第十六曲 間奏曲 砂糖菓子の精の踊り (3) ★BGM付
文字数 1,164文字
彼女はブランコを静かにゆすりながら待っていました。長いウェーブのかかった髪を包む、オレンジと紫のショール。似合っていて素敵だよ。でも、もしかしてそれ、アメリカとかではかぼちゃ祭りの色じゃなかっただろうか。ぼくが隣のブランコに座ると、彼女は黙って小さな袋をさし出しました。ドラジェ。アーモンドを砂糖衣でコーティングしたお菓子です。薄いブルーのを一つもらいました。
二人で並んで、黙ってドラジェをぽりぽり食べました。
おいしい。
「あのね」
「うん」
「わたし」わあだめだ、オーロラもう泣いてるよ。「見た目こんな、派手だし、あなたにもいろいろからかったりしたから、たぶん誤解されてると思うけど」
「ううん」
「わたし、デジレさまロスがすごすぎて」
「うん」
「やっぱり、わたしじゃだめだったんでしょうね?」
それ、いま、ぼくに訊く??
「いまフランス語猛勉強してるんです。でもわたし頭わるすぎて。楽器しか練習してこなかったから。本読むと三ページが限界なんです。ペーチャさま素敵すぎます。ずるいです。こんなわたしうっとうしいとは思うけど。デジレさまロスをシェアできるのペーチャさましかいなくて。こうしてときどきお話とかしてもらえると嬉しいです。わたしずっとネットでチェックしてるんですけど。もうずっとずっとチェックしてるんですけど。デジレさまご成婚のニュースまだ上がってこないんですね。だからフランス語の勉強やめれないんです。これ、会いに行ったら重い女だと思われますよね?」
「そんなことない。喜ぶと思うよ」
「いっしょに行ってくれませんか? はずかしいから」
「いやいやいや」
「いやですよねやっぱり」
「そうじゃなくて、そこはぼく抜きで行かないと」
「でもわたしすごい方向音痴なんです。飛行場までたどり着ける自信ないです」
「電車で一本だよ」
「その電車、反対方向に乗る人なんですわたし」
こんな調子でえんえんとオーロラの嘆きを聞かされ、そのうち寒くなりすぎて二人とも鼻水が出てきたのでカフェに入って、オーロラは泣きながらいちごのザッハトルテとりんごのシュトゥルーデルをたいらげ、あれで太らないのはやっぱり何かの魔法にちがいない。ぼくは見ているだけでおなかいっぱいになってしまい、今日は、たしかに、ちょっと甘いものを食べすぎました。
★BGM:『くるみ割り人形』より「砂糖菓子の精の踊り」
ドラジェらしいです。ずっとこんぺいとうだと信じてたのに。でも考えたらこんぺいとう、和菓子だった(笑)。
https://www.youtube.com/watch?v=Wz_f9B4pPtg