不思議な病院
文字数 1,409文字
「待たせたな。自己紹介位は、出来そうか?」
青年は、少年の大腿の上に袋を乗せる。紙袋を受け取った少年は、笑顔でアランを見上げた。
「うん。上手く出来るかは分からないけど」
そう言って立ち上がると、少年は大きく息を吐き出した。彼の返答を聞いた者は無言で頷き、右を向いて言葉を発する
「じゃ、行くか。はぐれると面倒だし、ちゃんと付いて来いよ?」
そう言って一笑すると、アランは少年に背を向けて歩き出した。黒髪の少年は直ぐに彼の後を追い、二人は殺風景な病院の受付に到着する。
その受付に職員以外の人は居らず、訪問者用の椅子等は置かれていなかった。その為か、少年は周囲を見回してからその不自然さに首を傾げた。しかし、アランに戸惑う様子は無く、職員に声を掛けると少年の後頭部に手を当てて前に押し出す。
「こんにちは。今日は、後輩も連れて来ちゃった」
青年は、にこやかな笑みを浮かべて見せる。対する職員はアランを見つめて会釈をし、手元に置いてあった紙をアランに差し出した。
その紙には、日付や名前を記入する欄が在り、職員は胸ポケットに刺していたペンを青年に渡す。一方、アランは受け取ったペンで日付や名前を記入し、使い終わったペンを少年へ手渡した。
「名前、俺の下に書いとけ」
そう言って少年の前に紙をスライドさせ、アランは大きな欠伸をする。一方、少年は指定された箇所に記入をし、紙とペンを職員へ返した。すると、職員はそこに書かれた名を確認し、それから二人に背を向けて受付内にある棚に手を伸ばした。職員は、そこの引き出しを数回開け閉めし、そこから二枚のカードを取り出す。そのカードには透明のカバーが掛けられ、首に掛けられるように柔らかな紐が付けられている。
そのカードのうち一枚は、アランの名や写真が印刷されていた。職員は、それを青年に渡すと少年に向き直り、もう一枚のカードを胸の位置に掲げて口を開く。
「始めての訪問ですので、説明致しますね。院内では、このカードを首に掛けて頂きます。また、首に掛けて頂けない場合、その身に何が起きようと我々は一切関知しません」
そう説明すると、職員は紐付きのカードを少年へ手渡した。そのカードを受け取った者と言えば、そこに印刷されている内容を確認する。カードには「面会証」とだけ記されており、アランが渡されたものとは違って写真や名前は記入されていなかった。少年がそうしているうちに、アランは自分用のカードを首に掛けていた。この為、少年は彼にならってカードを身に付け、アランの方を向いて出方を窺った。
「ここを出るまで、俺から絶対離れるんじゃねえぞ? その面会証は、あくまで一時的なものだ。それだけじゃどこにも入れねえし、近くに正式に登録した誰かがいてこそ意味を発揮する代物だからな」
アランの注意を聞いた少年はカードを見下ろし、小声で肯定の返事をなす。一方、その返答を聞いた青年は無言で頷き、少年に背を向けて歩き始めた。
少年がアランの後を追って行くと、数人が並んで通ることの出来る廊下が在った。しかし、その廊下は直ぐに行き止まりとなり、少年は不思議そうに左右に顔を向けた。だが、そのどちらにもドアは見当たらず、彼はアランの背中越しに前方を見やる。
すると、一見して壁である行き止まりには、上下に長い切れ目が在った。その切れ目は青年の胸の高さに在り、アランは先程受け取ったカードをそこに挿入する。
青年は、少年の大腿の上に袋を乗せる。紙袋を受け取った少年は、笑顔でアランを見上げた。
「うん。上手く出来るかは分からないけど」
そう言って立ち上がると、少年は大きく息を吐き出した。彼の返答を聞いた者は無言で頷き、右を向いて言葉を発する
「じゃ、行くか。はぐれると面倒だし、ちゃんと付いて来いよ?」
そう言って一笑すると、アランは少年に背を向けて歩き出した。黒髪の少年は直ぐに彼の後を追い、二人は殺風景な病院の受付に到着する。
その受付に職員以外の人は居らず、訪問者用の椅子等は置かれていなかった。その為か、少年は周囲を見回してからその不自然さに首を傾げた。しかし、アランに戸惑う様子は無く、職員に声を掛けると少年の後頭部に手を当てて前に押し出す。
「こんにちは。今日は、後輩も連れて来ちゃった」
青年は、にこやかな笑みを浮かべて見せる。対する職員はアランを見つめて会釈をし、手元に置いてあった紙をアランに差し出した。
その紙には、日付や名前を記入する欄が在り、職員は胸ポケットに刺していたペンを青年に渡す。一方、アランは受け取ったペンで日付や名前を記入し、使い終わったペンを少年へ手渡した。
「名前、俺の下に書いとけ」
そう言って少年の前に紙をスライドさせ、アランは大きな欠伸をする。一方、少年は指定された箇所に記入をし、紙とペンを職員へ返した。すると、職員はそこに書かれた名を確認し、それから二人に背を向けて受付内にある棚に手を伸ばした。職員は、そこの引き出しを数回開け閉めし、そこから二枚のカードを取り出す。そのカードには透明のカバーが掛けられ、首に掛けられるように柔らかな紐が付けられている。
そのカードのうち一枚は、アランの名や写真が印刷されていた。職員は、それを青年に渡すと少年に向き直り、もう一枚のカードを胸の位置に掲げて口を開く。
「始めての訪問ですので、説明致しますね。院内では、このカードを首に掛けて頂きます。また、首に掛けて頂けない場合、その身に何が起きようと我々は一切関知しません」
そう説明すると、職員は紐付きのカードを少年へ手渡した。そのカードを受け取った者と言えば、そこに印刷されている内容を確認する。カードには「面会証」とだけ記されており、アランが渡されたものとは違って写真や名前は記入されていなかった。少年がそうしているうちに、アランは自分用のカードを首に掛けていた。この為、少年は彼にならってカードを身に付け、アランの方を向いて出方を窺った。
「ここを出るまで、俺から絶対離れるんじゃねえぞ? その面会証は、あくまで一時的なものだ。それだけじゃどこにも入れねえし、近くに正式に登録した誰かがいてこそ意味を発揮する代物だからな」
アランの注意を聞いた少年はカードを見下ろし、小声で肯定の返事をなす。一方、その返答を聞いた青年は無言で頷き、少年に背を向けて歩き始めた。
少年がアランの後を追って行くと、数人が並んで通ることの出来る廊下が在った。しかし、その廊下は直ぐに行き止まりとなり、少年は不思議そうに左右に顔を向けた。だが、そのどちらにもドアは見当たらず、彼はアランの背中越しに前方を見やる。
すると、一見して壁である行き止まりには、上下に長い切れ目が在った。その切れ目は青年の胸の高さに在り、アランは先程受け取ったカードをそこに挿入する。