13. 介護度と疼痛管理とを考える

文字数 1,710文字

 (1.より要約の引用)
 発症から三か月がたち、アヘンやモルフィネを使い頭が朦朧とし始めていた。食事は特別メニューになり、排泄には特別な装置を要し他人の手を借りることになった。ズボンを持ち上げる力もなく、足を他人の肩で支えられると楽になった。痛みは片時も休まらず、かかりつけ医と有名な医師の合同診察で、彼らは腎臓と盲腸という臓器を懲らしめ更生しようとし、「回復の可能性はある」と言われている。しかし意識が飛ぶほどの麻酔を打たれる。激烈なものと予測される苦痛を緩和するためにアヘンを使うことは可能、と夫人は説明を受ける。その後意識は保ちながら三日間叫び続け、一八八二年二月四日、永眠。

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 八十六ページからの第6章は、内面的な葛藤が中心です。そして九十三ページの第7章に達します。ここで発症から三か月経ったと明記され、眠れず、アヘンやモルヒネと言った鎮痛薬(ちんつうやく)が必要になっています。かなりの痛みであることが想像できます。食事はおそらく咀嚼(そしゃく)があまり要らず消化されやすい形態になり、排泄も自力でできなくなっていきます。「便器から立ち上がったまま、ズボンを持ち上げる力もなくて、やわらかい肘掛椅子にくずおれて」しまうのですが、この状態になれるというのは一人でトイレにいくことができている、という意味ともとれるので、現代日本の厚生労働省基準ではまだ「要介護1」ですが。尚、これは「要支援」から数えても七段階中の下から三番目。現代の介護事情を思わず考えてしまいます。この際にイリイチ氏は、「筋がくっきりと浮き出た弱々しい腿」を目撃し、悲痛な思いを抱いています。これをゲラーシムという若い使用人が介護してくれるのですが、それは置いておきます。
 その後、抱かれて椅子に戻り、「足を高くすると楽だ」と言っているので、衰弱した下肢の疲労と、もしかすると浮腫が起きているのでは、と想像できます。心機能、腎機能が落ちればむくみが出てきますので、進行した後となれば、病因の特定に有用とは言い難いですが、12.におけるB(大腸癌)やD(膿瘍)、E(肉腫)などが成長し、より腎への血流が阻害されている、と考えてもよいでしょう。
 痛みについても、どの病気でも進行すればよりひどくはなるでしょう。ただ、常に痛いということなので、腸管の動きで痛みが変化しうるA(炎症性腸疾患/腸管感染症)は弱いですね。痩せてはいるけれど、下痢には依然として言及がない。もうAも捨てましょうかね。

 タイトルにした疼痛管理(とうつうかんり)についてですが、アヘンとモルヒネが明記されていました。アヘンは古来より使われているもので、ケシの(未熟な)実からとる乳液状の物質を元にしています。今でも「アヘンチンキ」という商品名の薬があります。痛み止めの他、下痢止め、咳止めとしての用途がありますが、日本ではあまり見かけません。そのアヘンを精製したものがモルヒネで、さらに化学的に変化させたものがヘロイン。モルヒネは「アヘンチンキ」の比ではないくらい、特に癌性疼痛(がんせいとうつう)のコントロール目的でよく使用されています。作用的には、アヘンと同じですので、痛み止めの副作用として、便秘になったり、痰が出せなくなったりするんですね。そして薬を追加するという現実。ご承知の通り、陶酔感を生み出し、習慣性を持たせてしまいますので、麻薬として厳重に管理します。依存を恐れてモルヒネを使わないという意見を言われる患者さん(家族)がおられますが、この辺りは治療見込みや余命との関係もあり難しいですね。また、これで死期が早まる、という意見も患者さん(家族)から出されますが、過量投与しない限り大丈夫だと思います。過量投与は、下手すると呼吸を止めますので、相談せずに許可された範囲以上に使うのは止めた方がいいです。尚、モルヒネを更に変化させたヘロインですが、ヘロインまでいくと医療用ではありません。
 現代とは量や適用が違うとは思いますが、これでも抑えきれない痛みなのですから、イリイチ氏としてはもう、辛くて仕方が無いと思います。そして、これは原本を読んで欲しいですが、周囲の人間への疑念、死への恐怖は読んでいて切ないものがあります。
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