第3話 学園無双2

文字数 14,277文字


シャリヤ。中近東では大国になる立憲君主制の王国である。イラン、リビアと並んで貧困が最も少ないであった、リビアはもう実質消滅状態だが。
シャリアも西側超大国の侵略作戦によって戦場にされたが、今回は他の超大国達による援助でどうにか抵抗できている。
北東の広い地域や北西部では西側が仲間同士で侵略した地域の取り合いをしている。というなんかろくでもない状態にされちゃっている国である。どうにかしのげているけど。

そういうとこなので、前線に近い街などではスミストレーディングが活躍する余地があった。
両親はそこの町長の家の一室に事務所を構えているが、僕ジョン隅須はその街から一番近い小さい都市アルバーカに住んでいる。両親の知り合いの家だ。
そこからここの近くの高校に通っている。勿論公立。この国で今私立は比較的安全な首都(王都)くらいにしか無い。首都以外の地域だと保安を確保できないからだ。


アルバーカ公立ムハマンド高校。
前回二年生だったので、そのまま二年生を続けてみることにした。

「よお外国人、おまえどっから来た?」
「やあ国内人!、俺は日本人、その前はムタエラ人だった。」
「???、、まぁいいや、、ムタエラか、、あの国も、、大変だったろ、、まぁここは安全だ。楽しめ!」
「ああ、感謝する。そのかわり、お前も楽しめ!」
「???、、まぁ、、なんだ、、俺の名はシャリフ、17歳だ。オヤジはマッシャリフ、大工だ」
「はじめましてシャリフ、俺はジョン・田中・吉田・スミス、15歳、両親は商人をやっている」
・・・・
「どれがなまえなんだ?」
「うむ、ジョンと呼んでくれれば返事をするだろう、」
「?・・・・あ、ああ、、わかった??」

アラブ圏でここの者達の名前で冗談は通じない、つか、危険なことに成る場合が多い。
ジョンは無意識にその部分での冗談を制限していた。勿論自分のに対してだけはOKだからそれなりにいつもどおりに。

「シャリフ、君のお父さんはマッチョだろう?」
「よくわかったな!がっちがっちだぜ?!」

名は体を現すって、こういうことを言っているのだろうか?
マッスルのアラブ語での形容動名詞現在形?いや知らんけどwんなの無いはずだけどw



学校は大概午前中つか朝のうちだけだ。気温が高くなる昼前、遅くとも11時には終る。
地域によっては外を歩けないほどの気温になるからだ。ここもそれに近いから授業も11時迄しかないわけだ。

昼間の暑い時間帯は、水に余裕の有る地域なら、水をぶちまけたマットレスで昼寝でもする。1時間かからずに乾いてしまうが。
勿論ほとんどの家にエアコンなんぞ無いし、あっても、、外との気温差が激し過ぎるので、寝る時以外は使えないだろう。しかも夜は結構涼しく、薄い毛布や布を駆けて寝るくらいだからエアコンなぞ昼間の暑いときの数時間しか必要ない。そんなのに高い金をかけられない。一般屋では、床とベッドに水ぶちまければとりあえず寝られるのだから。
なので、病院など以外ではそれほどエアコンの必要性を感じない。

風はあまり吹かない。が、もし昼間に風が吹いたら、ドライアーの最強の温度の風を間近で吹き付けられてる感じ、といえば、わかるだろうか。あっついんだよw日焼けどころじゃなくやけどしそうな感じなんだよ!日差しがいたすぎるんだよ!!
まぁ、汗かいても瞬時に乾燥しちゃうんで、長袖長ズボンでもそう気にならない。でないと日焼けが激しすぎてえらいことになるから。
そんな昼間に外に出る者などいない。店屋も空いていないし銀行等も閉まっている。外に出てもできることっていったら散歩ぐらいなものだ、耐久散歩だな。だが、夜は結構遅くまで店屋は開いている。
昼間と夜中の一部を交換したようなものなのだ。

と言っても、北部で山岳地帯とかだと、冬の時期には夜に雪が降ることもある。まぁあまり積もらないけど、、イランあたりならスキー場もあるけどね。
以前、両親の仕事の切れ目に時間が空いて、そのスキー場に遊びにいった事があった。なかなかおもしろかった。

そういうことまで地域性=地域の個性として理解できなきゃ何もできない。居ることさえも。



シャリフとジョンは一緒に下校し、途中の店屋で串焼きを買食いし、別れた。

シャリアは小さな町でさえも外人や異教徒に対して偏見など見ない。中近東でもイランとここだけかなー。エジプトなど観光客多いのに結構あからさまだったから居心地悪かった。ドバイやUAEなど問題外にひどいし(しかも外人が気付かないようにやるんでたちが悪い)、、
外人多いほうが偏見多くなるのかな?偏見よりも嫌がらせや犯罪やぼったや嘘が多いのがどうにかしてほしかったが、両親もそういう地域を嫌っているのでもう行くこともないだろう。

ここは居心地がいい。



夕方に夕食を食べ、外に出た。特に何の用事もないが、僕みたいに夜の涼しい空気の中で散策する者は多い。

夜には大半の店が開く。屋台や路上の物売りも多い。中でも繁盛しているのがジュース売りとアイス売りだ。
果物ジュースや果物を凍らせたアイスは比較的高め。果物は輸入物が多いから。水が多いところでないと果物の樹はすぐに枯れてしまう。
スイカやパパイヤみたいな草系なら栽培できるかもな。きっとこのシャリヤでもどこかでやっているだろう、アルバーカでは見たことないけど。あったら最初にミサイルの標的にされていたろうけど、、そういう嫌がらせが好きなんだとなあっち側。

スイカジュースを買う。うすく切ったスイカの赤い部分と砂糖水を少しいれクラッシュアイスと水を入れてカサを増し、ミキサーでがりがりやる。自国で果物がふんだんな国は水を入れないし砂糖も入れないところが多い。

シェイク気味になっているジュースをストローで飲みながら散策を続ける。
あれ?

「シャリフ?」
「おお!ジョンじゃねーか?散歩か?」
「うん、君は物売りかい?大工じゃなかったのか?」
「まぁな、仕事で出た木切れ貰っていろいろやってんだよ俺」
地べたにひかれた布の上に並べられているのは、木を彫ったりして作られたいろいろなもの。
小皿やコップ、匙など生活用品、人形やドミノや、、、手載りほどのちいさな木彫りの熊?

「あの、、これ?」熊を指差す
「wwああ、これな、今日作った。お前が日本人だと言ったのでサイトで彫り物をさがしたらこれが有名だと書いてあったので真似してみた。どうだ?」
「すげーよ、上手いな!今日あれから帰ってから作ったのか?」
「ああ、昼寝もしないで彫ったぞ?」
「・・・すげーな、、、根性いいな、、」
へへっ!といいながら鼻の下をこするシャリフ。

「これ、、いくらだ?」
「お前がほしいのか?」
「ああ、、、シャリア人で木彫りの熊を彫ったのはお前が初めてだろう。だから一番最初のこの熊はほしいな」
二人目がでるのか?と問われると、、さあ?

「やるよ、お前だからな。」
「いやそれは悪いだろう、お前も商売なんだから」
「いやいい。おまえにやる。」
こういう場合コレ以上遠慮はよくないのだこっちでは。
「わかった。ありがたく貰うよ。大事にする」
「ああ!」


帰宅し、おじさんから炭を貰って粉にして水に溶いて少々煮込んでから、熊に塗る、乾かしてはまた塗る、を繰り返した。



朝になって見たら、よく乾いていて色も良くなっていた。布で強くこすって艶を出した。


「これ、、」
シャリフに見せた。
「・・・おおおっつ!!」
「日本の熊はこんな真っ黒なんだ。」
「すげーな?やるなおまえ!」
「いや、シャリフの彫った熊が上手かったからな、色が映えた」

それから休み時間に色々話し、それでも尽きず、
放課後は帰宅後昼食をとってからシャリフの家に行った、熱い(暑いではない)中。

シャリフの家には小さな工房が有る。大工の父親が窓枠を作ったりドアを彫ったりするための工房。
シャリフもこもっていろいろするらしい。

窓を”空けなければ”日中でもそこそこ涼しい。周囲の家の影になっている一階だからだろう。
そこで僕とシャリフは新作について具体案をねっている。

「家だ」
「ああ、学校で言っていたやつだな」
シャリアはノーパソを開いてネットから家の模型の写真などを見つけた。
「そうそう、こういうやつ。を、木で作る。木のほうが本物と同じくなる。で、ドアも窓も開け閉めできるようにする。
色も塗る。できれば絵の具よりペンキのほうが本物と同じなので良い。金具類は金属じゃ難しいので金色や銀色のペンキか絵の具で塗るしかない。カーテンなどはできるだけ薄い布を使う。絵の具で模様を描くのがいいな。
そうそう、シャリフ、HAKONIWAで写真を検索してみてくれないか?」

「おお!すげーな?なにこれ?」
「まぁ、これだけだと面白みを感じる者は少ないけど、僕らが今考えている家の周りをこうしてみたらどうだ?」
「おお!本物っぽくなるな!」
「名付けて箱庭の家、かな?大工シャリフの家シリーズって、幾つも作ってもいいな」
「おお!いいなそれ!」

植物は丁度いいのが手に入らないので作ることにした。僕がいろいろ試してみる担当になった。シャリフは家創りに忙しくなるので。


シャリフの家のパーツが結構できてくると、オヤジさんも興味を持ったらしい、いろいろ考えてアドバイスくれるとのこと。
たまに小物を持ってきて「これ作ったから使え」とくれるんだと。よくできた食堂のテーブルや椅子6脚のセット、とか、かなり時間かけて密かに作ったらしい、、シャリフは笑いながら喜んでいた。
いいオヤジだな。


3ヶ月も過ぎると、家は4件目になり、かなり上達していた。
特に細部まで手を入れているのが素晴らしい。ドアや窓枠の模様彫り、家の中の飾り物も手が込んできている。
それに合わせるように僕の庭も素材の改良を重ね、結構本物に近くできた。

「よし!売ってみよう!」
肝心なのは値段だ。
「初回大特価、と理由を付けた上で、アルバア(4)は1000リアル、タラータ(3)は800、イトネーン(2)は600、ワハッド(1)は500、でどうだ?」
と僕。
「たかくねーか?」
首都ではこのくらいなら高いとは思われないが、ここは少々大きくても地方都市なのでそう思うのだろう。
「とりあえずやってみよう?皆が興味を引くかどうか?を見てみよう、値札は付けずに」
「ああ、、そうしようか」


夕方、夜市の高級街寄りの場所。夜市は大きい。数日かけて客層の分布の見当を付けた。この場所は比較的裕福な者達が入ってくる場所だ。

「さあさあ寄ってらっしゃいみてらっしゃい!!この街が誇る大工マッシャリフの息子シャリフの最新作、HAKONIWAの家、シャリフの家シリーズが一挙に4作品売り出しだ!
この名作がたった4つしかない、早いもの勝ちだ!!首都だったら絶対普通じゃ手に入れることもできない作品だ!見ていくだけも価値が有る!
さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!」
シャリフはそんな口上を述べる僕を呆れてみている。口をほげっと開け放して、、、ぷw

黒山の人だかりである。当然だ、この僕がはったりかませばwアラブ圏で育ったのは伊達ではない?w

「・・なんの?ための?なんだ?これら、、、」
一人の家族連れの主人の方が聞いてきた。

「ほうほうそれを訊く?だんなさん!嫁に出たらもう可愛がれないそこの娘さん達や、目を輝かしている奥さんに買ってあげるためのもんだ!コレを愛でてもいい、ドアも窓も開け閉めできるし、テーブルや椅子も使える本物仕様!ちいさい人形で娘さん達が遊ぶことも出来る!
こんな素晴らしい小さな家を他で見たこと有るか?皆さん!全て木を使って手で彫った本物だ!先進国のプラスチックでできたちゃちなものとは雲泥の差だ!
どうだい?だんな!これなら娘さんに買ってやっても、孫やひ孫まで使えると思わないか?プラスチックだと10年もたてばぼろぼろだ。だが木は違う。大切にしていれば何十年も持つものだ!
居間に置いておけば、来客達も興味津々!この素晴らしい家に興味を持ち感心しない者はいないだろう!!そうは思わないか?そこのだんな?!」
「お、、おう、、そうだな、、皆興味持つし感心するだろうな、、」
と人だかりの奥にいた恰幅の良い男性、勿論家族連れだ。夕食後の散策は殆どが家族連れ。

「いくらだ?高そうだな?」
と、最初の質問をしただんな。
「今回は特別価格!安くした!!最も手をかけた作品アルバア(4)は1000リアル、作品タラータ(3)は800、作品イトネーン(2)は600、作品ワハッド(1)は500だ!!どうだ!こんな良いものがものすごく安い価格だろう?!
ネットで見てみればいい!全て木製、手掘り、本物に使われるペンキや墨などで作られている作品がこの10倍や20倍の値で売られているんだ。」
実際キットのしょうもないものを組み上げただけのものでさえ、コレ以上の価格が付いている。
この国の1000リアルは1000タイバーツ、3000日本円相当。ちなみに食堂で一食が120−150リアル。安いはずだ。

「4と3をくれ。」
最初の旦那。
「まいどあり!!」
「んじゃ俺は2と1」
「「まいどあり!!」」

「おい、他にないのか?」
「残念、今日はしまいだ。また売りに来るから、そのときよろしく!!」
他の客は考える間も無く品が無くなってしまったのでぶつぶついいながら、嫁や娘にぶーぶー言われながら散っていった。

・・・・・・
「やったな?」
・・・・まだ実感していないシャリフ
2900リアルをシャリフに握らせ、
「おめでとう!デビューは大成功だったな!!」
「・・・お、おう、、、びっくりだな?まだ、ちょっと、わけわかんねぇ、、、
だってよー、この間まで30とかせいぜい200リアルのものがちびちび売れるだけだったんだぜ?」
呆然としたままのシャリフをそのまま家まで送り、僕も帰宅した。

ちなみに、この街あたりになると、低収入の者達は月に1万から2万リアル、家族持ちの一般で3万から5万。
シャリフが制作に慣れれば、月に4−5軒の家を作れるだろう。
先に窓枠や扉など少し時間が有る時に手を入れることができるものを作りためておけば、もっと容易に良い作品を作れるように成るだろう。
デザインなど考え込まなくてもその場で思いつくように慣れれば、まとめて並行して作れれば、週に4−5軒いけるだろう。首都に持っていったり、ネットで海外に売れるようにすれば、価格も数倍以上になる。
この街でも次回からこの倍の値段で普通に売れると思う。
二階建て、三階建、追加用小物類、などなど、いろいろできる。
また、日本家屋みたいな変わった家屋を作ってもプレミア価格で売れる可能性もある。

一般人が買える価格帯だ。他の誰かが真似し始めたとしても、ボロ儲けできるものでもないし手間が掛かるものだから、容易に稼ぐために真似る者は出ないはずだ。もともと木工やっており、自分もやりたい、という者が真似し始めるくらいだろう。
たぶん、シャリフは、彼自身が願えばこれで食っていけるだろう。

翌日放課後、シャリフに連れられシャリフの家に。
オヤジさんから感謝され、一緒に昼の食事させてもらった。子供が主役で歓待されるなんてこっちじゃ異例だな。



放課後、シャリフとその友人達と買食いしていた。
「おめー、2本も食うとまた”お昼ゴハンの前に買食いしたでしょ!!って叱られるぜ?」
「あー、でも、仕方ないよ、串焼きが買ってくれ買ってくれって煩いんだもの」
「「「なんだそれ!www」」」

ここらはヤギ肉が結構出回っている。ヤギ肉はうまいのだが、食べられる国は少ない。
本場のカレーもヤギ肉が秀でて旨い。勿論串焼きもだ。塩のみ、塩と胡椒、だけで十分。たれなど不要。

「ぼうず、旨いのか?」
いつの間にか白人がそばにいて訊いてきた。
白人、珍しいな?
他の3人は固まっている。戦争始まってからは久しく白人を見なかったのだろう。

「・・・エータ、フクースナ.ノ、ヌラフィッツリイエーティナストラーンッツアン」僕
「そりゃ、食ってみなけりゃわからんわな、、おやじ、一つ!」

「ジョン、なんて言ったんだ?」
「ん、旨いよ、でも外人が旨いと思うかどうか?って。ロシア語で。」
「「「はぁーー」」」

「おっちゃん、旨いか?」シャリフ
「おう、俺には合うな。コレでウオッカがありゃーなぁ、、」
「悪いな、うちの国じゃあまり酒売る店ないんだよ」
「ああ、いいさ、ウチの国の中でもそういうとこは結構あるんだぜ?」

そうだ、連邦内国家でイスラムの国は少なくない。そして中央はほとんど干渉しない。よほどその国内が乱れない限り。だから世界最多民族数の国家が、そういった部分での摩擦や軋轢を発生させないでいる。同化などさせないのだ。「自分のことは自分でやる」と当たり前のことを当たり前にやり、させている、だけ。だから連邦を抜けたがる国など今まで無かった。
過去、敵対していたアフガンの戦士たちでさえ、悪口はほとんど無かった。もう皆いい歳の老人になってしまっていたが。

「珍しいですね、ロシア人が話しかけてくるなんて、、」
そう、人に干渉しないというのは自分も干渉されたくないということの裏返し。見知らぬ者に話しかけてくることはめずらしい。

「ああ、俺は、、こんな感じで外ばっかりだからな。あれじゃねーか?軍に入ってからは国内に居たほうが少ないくらいじゃね?」
「僕に訊くなよ」
「あっはっは!だよなぁ?」
珍しく陽気な系?
でもアフガンの年寄り言ってたな、仲良くなったらかなり親身になるって。

「アフガンの年寄り達が言っていたとおりかも知れない、、」思わず口にだした
「・・・・そうかもな・・・」
「ジョン、アフガンにも居たのか?」
「ああ、少しだけ、NATOが入り込んで追ん出された。商売はウチでやる、ってな。」
「ひでーなー、」
「外人に居られたくなかったんだろう、、その後でっかい病院に”誤爆”っていう攻撃を仕掛けた」
「・・・ああ、お前も知っているってことは、、」
「うん、経路上にあるあの外人医者ばかりの病院が邪魔だったんだ。あっちじゃ近隣国の連中まで知っていたよ」
「まぁなぁ、、中央アジアに入り込むにはそこらへんしかないからな。」
「うん、そこらへんも皆知っていて、そう言ってた。」

「・・アフガンの年寄り達、なんて言ってた?」
「戻ってきたら歓待するって。今のを追い出してくれりゃいつまで居てもいいってさ」

「俺の上の兄貴が、アフガンで戦死しててな、、まぁ、今そうなってるってこた、兄貴の戦死も意味あったんだろーな」

「なぁ、あんた、ここらに来るの?あんた達が駐留するの?そしたら、いつでも来いよこの街に」
「ああ、ありがとうよ、でも旅行だ。休暇貰えてな、国に帰るほどの日数もないんでな。今日の夜のバスに乗ってファザーリシャリウに帰る。帰って一杯やる!」

男はじゃーな、勉強しろよ!と手を上げ、行った。

「初めて見た!良いやつだったな?!」
「うん!僕もはじめて!」
「僕、外人初めて!」
「あぁ?俺だって外人だぞ?」僕
あっはっはっは!見えねーよ!! と皆して笑った。



なんてこった、、

翌々日、やはり放課後串焼き食っていると、、、

「へいボーズ達!串焼きうまいかい?」
・・・・・・
いや、もろあめりかじんってやつだなー
「へいアメリカ人!串焼きまいうー!!激うまー!!!」
・・・・
「ぼーず、なんで俺がアメリカ人なんだ?」
「「「「だってなー?」」」」
「アメリカ人以外いないよ、あんたみたいの」
「・・・どこが、どう?」
「・・・いいの?」
「・・うん、、、」
俺は食べ終えた串で地面に小さな地図を描いた。
「ここがこの店、で、この場所、、わかる?」
「・・・うー、、ああ、あそこの店の角入ってまっすぐ行って、2ブロック先を右に、、」
「そうそう。で、、まずアメリカ人は地図を読めない。読める者は少なく、見た目も聡明そうな者なのでわかりやすい。更に、
あんた、一緒に来た友人達をここに呼んで。」
「え?なんで?奴等は今他・・・
おいガキ、何言ってんだ?」
急に凄む

3人は側に居ない。そして、周囲に大人たちが集まってきている。手に棒などを持っている者も多い。

僕は立ち上がって、皆に聞こえるように
「アメリカ軍の斥候だろ?民間人を装って、この街は”商売に成るかどうか?”を探りに来たんだ。
この街の人達は、臓器提供者として健康で清潔かどうか?を確認したいんだろう?
残念だな、この街は過去に肝炎が流行ったんだよ。子供達まで一度は罹っている、健康度は難民収容所の難民並でしかない。この街の人々の臓器は売り物にならないよ!
その正しい情報を持ってとっととお家に帰ってままのおっぱいでも吸ってろチキン野郎!!」
僕の罵倒の終わりと同時にシャリフがそいつの後ろからドロップキックを食らわせる、そいつは前に数歩よろけ、集まっていた群衆に飛び込む形になった。

「あとは、大人たちがケリをつけてくれるよ」シャリフ
「蹴ったのはおまえだろう?」ふとっちょ
あははははー、笑いながら帰った。


翌朝、居候している家のおじさんに訊いたら、
「一人だけは帰えしたぞ?伝言を伝えてもらわねばならんからなぁ」

ムタエラの時に両親が言ってたことがある。
「一度デカイ仕事をちゃうとそれをもたそうとしちゃう。でも供給が間に合わないと、仕方がないという理由を付けて品質をがくんと下げる。でも量だけは確保しておきたい、と。
奴等はボスニアで大量の臓器を流してでっかいマーケットを確保した。が、その後いくらどんなことをやっても、ボスニアの時と同じ品質で量など押さえられるはずがない。
だからそういう状況を欲しがり、同時にパイプラインルートを押さえたかったが抵抗していた国をも潰せ、更に、大量の油井も確保でき、更にまたその上にオイルマーケットを支配出来る。
だが、臓器に関しては最悪手だ。東欧は西側みたいに化学薬品で汚染された臓器ではない。しかも温帯や熱帯地方みたいに寄生虫や肝炎のような一生持っていくっていう病気もあまりない。とても上物だったんだ。
それに対し、難民と称した戦場以外の国からの移民を大量に西側の難民キャンプに流し、臓器倉庫とした。勿論健康状態を向上させることなんか全くしていない。キャンプが整然としてしまったら居なくなった者達ってのが分かりやすくなってしまうので、全てが最低状態の方が良い。人々の心に余裕を作らせたらだめなんだ、というのが奴等の考え。結果、最低な臓器しか提供できず、上客は逃げた。価格も下がった。
やつらは、ボスニアが終わった時、「祭りは終いだ」と諦めればよかったのだ。単なるラッキー、宝くじがあったったようなものだ、と。でも知能がとてつもなく低く、心が腐っていると、どうしてもそう考える事はできない。
昔からそうだが、ネオコン系もCIA系もバカしかない。だから奴等の仕組んだことはすぐわかる。バカの匂いがぷんぷん残っているんだいたるところに。」

「皆に教えないの?このムタエラの皆とかに、、」
「言ったさ、でもどこに逃げるんだ?と言われた。どこでもいい、砂漠で野垂れ死ぬか奴らの金になって死ぬのか、どっちがいいのか?って言ったよ。で、奴らが来ても皆そうなるわけではない。だと。
俺は家族の誰か一人がそーなってもいやだから逃げるけどな」


この話はシャリフとふとっちょ達3人にしかしていない。
この街アルバーカにNATOが乗り込む可能性は少ないとは思う。現状では。
でもどうなるかわからない、奴等はまだ完全撤退などする素振りもみせない、おもてでは撤退するとか言っているが、現場であるこっちから見ると、どんどん押してきている。隙きを見つけちゃ入り込んで消耗品のゲリラを送り込んで荒らし、それを助ける騎兵隊を装ってやってくる。マッチポンプだと世界の主だった者達は知っている。けど止める力を持つ者たちはいない。

僕は4人に伝えた。
「僕の両親の仕事がなくなる時というのは2つの原因のうちのどちらかだ。
1,戦争や紛争がなくなり、街にでっかい商社が入ってきた時。
2,戦争や紛争が激化し、輸送が困難になり商売ができなくなった時。
これをよく見極めてほしい。僕達家族が撤退するということは、かなり近くまで迫っているときだ。
前回は幾度も隠れてゲリラをやり過ごすことができたが、たまたま幸運だっただけだ。それほど迫ってから僕らは撤退する。半日遅れたらどうなっていたかわからない。」

彼らは戦場の国の子どもたちだ。
僕の言うことはしっかり理解できている。

この街を侵略対象にするかどうか?の調査にこられるくらいにまで迫っている、という事実を見せつけられた。
この街を支配しているのは子どもたちではない、大人たちだ。
判断するのは大人達だけだ。


ーーーーーーーーーーー


3ヶ月が無事に過ぎた。
戦線が変わったという話は聞かない。うまく押さえていてくれているのだろう、あのおっちゃん達が。自分の国にでもないのに。今迄ココ以上に利害関係深かった国が侵略されても放置していたのに。


とにかく国内ではそれ以上の情報がない上、国際情勢もさほど変わりがない。
コロンビアあたりでマフィアどもがCIAに離反し大々的に内戦になる、とかくらいになればかなり奴等の戦力分散、とかに貢献してくれるんだが、南米はCIAの薬菜園裏庭、がっちり恐怖による奴隷化しているし。

でも下手したらスミストレーディングが南米に行く、とかスゲー嫌だし。


毎朝僕らは一応僕らなりに情勢確認をするようになっていた。あれからいつの間にか。
その後はいつもどおり。

「なぁ、シャリフ、首都に売りに行ってみないか?」家は10軒以上できていた。

ーーーー

俺らは幌付きトラックの荷台の中に居た。車は100キロ以上出している。ホロの隙間から入ってくる風は熱い。
周囲は砂漠。土漠だったらまだマシだったはずだが、、そんでも町中より暑いけど、、
朝早く出て、高速のように飛ばせ、信号も町中に一つ2つあるだけの国道をまっしぐらに首都を目指す。
車代は「売上の1割」で話がついた。だからウンチャンをしているシャリフのひと周り以上上のいとこも、販売を手伝ってくれる。「いくらで売れたか、いないとわからないだろう?」と言うと、しぶしぶ。
夜には到着するだろう。

だったら夜に走ればいいのに?と思うが、戦場の国だから夜の移動など出来る限りしない。夜の砂漠は蛇やサソリとか危険なので道路上と言えどもなんかあったときを考えればやめたほうが良い。物盗りとか出るのも夜。
車通りが多ければ夜でもそのような危険性は小さくなるが、砂漠の道を夜通る者はほとんどないのだ。
熱くても安全な方が良い、はアタリマエのこと。


ほとんど話もせず、うつらうつらし、いつの間にか日が傾き、やっと涼しくなり、やっぱそれで眠気もマシてうつらうつらが続き、気付いたら町に入っていた。

「ついたぞー、宿のオヤジに話してくるから待ってな」
ほどなく彼は鍵を持って帰ってきた。
倉庫を空けてもらう。その中に荷を入れておけばいいとのこと。
14個の木箱などを運び込み、
宿から借りた鍵に、シャリフがオヤジさんから渡されたでっかい南京錠を2つをかける。
商人は倉庫用のでっかい南京錠、部屋用の普通の大きさの、カバンなど用のちいさいのなど幾つも持っているのは当然なのだ。
外人旅行者でも部屋の扉用とちいさい錠幾つか持っているのは当たり前だ。

夕飯は外。アラブ圏は基本家で食べる、家族と。なので外食は盛んではない。なので東南アジアなどに比べれば高め、と言っても倍から3倍くらいだろうか。
ほぼカレー。本物。幾種類もある。やぎのが一番好きだ。次に鶏。でそれらが無かったら豆。魚カレーはあまし好きではない。
ここいらはチャパティではなくナンみたいなやつ。
茶は紅茶で砂糖ミルク香辛料入り。辛いカレーの場合はより熱い茶を飲むと良い。冷たいものは辛さを引き立たせるだけ。
寝る前なので少しだけにした。

少し寝た後、外に出る。
夜市を少し歩いて様子を探る。
シャリフと、あすこがよさそうだ、とか言い合う。
たまに店をひやかし、ここではどうやって場所を決めているのか?などの情報を貰う。


3時にはもうほとんど引き上げ始めているので、僕らも引き上げる。

翌朝早くにまとめ役のところに行って交渉。
山の手から近い位置はあまり人気がないらしく、つまり高額品を売る出店は少ないらしく、よさそうな場所を確保できた。2日間。

まだ暑い午後4時過ぎ頃から用意を始める。少し早すぎたかな?
今回はちょっと高級そうに見える敷き布と、シャリフ父の手作り販売台。販売台には照明が付いている。車のバッテリーで点灯させる。
目玉は豪邸。シャリフは3つ作った。イスラム様式の豪邸。正面のドアの上にだけモザイクガラスをはめ込んだ。
最低でも1万以上で売りたいと密かに思っている。シャリフは1万で売れたらバンザイだとか言っているが。
7時頃には人が多くなっている。
「安いものからやってみよう、」と。
今回の安いものは前回の最も出来の良かった4よりもかなり良い。

口上を始める。可能な限りでかい声、景気良さそうに、楽しそうに!

「・・・というわけで、今回は作家さんが大幅に時間を掛け、素晴らしい作品ばかりを作ってきた!この首都の皆さんの高級度に合わせて!!
最後には驚愕の作品も出しましょう!最後の作品のみ競りになります!!

さあ最初の作品だ!!」

ほぉおーー、、という溜息とも声ともつかないものが客達の間から漏れる。

僕は正面玄関を開けたり閉めたり、窓を開けたり閉めたり、屋根を取り外して中を見せ、中の調度品を取り出す。
その度に声が漏れる。
虫眼鏡をと食堂のテーブルを、一番前の家族連れの主人らしき男に差し出す。
「どうぞ見てください、細部まで!」
男はじっくり見た、5分ほども掛けて、そして虫眼鏡とテーブルを斜め後ろの妻らしき女性に渡す。
数分見たあと、、
「うちのより立派よね、、、」
「ああ、、」
「ほしいわ、、」
「しかたないな、、これくれ」
値段も聞かずに買う、、これが首都の金持ちか、、、
5000で売った。妻のほうが思わず「やすかったわね!」とこぼした。
家を木箱に入れ、息子らしき少年に渡した。

その後順調に最後まで。

「さあ!最後の超豪邸だ!」

箱から出した時は白い布を掛けてある。
販売台にのせ、布を取る。
照明に映える豪華住宅の模型
ライトにモザイクガラスが美しく透ける。
扉や柱、調度品などに薄く幾重にも塗られたニスも、深みを見せる。
二階建ての上から屋根を外し、領主の執務室にさえ見える書斎の丁度品、、本まで一冊一冊紙で作った、僕がw
姫のベッドにさえ見える天蓋付きレースのカーテン付きのベッド。極薄の布を探すのは苦労した。
布団も薄い布に小鳥の綿毛を詰めた本物より柔らかな羽毛布団。
絨毯だけは仕方が無く本物を使い、そのカサがある分だけ部屋の高さをたかくとった。
これ一軒に、5軒分以上の手間暇を掛けたのだ。

「まず2万から。」僕は厳かに言った。

「3万」
「3万5千」
「5万」
「7万」
・・・
「7万以上、ありませんか?」
たぶん、あと2つ箱があるので様子見なのだろう。

「7万、決まりました!」

最後の一つの時、
「次回はまた数カ月後になります、この豪邸はそれだけ時間が掛かるのです」
と僕は述べた。
だからか、熾烈な争いで、、
18万7千500で落ちた。


売上合計額50万リアル弱。2日見てたのに1日経たずに終わった。
シャリフは呆然としていた。前回の売上合計2900。
いとこはほくほくだった。5万、行き帰りあわせて4日で一ヶ月分稼げたわけだから。

片付けをしているところに、最初の方の数軒目を買った男が一人でやってきた。
「いいかな?」
「はい、」僕が対応する。
「これを、、」
名刺だ。
英語とアラビック両面の名刺。
不動産だろう、社名は直訳だと投資なんたらかんたら、下に、土地、建物、などとある。
「家の販売業ですか?」
「ああそうだ、で、あの家の模型の作者に依頼できるのかな?」
「どのようなものを?」
「上客の家を、図面から起こしてもらいたい」
「シャリフ、君に依頼だ」
びっくりし、おずおずと近づく。
「大丈夫だからっ!!」
・・・・・「ほう、、こんな若いのに、、、」
「ええ、でも彼の父も協力してくれています。本物の家を作っている大工です」
「ほう!ではさぞ腕はいいんだろうな」
「うん、おr、僕の父はきれいな家を作る、使いやすい家をつくるって評判だ、です」
「あはは、いいよ、話しやすいように話し給え。これはビジネスの話だ。対等だ。年齢も何も関係ないのだ、ビジネスの時は。」
「ありがとうございます、シャリフ、思ったことを今言えないと後から困るから余計なことは気にしないでいい。いつもの通りでやってくれ、でないと僕もやりにくい」
「わかった。でも俺、図面ってまだよくわからない」
「大丈夫、僕は読める。そしてシャリフ、君のお父さんも図面を読める。
更に、図面通りに材料をこしらえればいい。その分時間が浮くので、仕上げに力を回せる。」
「そういうわけだ。私の会社の顧客は、最後の豪邸を実際に作るほどの金持ちだ。あの作品並のを作って欲しい。」
「時間は?かなりかかります。ニスや塗料や接着剤を乾かす時間だけでも相当使います。乾燥に手を抜けば半年ほどでどんどん悪くなっていくでしょう。また、素材の木材を探す手間も、時間がかかります。」
「木材はこちらで手配できる。なにせ本業なのでな」
「あ、、、」
「そういうことだ、本物の家と同じ木材さえも用意できるのだ」

結局、翌日図面ととりあえずの木材を持ってくるので、可能な限り早く作ってくれということに落ちついた。
幾度か制作すれば、大体の目安もできるだろう、ということなのだ。
で、価格、最低で20万。なのでより豪華で頼む、と。
「ただ、金(きん)は使えません、いろいろな意味で」
「うむ、わかった。危険性が発生するようなことはしないで良い、子供に無理をさせるような悪人にはなりたくないのでね」
「これからも良き付き合いができそうでよかったです」
「こちらこそ!」

ーーーー

僕が担当している庭や「木材からではない小物」類の作り方をシャリフの父親に教えながら作っていった。
父親は大工仕事と掛け持ちして息子の仕事を手伝ってくれている。
シャリフの父親は、うちの事を知っているようだ。うちのビジネスは隙間のものだ。平和になっても無用、戦いが激化しても撤退、長居する可能性はない、ということを知っている。
だから一生懸命覚えようとしてくれている。


このような模型は乾かす時間が結構必要。なのでその合間に何をするか?のルーチンを立てられるように成れば最短に近づける。
今迄シャリフは20軒程度作ってきた。同時に何軒も作った。
今回は、1軒でそれをやらねばならない。
僕は2ヶ月と踏んだ。


ステンドグラスの納入が遅くならなければ1月半でできていた。
開いた半月ほどを、シャリフは学校から走って帰り、夜寝るまでこつこつ磨きをかけ、新たに幾つか小物を作り、などしていた。半月で子供部屋が幼児の部屋となっていた。おもちゃ、幼児用ハンモック、木馬などなど。


僕は納入に立ち会えなかった。
急に両親が街に来て、
「ここは他の者に任せた、俺達は急いでムタエラの近くの都市、軍の基地があったろ?あそこに行かねばならない。あそこにも学校あるんで、転校な。ごめんな。折角良い友人達ができていたのに」
父はおじさんから様子を逐一聞いていたようだ。
翌々日、僕らは街を発った。タイスの待つハカサに向かって。
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