第95話 白竹美優視点 真実 3
エピソード文字数 3,681文字
※
蓮くんが……私達と同じ入れ替わり体質?
いきなりそんなお話をされても全く理解できませんでした。
その時。部屋の外から魔優が私の名前を呼びます。
すぐに入って来た魔優はママを見るなり「まだいたの?」とすっごい鬱陶しそうな顔をすると、私には「早く準備しないと」と言うのでめちゃ焦りました。
それだけ言い残して、魔優は家を出て行きました。
魔優がいなくなると、再びママの顔が接近してきます。
美優。白馬の王子様はあの子の事だわっ。
未来の旦那様は蓮くん。彼の事なのよぉ~~!
ふぅわっ! 座ったままぴょんぴょん跳ねるママの目はめちゃキラキラしてます。
突拍子も無いお話を素直に受け入れるほど、私もお馬鹿ではございません。
するとママの顔がもっと接近してきて、その理由を話してくれました。
だって。蓮くんって……私のダーリンにソックリなんですものっ!
若い頃と瓜二つだわっ! 確実に遺伝子を引き継いでいるわっ!
見た瞬間ビビビっときたもん!
あれ? なんか変でし。
ママは昔ずっと男だったのでぇ。男の人が好きになるだなんて……おかしいです。
私が小学生の頃から女っぽくなっちゃったけど。
そうよっ! 昔からの親友で、名を黒澤麗斗(くろさわれいと)って言うの。
凄い男前よ。ナイスミドルなイケ中年だわっ
そうよっ!
だって私。昔むか~しの、美優や魔優がまだ小さい頃に。蓮くんを見た事があるんだものっ!
私はその時思ったわ。美優魔優が大きくなって、年頃になったらどちらかが彼と結婚してほしいと。強く願ったの!
だって。どちらも同じ入れ替わり体質なのだから、きっとラブラブで仲良く末永く……
生涯のパートナーとしてやっていけるはずだとママは確信してるわっ!
同じ入れ替わり体質……
勝手に盛り上がっちゃってるママは、キラキラお目目でとうとう立ち上がってクルクル回り始めました。
恋は出来ない。そう思ってたのでしょう?
だけど蓮くんなら、蓮くんだけは私達を理解してくれる。たった一人の男の子なんだものっ!
ああっ! もう。これはきっと運命なのよ! あなたが生まれた時から決まっていたのっ
これを知ったからには、美優の運命は変わるわっ。ええきっとそうよ。
だからそんなにウジウジしないでっ。彼はそんな事なんて全然気にしてないし、美優をずっと心配してるのよっ!
あなたも。もっと自信を持ちなさい。私の娘なんだものっ。
潜在能力は無限大なんだから……元気出しなさいっ
そこまで言うと、再び正座に戻ったママはキラキラお目目がノーマルお目目になりました。
というわけ。だけど美優。ここからは私のお願い、聞いて頂戴
ママは急に真面目なお目目で迫ってくると、めちゃめちゃドアップ顔から、口元に人差し指を当てながら、
今のお話は絶対秘密。
蓮くんには勿論、魔優にも内緒。私達だけの秘密です。
あと少しだけ。待って欲しいの
ママはこの事実を秘密にしないといけない理由を一から話してくれました。
黒澤くん家のパパと、私のママは昔からの大親友だそうでして、以前からちょくちょく連絡はしていたそうです。
じゃあ何で……私達にずっと内緒にしてたのですか? なんでですか!
今から話すから待ちなさい。
もうっ! せっかちさんねっ! 早漏すぎるわっ!
だって! それならもっと早く……蓮くんを紹介してもらっても良かったのに!
そんな昔から……私と同じ年の男の子がいたとしたら……
ちっちゃい時からきっと、仲良く出来たハズなのに。
私を宥めるように、落ち着いた口調になったママは「私も最初はその意見に賛成だったんだけどね」と前置きしてから、その理由を話してくれます。
入れ替わり体質って、とても珍しい人間だから、小さい頃から紹介してしまうと、すぐに仲良くなるのは予想できる
それが異性と思うならばきっと……将来も約束された仲になるのも予想はできる。
でも……
麗斗はね。それじゃ……子供の為にどうなのか。正しいのだろうか、って言うの
こんな身体だから、人には理解されないし、人付き合いも難しいのも分かってる。
だけどその事実を痛感する前から、小さい頃から蓮くんっていう頼もしい味方がいれば、あなたはどうなるの?
彼だけがいればいい。蓮くんがいればいい。
そうやって依存すると、世間との付き合いに一切興味がなくなってしまう。その可能性がある。
それは何も……あなたに限った事じゃないわ。
蓮くんだって、美優や魔優がいれば他に誰も要らない。そうなってしまえば?
小さい頃からそんな風に……視野を狭くしたくはなかったのよ。
麗斗はそれを……とても気にしていた
今、美優が必死に悩んでいるのは。すっごく分かるわっ。
人の目が怖くて、嘘ばかりつかなければならない。それがどれだけつらいのか。
私だってずっとそうだった
こんな身体でも、世間にも耐えうる強い気持ちを持たないといけない。
だから私と麗斗は、あなたたちの為にも……幼少の頃から蓮くんを紹介するわけにはいかなかった
本当はもう一つ。理由があるんだけどね。それはまた別の話だし……
私は全然納得出来なかった。
知っているのなら、何で教えてくれなかったのかと。そればかり考えてしまっていた。
でもね。あなた達に蓮くんを紹介する話はもうすぐそこまで来ていたの。
あともう少しだったのよ。麗斗が今の……お仕事が終われば、黒澤家と白竹家の面会に入る予定でした
だから美優。まだこの件は秘密にしておいて欲しい。
お願い。彼との約束は……破りたくないのよ
ママが……こんなに思いつめている顔をするなんて……
この件は蓮くんだってきっと知らないはず。だから時期が来るまで……黙っててね
私はうんうんと頷くと、ママはやっと笑顔を見せてくれました。
美優。あなたは嘘を付いたわけじゃない。
蓮くんに説明したのは真実だし、すぐに誤解も解ける。何も間違っていないのだから……落ち込まないで
※
お話が終わると、ママはスマホを耳に当てます。どうやら蓮くんのお父さんに連絡するそうです
日頃、世間に対して嘘付いてるから、気を許した人には嘘は付きたくないのよ。美優みたいにね
それは凄く分かる。
私も蓮くんに対して、そんな気持ちがあるから……だから凄く悩んでしまった。
何だか楽しそうに喋るママは、いつもと少し違って見えた。
だけど、暫く喋ってからママが「え?」と顔色を変えると、じっと黙ったままでした。
次第に眉尻を下げたママに、私はスマホの横で聞き耳を立ててしまいました。
すると……蓮くんのお父さんらしき声が聞こえてきました。
こら。いいって別に。来なくていいよ。
ちょっと調子悪いってだけだって
行くのっ! 待ってて! 私が何でもお世話するから任せなさい!
電話を切ってしまったママは、目がうるうるしたと思えば、どばっと涙が出ていました。
ふぅえ~~! 麗斗が死んじゃう!
美優! ママは今から麗斗に会いにいくわっ! 行かせて!
そう言いながら私の部屋から出て行ったママは、すぐに戻ってきます。
蓮くんの件。内緒だからね
うぇぇ~~麗斗ぉ! 私を……私一人にしないでっ!
ママは再び消えると、わんわん大声を上げながら、自分の部屋に戻ってしまうのでした。
とにかく。蓮くんの件は内緒。まだ魔優にも内緒。
私が誰にも言わなければ、それでママと蓮くんパパの約束は守られる。
気持ちを切り替えて、私は美樹になると……
入れ替わった時にふと思いつきました。
私も部屋を飛び出すと、外行きの服に着替えようとしているママに聞いてみました。
ねぇママ。蓮くんが入れ替わるのは分かりました。
だけど……女の子はどんな感じなのですか?
美樹? 分からなかったの? 私は蓮くんが入れ替わり体質って言った瞬間に分かってると思ってたのに
わ、わかんないでしっ! しょんな……し、信じられなひ!
私の頭が真っ白になってると、その間にママが着替え終わりました。
いい? 何かあったらママに連絡しなさい。わかった?
何があっても絶対に黒澤家には言わないで!
取り残された私は、暫くぼけーっとその場に立ち尽くしていました。
蓮くんと……楓蓮さんが……一緒の人間?
な、なんですか。これ。 ぜ、全然意味がわかんないです!
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