プロローグ

文字数 699文字

 薄暗い森の中。
聞こえるのは、走って踏んづけた葉の砕ける音。そして、荒い呼吸音だけ。

「どうしてこうなってしまったんだろう。」
木々の間を走り抜けながら、十三になったばかりの少女は思う。
そして、自分の前を走る女性の背中を見つめる。

女性は、弓矢を背負っている。

「矢なんて。」

空虚だった少女の瞳が曇る。少女は足元にあった小石に気付かず、あっ!と躓き転ぶ。
事態に気付いた女性が引き返し、少女の元へかけ寄る。
冷たい水のようなものが額から流れ落ちる。
少女はそっと額を触り、触ったその手を見る。

血だ。

少女の瞳は、更に曇る。
女性の心配する声も差し伸べた手にも気付かない。

少女の曇った瞳には砂嵐が流れていた。
嵐が段々と晴れていくと、赤い海が広がっていた。
赤い海に横たわる人々。
その人々がどこで何をしていた人か、自分の事をどう想ってくれていた人か、少女は痛い程に理解していた。
知らない人は、赤い海に佇む一人の後ろを向いた白い軍服の少年だけ。
少年の顔がゆっくりと少女の方へ向き始める。

これは全て過ぎ去った記憶。

今は、少女と女性しかいないし、周りは緑が生い茂る暗い森。
それでも、少女は現実ではない記憶の世界から戻れない。
少年の顔がこちらに向く程、少女の顔はこわばり始める。

恐怖、なのであろう。

少年は装飾が施された白い仮面を付けていた。顔が見えない分、少年の表情は読み取りにくい。だが、口元は微かな笑みを浮かべていた。
その口から奏でられる狂気に満ちた笑い声。

私は、きっと永遠に忘れられない。


苦痛に顔を歪め、少女はギュッと歯をくいしばった。

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登場人物紹介

メル(13) 出身:アイサイ公国


アイサイ公国の皇女。


自然を愛する心優しい少女。天然ボケな一面も。

一般常識をあまり知らない。

恐怖心を持つ事はあまり無く、動揺する事も少ない。

常に開放的な心の持ち主で相手の心を誰よりも理解し、寄り添う事が出来る。その為か、人に好かれやすい。


水を自由自在に操る力、水術《ウォーリアン》は、まだ見習い中。


……。

ナサ(20) 


メルの侍女。

冷静沈着で物静か。感情をあまり顔に出さない。


自分とは真逆のメルを心の底から尊敬しており、守りたいと思う。

仮面の少年 (推定10代)


平和な国、アイサイ公国に現れた謎の少年。

白い装束の軍隊を引き連れている事から、上の身分と推測される。


彼の目的とは……。

謎の少女


メルの夢の中に出てきた黒髪の少女。

アイサイ公国の服を着ているが……。


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