1話完結

文字数 1,995文字

 働くのにあなたはどのくらいのモチベーションがある?よく働く人、普通に働く人、怠ける人。あなたはどれに当てはまる?
 働きアリの法則では、2割がよく働く6割が普通に働く、残り2割が働かないとなっている。


 私たちは10人でチームを組んで仕事をこなしている。働きアリの法則が実体化した感じのチームである。よく働く人、普通に働く人、怠ける人。何故かそんな構成でチームは成り立っている。上司は何も言わない、職場の不思議だ。
 
 よく働くのは馬場さんと細川さんの二人だ。通常業務もさることながら、付随業務や雑用までもこなしてしまう。馬場さんは怒りを撒き散らしながら仕事をこなしまくる。かなり恐いので迷惑なのだが、次々と仕事を進めていく様は格好いい。細川さんは黙々といつの間にか仕事を終わらせている。そして自分の仕事が終わるとこちらの仕事も手伝ってくれる。感謝しかない。
 反して我がチームには2名で構成する居眠り班がある。定年間近の向井さんと若手なのだがモチベーションの低い野中さんだ。
 
 業務ノルマの件数をこなそうと皆が躍起になってPCと格闘している中、ふと顔をあげると、気持ち良さそうに居眠りをしている二人がいる。我々は時給制の15分単位でお給料が計算されるしがない身分の労働者だ。
 この二人の居眠り姿を見ると途端にこちらのモチベーションも下がってしまう。働き者の人に仕事を任せ、少しは手を抜いてもいいのではないかと。時給制だし、皆同じ時給だし、よく働くのは働き損なのではないかと思ってしまうのだ。そういう我々は凡庸な普通の働きアリである。

 居眠り班は然程、皆から疎まれてはいない。向井さんは温厚な性格で人から好かれる質らしく居眠りをしても仕事量が少なく遅い仕上がりでも、仕方がないと皆思ってしまうのだ。野中さんは興味の引く仕事さえ与えれば驚異的に能力を発揮しクオリティーの高い成果を上げる。しかし普段は注意を受けてものらりくらりと返し働かないのだ。
 そして二人はよく居眠りをしている。上司に報告しても相談しても軽い注意だけで対策はとられなかった。その分、馬場さんと細川さんが仕事をこなしているのだ。

 
 ある日今までに経験のない火急の仕事が大量に入ってきた。細川さんがその内容を確かめると、細かい作業が多く集中力が多分に必要になると判明した。
 馬場さんがそれは野中さんの興味を引く内容なのかと細川さんに尋ねたが、違うと返事をされていた。
 そうするとその仕事は八人でこなしていくしかない!居眠り班の二人は今回は戦力外だ!!!当てにならない!元々一人は戦力外だが。
 慌てる凡庸な働きアリたちを叱咤激励するごとく、馬場さんは少しドスの効いた声でやってやろう早めに着手すれば納期日までに終わらせることは可能だと言いきった。そして内容を検分し各々の能力にみあった割り振りをしてくれた。勿論、馬場さんは人の倍もの量を引き受けてくれた。細川さんもだ。
 一応、向井さんと野中さんにも割り振られはしたがその量は少なかった。

 初めて濃密な殺気を醸し出しながら我々凡庸な働きアリたちは仕事をこなしていた。何故なら居眠り班の二人はいつもと変わらないペースで働いているからだ。居眠りはしていないが、二人でお喋りをしている。
 反して馬場さん細川さんはとても声をかけられる状態ではない集中力である。そんな働きぶりは凡庸な働きアリから見るととても格好が良い。上司ではない只の同僚なんだが、何処までもついていきますと二人に言いたくなる程だ。こちらのモチベーションが上がり始める。
 情報共有の声がけも活気づいてくる。静かな時間と活気づく時間とが入り交じり仕事は着々と進められていった。なんだか働くことが楽しく感じられる。半端のない量の仕事を着実にこなしていることから、少し興奮気味なのだと実感する。働くって楽しい事だったのだ。

 そして大量の仕事は納期日の半日前に仕上がった。チームの中で仕上がりが一番遅かったのは予想通り向井さんだったが、達成した喜びで高揚していた我々は何も言わなかった。またかとしか思わなかったからだ。野中さんには皆関心を示さなかった。
 馬場さんと細川さんを囲み皆で拍手し盛り上がって仕事を締めた。働くって良い。馬場さん野中さんを見習ってよく働こうと決心した出来事だった。

 しかし日常に戻るとやはり我々は凡庸な働きアリに戻る。ふと見ると居眠り班の二人はやはり居眠りをしている。平和である。誰も二人を起こそうとしない。馬場さんと細川さんは雑用もこなしながら仕事を進めている。上司は何も言わない、やはり職場の不思議だ。
 只、よく働く二人は今度時給が上がるらしい。良いことだ。

 
 あなたは仕事のモチベーションをどのくらい持っている?よく働く人?普通に働く人?それとも怠ける人?どれを選ぶもあなたの自由なのだが・・・。

 
 
 

 
 
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