人外の家畜01
文字数 2,868文字
枯渇しつつある大地に吹き付ける息吹は三人の視界を歪まし。尚且つ、時折口に入る砂は“ジャリっ”と頭に響く嫌な音を立てる。
エウは、そんなあたり一面、茶色が目立つ荒野を哀れむように弱い瞳で写すと、皆より遅い一歩を狭い歩幅で踏んだ。
レカは、それに気がついたかのように振り向くと、心配そうに、
「────?」
──口パクってなんだよ。全く何言ってるかわかんねーよ。
だが、それを聞き出すことは、すぐ様に背を向けられた事により無理となる。
しかし、その行為は、結果、エウの考えを改めてさせるには十分だった。
普段は見せない妹の心配そうな表情はそれ程の力がある。『今はそんな事よりも……ッ!』と、自分の頬を“バッチン”と顔を顰めながら叩く。
向かい風は、そんな気持ちすら邪魔するかのように、ネットリと体に絡みつき足取りを重くする。が、そんなのには負けまいと、腰を曲げ風を避けるように大きい一歩を踏み出す。
先頭を行く二人はそんなエウを待つかのように立ち止まり振り向くと、両手を口の前にリアナは翳し、
「だーいじょーぶですかッ??」
「オーっ!! 大丈夫! 少し砂が目に入ってしまって……わりぃわりぃ!」
「──なんじゃ、情けないの……ッ! そのまま失明して、立場も失名しちゃえば良かろう! のッ?! あにじゃ!!」
方や、 内股になりつつ前屈みに、片目を瞑り。心も無い冷たい言の葉を嬉しそうに踊らしたレカ。そんな彼女の舞に踊らされるかのように、躓きながら、
「──おいっ!! シッカリと聞こえてんだよ!!」
「ふふふ、早く来るんじゃなッ!!」
「ちょっ……!! レカさんッ? 今のは言い過ぎじゃ……」
二人に気を使ってか、下手に言いながらも顔を引き攣り、エウを心配するリアナ。それに対し、気にもしていないような、安堵した表情を浮かべながら、
「──ん? 良いんじゃ良いんじゃ! あにじゃは少し考えすぎる部分があるからのー」
「そー……言うものなのですか?? それなら、レカさんが相だ」
「おっと、それ以上、言いおったら、ウチの巧妙な指使いが、リアナの脇を直撃じゃぞ? にひひひ」
小刻みに、白く細い指を動かしながら怪しい笑を浮かべるレカ。
「……あ、あのっ? レカ……さん? ちょっと? なんですか? その怪しい指の動きは……」
後退りをしながら、目には恐怖を宿しているように顔を歪ませるリアナ。そんな事はお構い無しと“ジリジリ”と距離を詰めながら、
「にひひ、リアナは細いからのぉッ。くすぐりぎょぉッ!! ──なな、なにするんじゃ! あにじゃ!」
背後から腕をしならせ、豪快に頭を叩く。涙目で、不満を口にするレカ。しかし、その理不尽な不満にエウは溜息をつくと、
「──たっくっ……。お前は、何をしようとしてるんだよ……本当、可愛いものに目が無いのなッ」
「かっ……かっ……可愛っ──ッ!!」
「……え?」
「……ん?」
──あれ? 俺、今なんかまずった事言ったか??
目の前に居るリアナは、顔を背け、秋の紅葉のように頬を赤らめて目を伏せる。
しかし、そんな女の子ッぽい仕草にエウは何故か無性に自分の発言に恥ずかしさを覚え、目を泳がせながら、
「え、いや、ほら、まあ、あれだよ、あ──ッて!! いっでぇえ!! なにしやがる!!」
片脚のつま先を押さえ、飛び上がるエウの足元にはレカの踵のみが地に着いていた。
レカは、ふてぶてしい顔をしながら、
「──ふん、あにじゃが色目を使うからじゃッ……たわけっ」
「えっ!? 何だって? ぁあ、マジで痛てぇ……」
「──ッ!! もう良いわ!! それよりも早く進もうぞ!!」
──なに、怒ってるんだよ……。
つんけんした態度のレカを、つま先押さえながら目で追う。自分勝手なレカの行動に嫌気がさしつつも、言う通りだと納得をする。
「えっと、大丈夫ですか??」
憂いたような表情を浮かべ、優しい音色でリアナは鼓膜を刺激する。エウはそれをしっかりと全身に行き届かせ、
「いつもの事だよ。それより、先に進もう」
「そうなんですね。──はい、レカさんも先に行ってしまわれましたし……」
「ぁあ、その事なら大丈夫。みててごらん」
何を言っているのか、不思議そうな表情を浮かべるリアナ。
だが、エウには確信があった。それは長年一緒に居た、理解し合っている存在だからこそ分かるものだ。
暫く、その場に立ち止まっていると、先を行くレカの足が“ピタリ”と止まる。
そして、勢い良く振り返ると、土煙を立てながら足早にエウの元へ近寄り、潤わせた上目遣いで、
「……なんで、早くこんのじゃ……バカあにじゃッ」
声を震わし、震えた手でエウの袖を掴むレカを見て、リアナは優しい笑みをこぼす。
「悪かった悪かった、んじゃ、改めて進もうとするか」
レカの柔らかい髪を手で梳かしながら、先を再び見据える。
──それから、一時間程歩き。
やっと、中間辺りか。と、気合いを入れ直していると、
「そう言えば、レカさんは黄泉送り、と言うのを踊れますよね?」
「ん? ぁあ、それがどうしたの?」
「エウさんは、使えないのですか?」
「俺か? ────使える……と、言えば使える。…………ただ」
エウは口にしたくはなかった。
自分の力は、そんな優しいものじゃない、と言う事を自覚している為に。
言葉を喉に詰まらせ、いつもと違う暗い表情をしたエウに、リアナは気がついたのか、人差し指を前に突き立て、
「でも、エウさんのあれは、本当に踊のようで美しかったです! 血だらけは正直怖かったですけど……。そう言えば、洋服とか汚れてませんよね??」
「それはの?? この洋服は神衣じゃからな! 」
「しん……い?」
言った後に、口を“ポカリ”とレカは開ける。
暫く間を開け、
「異業を使う者が作った特別なものじゃな! ある程度のダメージを負ったりすると、自ら修復するんじゃ!」半ば強引な言い方に、リアナは無理やり首を縦に振るかのように相槌をした。
「でも、異業なら納得がいきますね。それで
思い出したのですが、新帝都の抵抗勢力にも使う方が居ると言ったじゃないですか?? その方々は、エウさん達と顔見知りなんですか?」
「──ん? いいや、違うな。違うけれど似たようなものだよ──その話は追々話そう。今はそれよりも、ティティータ邸に……だろ?」
もし、エウが考えて、想像している事で正解だったのなら。今起こっている事態は、かなり厄介なものだと言う事になる。
詳しい詳細を、省かれ地に降りた二人。
その知っている情報以上の何かが今、起きているのだとしたら──。
エウはそれを頭に浮かべると、堪らず総毛立つ。
そして、秩序を壊した新帝都の破壊と理由が一致してしまう事により、余計に緊張感が高まっていた。
エウは、そんなあたり一面、茶色が目立つ荒野を哀れむように弱い瞳で写すと、皆より遅い一歩を狭い歩幅で踏んだ。
レカは、それに気がついたかのように振り向くと、心配そうに、
「────?」
──口パクってなんだよ。全く何言ってるかわかんねーよ。
だが、それを聞き出すことは、すぐ様に背を向けられた事により無理となる。
しかし、その行為は、結果、エウの考えを改めてさせるには十分だった。
普段は見せない妹の心配そうな表情はそれ程の力がある。『今はそんな事よりも……ッ!』と、自分の頬を“バッチン”と顔を顰めながら叩く。
向かい風は、そんな気持ちすら邪魔するかのように、ネットリと体に絡みつき足取りを重くする。が、そんなのには負けまいと、腰を曲げ風を避けるように大きい一歩を踏み出す。
先頭を行く二人はそんなエウを待つかのように立ち止まり振り向くと、両手を口の前にリアナは翳し、
「だーいじょーぶですかッ??」
「オーっ!! 大丈夫! 少し砂が目に入ってしまって……わりぃわりぃ!」
「──なんじゃ、情けないの……ッ! そのまま失明して、立場も失名しちゃえば良かろう! のッ?! あにじゃ!!」
方や、 内股になりつつ前屈みに、片目を瞑り。心も無い冷たい言の葉を嬉しそうに踊らしたレカ。そんな彼女の舞に踊らされるかのように、躓きながら、
「──おいっ!! シッカリと聞こえてんだよ!!」
「ふふふ、早く来るんじゃなッ!!」
「ちょっ……!! レカさんッ? 今のは言い過ぎじゃ……」
二人に気を使ってか、下手に言いながらも顔を引き攣り、エウを心配するリアナ。それに対し、気にもしていないような、安堵した表情を浮かべながら、
「──ん? 良いんじゃ良いんじゃ! あにじゃは少し考えすぎる部分があるからのー」
「そー……言うものなのですか?? それなら、レカさんが相だ」
「おっと、それ以上、言いおったら、ウチの巧妙な指使いが、リアナの脇を直撃じゃぞ? にひひひ」
小刻みに、白く細い指を動かしながら怪しい笑を浮かべるレカ。
「……あ、あのっ? レカ……さん? ちょっと? なんですか? その怪しい指の動きは……」
後退りをしながら、目には恐怖を宿しているように顔を歪ませるリアナ。そんな事はお構い無しと“ジリジリ”と距離を詰めながら、
「にひひ、リアナは細いからのぉッ。くすぐりぎょぉッ!! ──なな、なにするんじゃ! あにじゃ!」
背後から腕をしならせ、豪快に頭を叩く。涙目で、不満を口にするレカ。しかし、その理不尽な不満にエウは溜息をつくと、
「──たっくっ……。お前は、何をしようとしてるんだよ……本当、可愛いものに目が無いのなッ」
「かっ……かっ……可愛っ──ッ!!」
「……え?」
「……ん?」
──あれ? 俺、今なんかまずった事言ったか??
目の前に居るリアナは、顔を背け、秋の紅葉のように頬を赤らめて目を伏せる。
しかし、そんな女の子ッぽい仕草にエウは何故か無性に自分の発言に恥ずかしさを覚え、目を泳がせながら、
「え、いや、ほら、まあ、あれだよ、あ──ッて!! いっでぇえ!! なにしやがる!!」
片脚のつま先を押さえ、飛び上がるエウの足元にはレカの踵のみが地に着いていた。
レカは、ふてぶてしい顔をしながら、
「──ふん、あにじゃが色目を使うからじゃッ……たわけっ」
「えっ!? 何だって? ぁあ、マジで痛てぇ……」
「──ッ!! もう良いわ!! それよりも早く進もうぞ!!」
──なに、怒ってるんだよ……。
つんけんした態度のレカを、つま先押さえながら目で追う。自分勝手なレカの行動に嫌気がさしつつも、言う通りだと納得をする。
「えっと、大丈夫ですか??」
憂いたような表情を浮かべ、優しい音色でリアナは鼓膜を刺激する。エウはそれをしっかりと全身に行き届かせ、
「いつもの事だよ。それより、先に進もう」
「そうなんですね。──はい、レカさんも先に行ってしまわれましたし……」
「ぁあ、その事なら大丈夫。みててごらん」
何を言っているのか、不思議そうな表情を浮かべるリアナ。
だが、エウには確信があった。それは長年一緒に居た、理解し合っている存在だからこそ分かるものだ。
暫く、その場に立ち止まっていると、先を行くレカの足が“ピタリ”と止まる。
そして、勢い良く振り返ると、土煙を立てながら足早にエウの元へ近寄り、潤わせた上目遣いで、
「……なんで、早くこんのじゃ……バカあにじゃッ」
声を震わし、震えた手でエウの袖を掴むレカを見て、リアナは優しい笑みをこぼす。
「悪かった悪かった、んじゃ、改めて進もうとするか」
レカの柔らかい髪を手で梳かしながら、先を再び見据える。
──それから、一時間程歩き。
やっと、中間辺りか。と、気合いを入れ直していると、
「そう言えば、レカさんは黄泉送り、と言うのを踊れますよね?」
「ん? ぁあ、それがどうしたの?」
「エウさんは、使えないのですか?」
「俺か? ────使える……と、言えば使える。…………ただ」
エウは口にしたくはなかった。
自分の力は、そんな優しいものじゃない、と言う事を自覚している為に。
言葉を喉に詰まらせ、いつもと違う暗い表情をしたエウに、リアナは気がついたのか、人差し指を前に突き立て、
「でも、エウさんのあれは、本当に踊のようで美しかったです! 血だらけは正直怖かったですけど……。そう言えば、洋服とか汚れてませんよね??」
「それはの?? この洋服は神衣じゃからな! 」
「しん……い?」
言った後に、口を“ポカリ”とレカは開ける。
暫く間を開け、
「異業を使う者が作った特別なものじゃな! ある程度のダメージを負ったりすると、自ら修復するんじゃ!」半ば強引な言い方に、リアナは無理やり首を縦に振るかのように相槌をした。
「でも、異業なら納得がいきますね。それで
思い出したのですが、新帝都の抵抗勢力にも使う方が居ると言ったじゃないですか?? その方々は、エウさん達と顔見知りなんですか?」
「──ん? いいや、違うな。違うけれど似たようなものだよ──その話は追々話そう。今はそれよりも、ティティータ邸に……だろ?」
もし、エウが考えて、想像している事で正解だったのなら。今起こっている事態は、かなり厄介なものだと言う事になる。
詳しい詳細を、省かれ地に降りた二人。
その知っている情報以上の何かが今、起きているのだとしたら──。
エウはそれを頭に浮かべると、堪らず総毛立つ。
そして、秩序を壊した新帝都の破壊と理由が一致してしまう事により、余計に緊張感が高まっていた。