」
そこは大きなお屋敷だった。
(ヒロ、お金持ちだったんだなあ)
感心しながら屋敷の庭を見渡して、タカキはびっくりした。
庭の中で、たくさんの天邪鬼が飼われていたのだ。
「うち、あまのじゃくのブリーダーなんだ」
ヒロはそう言って、ちらりとタカキの顔を横目で見た。
「なかなかすごいだろ」
「これ、全部飼ってるの?」
「そうだ」
「ケンカ、しない?」
「ケンカしないということがない」
庭に面した和室へ上がりこむと、座布団の上でかしこまるタカキをよそに、ヒロは庭から天邪鬼を二匹連れてきた。透明のケージの中に入れた。
天邪鬼たちはたがいに指をさしあいながら、なにやらみゅんみゅん言っている。
「通訳しよう」
「言葉がわかるの?」
「まあな。こいつは、おまえなんか嫌いだ! と言っている。するとこっちは、じゃあおまえのこと好きだ! と言う。わかりあうことはないらしい。そこでだ」
ヒロはもう一匹、庭から天邪鬼を連れてくると、ケージに入れた。
「こうすると、三角関係というやつになる」
「なるほど。これがうわさのサンカク関係か」
二人で天邪鬼を観察していると、ヒロのお母さんが和室に入ってきた。
座布団の上に正座したタカキを見ると、目を丸くして、「ヒロ。お友達?」と言った。
タカキはお邪魔してますときちんと挨拶。
ヒロはべつに、と首を振った。
「めずらしいわねえ。ヒロがうちにお友達を連れてくるなんて」
お母さんはそう言うと、どうしたらいいのかわからない様子で、おろおろと部屋の片付けをはじめた。
それから、ああそうか、と手を打って、オレンジジュースとたくさんのお菓子をおぼんに載せて持ってきてくれた。
「この子は友達をつくるのが下手でね。ちいさいころから、いつも天邪鬼とばかり遊んでいるの」
「それが好きなんだ」
ケージの中に手を入れて、天邪鬼をつつきながら、ヒロが言う。
「天邪鬼のあつかい方も、我が家で一番心得てるの。おかげで私たちは助かってるんだけど……学校で上手くやってるか心配だったのよ。憎まれ口ばかり叩いて、友達を遠ざけちゃうんだもの」
「ふん」
「タカキくんがお友達になってくれたなら、良かった」
「べつに友達とかじゃない」
ヒロは顔を赤く染めると、ぶっきらぼうにそう言った。
それでタカキは思った。
ははあ、ヒロはクラスの皆と仲良くしたかったから、仲良くしようとしなかったのだ。
ちいさいときから天邪鬼とばかり遊んでいたヒロはきっと、仲良くしようとしたら、仲良くなれないと思っているのだ。
「友達です」
タカキが言うと、ヒロはそっぽを向いてしまった。
ごめんなさいね、照れ屋なのよとお母さんが言うと、ヒロは聞こえないふりをした。
それから、タカキはヒロとよく遊ぶようになった。
ヒロはちょっぴり変なやつだったけれど、いいやつだった。
ヒロはそういうやつだった。みんなとあまり話さないし、遊ぼうとしない。富子先生が心配するのも無理はなかった。
タカキもヒロと話したことはない。
だからその日の放課後、ヒロから声をかけられて、タカキはおどろいた。
「自由研究の話、聞いたぞ。おまえ、あまのじゃく飼ってるのか」
タカキはランドセルに荷物を詰めこみながら、うなずいた。自由研究として天邪鬼のことを調べたということは、友達たちに話していた。ヒロも聞いていたらしい。
「おれの家に来いよ。いいものを見せないこともないぞ」
戸惑ったけれど、ことわる理由もなかったし、タカキはうなずいた。
ヒロはそれ以上なにも言わずに、ずんずん歩いていってしまう。
タカキは後ろからついていった。なにを話したらいいかわからなくて、ちょっと居心地が悪かった。
「ここがおれの家だ」
そこは大きなお屋敷だった。
(ヒロ、お金持ちだったんだなあ)
感心しながら屋敷の庭を見渡して、タカキはびっくりした。
庭の中で、たくさんの天邪鬼が飼われていたのだ。
「うち、あまのじゃくのブリーダーなんだ」
ヒロはそう言って、ちらりとタカキの顔を横目で見た。
「なかなかすごいだろ」
「これ、全部飼ってるの?」
「そうだ」
「ケンカ、しない?」
「ケンカしないということがない」
庭に面した和室へ上がりこむと、座布団の上でかしこまるタカキをよそに、ヒロは庭から天邪鬼を二匹連れてきた。透明のケージの中に入れた。
天邪鬼たちはたがいに指をさしあいながら、なにやらみゅんみゅん言っている。
「通訳しよう」
「言葉がわかるの?」
「まあな。こいつは、おまえなんか嫌いだ! と言っている。するとこっちは、じゃあおまえのこと好きだ! と言う。わかりあうことはないらしい。そこでだ」
ヒロはもう一匹、庭から天邪鬼を連れてくると、ケージに入れた。
「こうすると、三角関係というやつになる」
「なるほど。これがうわさのサンカク関係か」
二人で天邪鬼を観察していると、ヒロのお母さんが和室に入ってきた。
座布団の上に正座したタカキを見ると、目を丸くして、「ヒロ。お友達?」と言った。
タカキはお邪魔してますときちんと挨拶。
ヒロはべつに、と首を振った。
「めずらしいわねえ。ヒロがうちにお友達を連れてくるなんて」
お母さんはそう言うと、どうしたらいいのかわからない様子で、おろおろと部屋の片付けをはじめた。
それから、ああそうか、と手を打って、オレンジジュースとたくさんのお菓子をおぼんに載せて持ってきてくれた。
「この子は友達をつくるのが下手でね。ちいさいころから、いつも天邪鬼とばかり遊んでいるの」
「それが好きなんだ」
ケージの中に手を入れて、天邪鬼をつつきながら、ヒロが言う。
「天邪鬼のあつかい方も、我が家で一番心得てるの。おかげで私たちは助かってるんだけど……学校で上手くやってるか心配だったのよ。憎まれ口ばかり叩いて、友達を遠ざけちゃうんだもの」
「ふん」
「タカキくんがお友達になってくれたなら、良かった」
「べつに友達とかじゃない」
ヒロは顔を赤く染めると、ぶっきらぼうにそう言った。
それでタカキは思った。
ははあ、ヒロはクラスの皆と仲良くしたかったから、仲良くしようとしなかったのだ。
ちいさいときから天邪鬼とばかり遊んでいたヒロはきっと、仲良くしようとしたら、仲良くなれないと思っているのだ。
「友達です」
タカキが言うと、ヒロはそっぽを向いてしまった。
ごめんなさいね、照れ屋なのよとお母さんが言うと、ヒロは聞こえないふりをした。
それから、タカキはヒロとよく遊ぶようになった。
ヒロはちょっぴり変なやつだったけれど、いいやつだった。