第1話

文字数 2,155文字

起)小6のせなは、内気で引っ込み思案なところがあり、4月に転校して一か月がたった今もクラスになじめずにいる。みんなに合わせて作り笑いをしてしまいがち。不運なのが悩みだったが、突然現れた福の神の次にえらい神様を自称する、宙に浮く小さな男の子・福に「作り笑いばかりしているからおまえには福がないのだ!」と言われる。人間の笑顔からは、福を引き寄せるチビ福ちゃんが生まれるのだという。いつも明るい笑顔でせなのあこがれのクラスメイト・ひなたの周りには、チビ福ちゃんがいっぱい。

承)クラスレクに向けて係決め。一人ずつ係があって、工作が得意なせなは景品係がやりたいけど……。「おまえ、なんで手を上げないのだ?」「だって、人気だし……」「やりたいことを我慢してたら、笑顔になんてなれないのだ!」思い切って立候補。じゃんけんで勝つ。
 クラスレクの日。優勝者に手作りの景品を渡すと、「景品のクオリティー高っ!」「せなちゃん、すごいね!」「ありがとう……!」「せなのレアな笑顔ゲットー!」カメラ係のひなたが突然せなの肩を引き寄せてツーショット。『レアな』って言った。作り笑いだって、ひなたくんにはバレてたんだ。でも、女子の視線がいたい。特に、学級委員でモデルのしおりちゃんと、その取りまきのゆいちゃんとさきちゃんからの……。
 五月末にある運動会の選手決め。2クラスだから、うちのクラスは全員赤組。女子と男子二人ずつの選抜リレー。「正直面倒だよねー。せな、やってくれる?」とゆいとさきから押し付けられ、断れずに引き受ける。「足、引っ張らないようにねー?」そう言って、二人はしおりと一緒にくすくすと笑う。でも……、あれ? 二人からは悪い笑顔から生まれる黒いチビ福ちゃんが生まれているのに、しおりちゃんからは生まれてない……?
 初めてのリレーの練習。二走のせなから三走のしおりへのバトンパスがやっぱりうまくいかない。もっと速くならないと。公園で走っているとひなたが通りかかり、一緒に特訓することに。

転)運動会一週間前。ひなたが事故にあい、足を骨折する大けが。運動会に出られなくなる。「チビ福ちゃんがいっぱいいたのに、なんで不運なことが!?」「こいつはこの事故で……意識が戻らなくなる運命だったのだ。その運命を変えただけで、こいつは十分幸運なのだ」でもひなたは、心から笑わなくなってしまう。あの明るい笑顔にあこがれていたのに。「私がひなたくんの笑顔を取り戻す!」
 笑顔にしようと、お笑いを勉強してみたり手品を覚えてみたり。でも笑ってくれない。「最近、なにしてるのか知らないけどひなたに近づきすぎ」「そんなの関係ない。わたしはただ、ひなたくんに笑ってほしいだけ!」
「おまえが不運なのが悩みだったのに、なんで人を笑顔にしようとするのだ?」「みんなが幸せな方がいいじゃん」「自分のことには積極的にならないのに、他人のことはがんばるなんて、人間はやっぱりふしぎなのだ」
 リレーで一位になれば笑ってくれるかも、と一人で特訓を再開。そこにしおりがくる。なにか言われるかも、と思っていると。「……体幹がブレブレ。そんなんじゃ速く走れない」アドバイスをくれて、練習に付き合ってくれる。思い返してみると、ゆいとさきが言ったことに同調はしても、自分から悪口を言っているのは見たことないかも。
「最近せな、女子から冷たくされてない? おれは大丈夫だって」そう言ってぎこちなく笑うひなた。「そんな笑顔じゃ、福は来ないんだよ!」びっくりしたような顔をされる。せなも、こんなことを言った自分にびっくり。
 ゆいとさきが、しおりの陰口を言っている。「いつも一緒なのに!」「モデルといれば、なんかいいことあるかなって」「ひどい、全然しおりちゃんのこと見てない!」公園にて。「せなは強いね、あのふたりに立ち向かえるなんて」陰から見ていたらしい。実はしおりも転校生。前の学校では、無表情で冷たい、と言われていつもひとりぼっちだった。初めに声をかけてくれたゆいとさきが離れていって一人になるのが怖くて、二人に合わせて意地悪な自分を演じていた。「今までごめんね。でも、本当の私は冷たいやつ。こんな私と一緒にいてくれる子なんて――」「冷たい人が、謝ってくれたりこんなふうに一緒に練習してくれたりしない。しおりちゃんは、やさしい人だよ」「ありがとう」小さくほほえむ。やっぱりきれいな笑顔だな。せなも笑う。福ちゃんが生まれる。

結)運動会本番。最初より、ひなたくんとしおりちゃんのおかげでだいぶ走るのが早くなった気がするよ! 「がんばれ、せなーっ!」ひなたくんの声だ。バトンパスの直前、せなが転んでしまう。手からすっぽ抜けたバトンが、奇跡的にしおりの手の中に! 近くにいたチビ福ちゃんがパッと消える。あの時の子だ!
 リレーは一位でゴール! ひなたくんも笑顔になってくれた。
 放課後。「せな、めっちゃ速くなったな! 一位おめでとう」「おれ、医者に『もしかしたら前みたいには走れないかも』って言われたんだ。そんで、めっちゃ落ち込んでさ。でも、せなががんばってんの見て、なんか勇気もらった。おれも、がんばって走れるようになるよ」そう言って、前みたいにニカッと笑う。わたしにも、人を笑顔にできるんだ!
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