異世界転生

文字数 2,000文字

 ぼくは日本で暮らす、どこにでもいる男子高校生でした。趣味は小説投稿サイトの作品を読むことで、最近は異世界転生系の作品にハマっています。その日もぼくは歩きスマホをしながら小説を読み漁っていて、それが原因で突っ込んできた車に気付かず轢かれてしまい、その短い生涯に幕を閉じるはずだったのですが――
 ところがどっこい――どうやら、ぼくは〝異世界転生〟に成功してしまったようなのです! けれど、ちょっとエッチな女神様も出てこなければ、謁見室で王様と会話をすることもなく、ぼくは至極一般的な街人として、擦り減った石畳が敷かれている路地に叩き伏せられていました。
 ぼくに与えられたジャンルは『成り上がり系』なのでしょうか? 大器晩成型のステータスをしているならば、そのような始まり方をしていることにも納得ですね。であれば、まずはこのセリフです!
「ステータスオープン!」
 よく読む作品通りに詠唱をしてみても、周りの人達からは白い目を向けられるだけで、当然のようにステータスは開示されません。おかしいなあ、普通ならここでたくさんの数値が可視化されるはずなのに。そういった要素が出てこない硬派な世界観なのかな? いや、その可能性も十二分に在り得るでしょう。最近は『チート無しの異世界ファンタジー』というものも台頭し始めてきていましたから、それ自体に違和感を覚えることはありません。
 なんであれ、ひとまずは異世界における自身の能力を試したほうがいいだろうとギルドを探します。しかし、探せども探せどもそれらしきものが見つからないので、近くで馬車の点検をしている男性に声をかけてみました。
「あ、あの。すみ、すみません。この街にはどこに、ぎ、ギルドがあるのですか?」
「ああ、なんだって? ギルド? お前、どこかの丁稚(でっち)か何かなのか?」
「で……? え? その、違くて、モンスターとかの、倒す……」
「あのさあ。お前、もうちょっとはっきり喋ってくんねえかな。何が言いてえのかさっぱり分かんねえよ」
 話が通じないので、男性とはここで話を切り上げました。とりあえず、今日はこの辺りでレベル上げでもしてゆきましょう。ぼくは転生して間もないため、それらしい武器や装備は持ち合わせていませんでしたが、スライム程度なら素手でもどうにか倒せるかもしれません。それでぼくのスキルが分かれば僥倖(ぎょうこう)ということで、物事は前向きに考えてゆこうと思います。
「――また人骨が落ちているな。誰だか知らんが、この辺りの獣にやられてしまったのか。可哀想に……」
 それから暫くしてのこと。ぼくが向かった近くの森で見知らぬ男性二人がゴミ拾いを行っていました。街の景観を守るためのボランティアでしょうか。特に片方の男性はそれなりに戦士らしい装いをしているというのに、こんな仕事を請け負っているとは情けないものです。となれば、その等級もSSSランクからは程遠いものに違いありません。
 彼らの持つゴミ袋には、先程の人骨の他に綺麗な鳥の羽根や丸焦げになった大蜥蜴(おおとかげ)、香りの強い雑草などが放り込まれているようでした。この世界では等級が低いとモンスター退治もさせてもらえないようで、妥当ではありますが、少しだけ身が引き締まります。さて、ぼくも早くギルドを見つけて、実力を示さなければ!
「そ、そうだ。これ、つい数日前に聞いた話なんだけど――この辺り、最近になって死霊術が使える魔物が出てきたらしくて……」
「死霊術を使う魔物? どうして、この街はそんな危険な輩を放ったままにしているんだ」
「それが……その個体が扱っている〝生き餌〟がちょっと特殊らしくて。あんな罠では誰も引っ掛からないからって後回しにされているみたいなんだ」
 おっと、ここに来て良い情報を手に入れることができました。流石に今は無理そうですが、そんな間抜けな死霊術師(ネクロマンサー)であれば、明日か明後日には片付けられるはずです。そうすれば、ぼくの成り上がり街道もまっしぐらでしょう。これなら史上最速のSSSランクも夢じゃありません!
「なるほどな……で? お前からすると、あれがその

じゃないかって話なのか」
「う、うん……そう、思う……」
 ――は? ちょ、ちょっと? どうして、こっちに指なんか差して……どういうこと?
「あ……う……あ……? ぼく、なりあが、てんせ……?」
「確かにこれは下手だな。放置されているのも頷ける。だが、油断は禁物だ。ついでだから、こいつらの掃除もしていくぞ」
「分かった。ごめんね、生き餌さん」
 ――待って! 待って待って! 誤解だよ! えっ? もしかして、君達って変装した山賊だったりする? やばい! 逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!
「あうあ、うああ……! あいあ、いーう、いーう……!」
「じゃあな、

人間」
 ぼくの瞳に映った最後の映像は、

冷淡な視線と、無慈悲に剣を振り上げる戦士の姿だけでした。
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