３３００
文字数 2,136文字
あまりに唐突な事であるため、貴方はきっと驚いてしまうでしょう。きっと、悲しんでしまう事でしょう。どれくらい悲しいかは私には知るべくもありませんが、涙してくれるのならそれほど嬉しい事はありません。
私は、間も無く命を落とします。
なぜ命を落とすのか、どうか聞かないでください。別の星の出来事なのだと、気にも留めないでください。
ただ、願わくば忘れないでください。ワガママが過ぎると怒ってしまうかもしれませんが、私の死を厭わずに、私の生を忘れずにいてください。
貴方との思い出は、私の中でたった一つの例外もなくかけがえのないものです。幼少の頃一緒に遊んだ公園も、その時使っていたボールも、すでになくなってしまったものの、私の中には新品同然に残り続けています。
あの時貴方が蹴ったボールが近所のおじさんを潰してしまったのも、今ではいい思い出です。おじさんの蘇生治療を請求されましたが、よくある事だろうと一蹴しましたね。あのおじさんは嫌な人だったので、正直スッキリしてしまいました。
近くにあった文房具屋を覚えていますか？
ゴジラの光線でも溶けないという謳い文句の筆箱を核融合炉にくべて、溶けたじゃないかと店を訴えましたね。あの裁判は三十四審まで引きずる接戦でしたが、弁護士側のゴジラよりも強い核融合炉を使った可能性があるという一言で惜しくも敗訴しましたね。もしもゴジラがシンの方であると明言されていたなら勝てただけに、かなり惜しい勝負だったと思います。もしくは、用意した核融合炉がもう少し弱かったらと思うと残念でなりません。
あんな店でも、移店してしまうと聞いて悲しく思った記憶があります。流石に月面まで行くと足が遠ざかってしまうというものです。片道三十分を行くくらいなら、南極あたりの近場で済ませてしまいますからね。
高校の頃の写真を見ました。貴方は高校デビューだと言って、髪を虹色に染めてしまいましたね。当時流行っていたアイドルグループの真似だと記憶していますが、私は興味がなかったので何を言っているのかさっぱりでした。
ただ、いくら偏差値35,000程度の底辺校だからといって、ふざけ過ぎるのは良くありませんでしたね。入学式の当日に、まさか三年の不良生徒に絡まれてしまうなんて。
身長は3メートルくらいと不良グループの中では小さめでしたが、体重５００キロから繰り出される暴力は圧巻でした。後から聞いた話によると、彼は人口骨格手術を受けたミュータントだったそうです。カーボンナノチューブを素手で引き千切る腕力を受けて命があったのは、やはり貴方の才能のためなのでしょう。
大学に入学した時、貴方は逆に坊主でしたね。当時は気を遣って言えませんでしたが、高校と大学を逆にしたら丁度良かったろうと思います。
貴方がテニスサークルに入ると言ったのを、私は止められませんでした。この事はずっと謝りたかったし、どれほど謝っても許して貰えないかもしれません。
貴方は知らなかったのですね、テニスがあれほど恐ろしいスポーツである事を。テレビで見るようなプロの試合は、相手が全力を出さないように試合運びをしているために一見大人しく見えるだけだという事を、知らなかったのですね。
日々どんどんと人間離れをしていく貴方を見ているのはあまりにも辛かったというのに、隕石を落としたりブラックホールを作ったりする先輩方に恐れをなして、友人である貴方を見捨ててしまいました。
私は貴方が分身をする事など求めません。ただ、貴方と一緒に学校の帰り道を歩くだけでよかった。原子力電車 に一緒に乗って、長期休暇に旅行した銀河の話をしていたかった。
マグマが川を流れる星も、常にカマイタチが吹いている星も、貴方には話す事ができなかった。許してくれとは言いません。たった一言、ごめんなさい。
私はもう会えないため、手紙の形になる事をお許しください。
大学卒業直後、私の叔父さんが亡くなった時、ほとんど疎遠になっていた貴方はお葬式に出席してくれました。自分も何度か会ってお世話になっているからと言ってくれた事は、実はとても嬉しかったのです。
その時に叔父さんの会社の人が「蠖ｼ縺ｯ縺ｨ縺ｦ繧らｫ区ｴｾ縺ｪ莠ｺ縺ｧ縺励」と言っていましたが、まさしくその通りだと思います。「グゲェッゴガグェギィ」と、あのアルベルト・ホークスも言っています。やはり、友情に勝る宝はないのだと感じました。
貴方とは最近会えていませんが、それでも一番の親友だと思っています。たとえ10光年先にいたとしても、決して忘れた事はありません。
沢山の喜びをありがとう、沢山の失礼をすみません、そして、どうか私というちっぽけな存在がいた事を忘れないでください。
最後に、この手紙は燃やしてください。そうして証拠隠滅できるように、前時代的な方法での通信を行なっています。
どうか他言しないようにと願いします。
どうかその生に幸多からん事を願っています。
それではさらば。私は年明けの西暦3300となったタイミングでこの世からいなくなっています。
〜Fin〜
私は、間も無く命を落とします。
なぜ命を落とすのか、どうか聞かないでください。別の星の出来事なのだと、気にも留めないでください。
ただ、願わくば忘れないでください。ワガママが過ぎると怒ってしまうかもしれませんが、私の死を厭わずに、私の生を忘れずにいてください。
貴方との思い出は、私の中でたった一つの例外もなくかけがえのないものです。幼少の頃一緒に遊んだ公園も、その時使っていたボールも、すでになくなってしまったものの、私の中には新品同然に残り続けています。
あの時貴方が蹴ったボールが近所のおじさんを潰してしまったのも、今ではいい思い出です。おじさんの蘇生治療を請求されましたが、よくある事だろうと一蹴しましたね。あのおじさんは嫌な人だったので、正直スッキリしてしまいました。
近くにあった文房具屋を覚えていますか？
ゴジラの光線でも溶けないという謳い文句の筆箱を核融合炉にくべて、溶けたじゃないかと店を訴えましたね。あの裁判は三十四審まで引きずる接戦でしたが、弁護士側のゴジラよりも強い核融合炉を使った可能性があるという一言で惜しくも敗訴しましたね。もしもゴジラがシンの方であると明言されていたなら勝てただけに、かなり惜しい勝負だったと思います。もしくは、用意した核融合炉がもう少し弱かったらと思うと残念でなりません。
あんな店でも、移店してしまうと聞いて悲しく思った記憶があります。流石に月面まで行くと足が遠ざかってしまうというものです。片道三十分を行くくらいなら、南極あたりの近場で済ませてしまいますからね。
高校の頃の写真を見ました。貴方は高校デビューだと言って、髪を虹色に染めてしまいましたね。当時流行っていたアイドルグループの真似だと記憶していますが、私は興味がなかったので何を言っているのかさっぱりでした。
ただ、いくら偏差値35,000程度の底辺校だからといって、ふざけ過ぎるのは良くありませんでしたね。入学式の当日に、まさか三年の不良生徒に絡まれてしまうなんて。
身長は3メートルくらいと不良グループの中では小さめでしたが、体重５００キロから繰り出される暴力は圧巻でした。後から聞いた話によると、彼は人口骨格手術を受けたミュータントだったそうです。カーボンナノチューブを素手で引き千切る腕力を受けて命があったのは、やはり貴方の才能のためなのでしょう。
大学に入学した時、貴方は逆に坊主でしたね。当時は気を遣って言えませんでしたが、高校と大学を逆にしたら丁度良かったろうと思います。
貴方がテニスサークルに入ると言ったのを、私は止められませんでした。この事はずっと謝りたかったし、どれほど謝っても許して貰えないかもしれません。
貴方は知らなかったのですね、テニスがあれほど恐ろしいスポーツである事を。テレビで見るようなプロの試合は、相手が全力を出さないように試合運びをしているために一見大人しく見えるだけだという事を、知らなかったのですね。
日々どんどんと人間離れをしていく貴方を見ているのはあまりにも辛かったというのに、隕石を落としたりブラックホールを作ったりする先輩方に恐れをなして、友人である貴方を見捨ててしまいました。
私は貴方が分身をする事など求めません。ただ、貴方と一緒に学校の帰り道を歩くだけでよかった。
マグマが川を流れる星も、常にカマイタチが吹いている星も、貴方には話す事ができなかった。許してくれとは言いません。たった一言、ごめんなさい。
私はもう会えないため、手紙の形になる事をお許しください。
大学卒業直後、私の叔父さんが亡くなった時、ほとんど疎遠になっていた貴方はお葬式に出席してくれました。自分も何度か会ってお世話になっているからと言ってくれた事は、実はとても嬉しかったのです。
その時に叔父さんの会社の人が「蠖ｼ縺ｯ縺ｨ縺ｦ繧らｫ区ｴｾ縺ｪ莠ｺ縺ｧ縺励」と言っていましたが、まさしくその通りだと思います。「グゲェッゴガグェギィ」と、あのアルベルト・ホークスも言っています。やはり、友情に勝る宝はないのだと感じました。
貴方とは最近会えていませんが、それでも一番の親友だと思っています。たとえ10光年先にいたとしても、決して忘れた事はありません。
沢山の喜びをありがとう、沢山の失礼をすみません、そして、どうか私というちっぽけな存在がいた事を忘れないでください。
最後に、この手紙は燃やしてください。そうして証拠隠滅できるように、前時代的な方法での通信を行なっています。
どうか他言しないようにと願いします。
どうかその生に幸多からん事を願っています。
それではさらば。私は年明けの西暦3300となったタイミングでこの世からいなくなっています。
〜Fin〜
