マキセ③

文字数 1,155文字

夏祭りから帰ってからは、オレはもう、ずっとキノシタのことで頭がいっぱいだった。


グレープ、たこ焼き、キノシタ、グレープ、たこ焼き、キノシタ…

…花火に…誘ってみようか。
来年同じクラスになれる保証はない。
今年が勝負だ。


オレは木曜の夜からじーちゃんの法事で、家から5時間もかかるばーちゃんちに泊まっていた。
学校が休めてラッキーだが、キノシタに会えない。

3日が長すぎる。


次の日の昼前、ケータイが鳴った。

「何?カオリ。」

『シンちゃん?今日何で休み?』

「今、ばーちゃんち。法事。終わったけど。」

『やっぱり今日だったんだ、じゃあ土日もそっち?花火は…今年はナシかな?』

「花火?来週だろ?」

『何言ってるのー?今日だよ?』

「……え、今日!?……ウソだろー……」

『ウソじゃないよ??まぁでも今からじゃ…』



恋するアタマは時間の感覚も鈍らせるらしい。
あの夏祭りからそんなに経ってたか?


カオリが言い終わるのを待たずに電話をきった。
オレは財布片手にばーちゃんちを飛び出し、人生最速の走りを見せ、バスに飛び乗り、電車に揺られ、学校へ向かった。



学校じゃなきゃ、オレはキノシタの連絡先も知らない。
誰かに聞けばわかるかもしれない。
けど、誰にも知られたくない。
もう放課後だ。

会いたい。
頼む、間に合ってくれ!
奇跡よ、起これーーーー!!!


学校へ向かう途中の公園を通り過ぎようとしたその時。


キノシタが、
いた!!!


誰かと電話してる?
まさか、誰かに先越された??
電話が終わったようだ。

「サホ!!」

自分でも恥ずかしくなるよーなデカい声が出た。

呼んだ瞬間、キノシタの肩がビクンと上がった。

「あれ?マキセ?何?どしたの?今日休んでなかったっけ?てゆーか、汗すごいけど?」

言いながらも、振り向いたキノシタの様子が何かおかしい。早口だ。
会えたらすぐに誘おうと思ってたオレの勢いが、今じゃないぞと内からの声に止められた。

「や、あの、キノシタが見えたから…てか、何か、あった?」

「いや、うん、ちょっとカナがさ…あの…緊急事態なもんで…。何か、用事?じゃないよね?あたし、ちょっとカナんとこ行かなきゃで…。」

カナ?
キノシタのとこによく来る、ウエクサ カナのことか。

「あ、そか。…えーーーっと、うん、うん、じゃ、またな!」

「うん、ごめん、またね!」


…何やってんだ、オレ。
何のために5時間もかけて…

全身の力が抜け、へたりこんだその時。
走って公園を出て行こうとしたキノシタが足を止めてこっちを向いた。


「あ。
初めてサホって呼んだねー、
『シンジ』!」


からかうようにそれだけ言って笑うと、キノシタは走っていった。




………アクマか、アイツは………!!!


小悪魔なんて言葉じゃ足りない。

アクマ?
魔性?
なんだ?

もーわからん。
なんでもいい。


とにかく、うれしくて。




とにかく、とてつもなく、好きだ。








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