十七・ 原画家: アルノ涼子(あるの・りょうこ)の宣言。
文字数 952文字
「あたし高所恐怖症だし~。骨も弱いし。
打ち上げのGに内臓だけじゃなくて脳も心も。
耐えられない気がするし~。」
という理由で。
パペル社のなかで残留希望を最初に正式表明したのは、原作アニメのメイン原画を担当していた、アルノ涼子(あるの・りょうこ)だ。
「地底に潜っても、宇宙との通信網は生き残るって聞いたし。
コンテンツ産業って意味では、通信網さえ生きてれば。
今は少人数でもアニメ動画は制作可能だし?
…カコ先生やみんなとお別れするのは寂しいけど~。
…母なる地球とお別れしてまで、宇宙で生きていきたくない。…気が、するし…?」
同調する者は、案外多かった。
*
パペル社独自のプロジェクトとしては、急遽『ネビュラ』に傾注したせいで資材と人材不足で頓挫しかけていた、『プウパリ炭鉱遺跡利用巨大地下城塞掘削開発計画』に。
『FIFS』からの、公式認定支援がついた。
『プウパリ補完計画』と呼ばれた。
実際問題として、宇宙空間に全地球人類と生態系を短期間ですべて移住させきるというのは、無理だ。
穴を掘った。掘った。掘った。
掘っては岩石を溶かして壁を造成しながら掘り進める、『ミミズ型』掘削機が大量生産されて。
ポックル島の頑丈な土台岩盤の上を、掘り彫りしまくった。
いずれ何万年か後には、大陸移動に伴って、海底に沈むけど。
それまでの間には、地表に戻れるような環境再生技術が。
開発されることを、
信じて…
閉鎖炭鉱プウパリ跡地の地下は。
ポックル島民の、
希望の聖洞となった。
ポーシャ毒と有害紫外線と溶岩と噴石と隕石と宇宙デブリが。
雨あられと降りまくる、危険な地表を避けて。
地下交通網がポックル島内に張り巡らされた。
植物の育成に必要不可欠な波長の太陽光だけ、反射孔を通じて地下街に導入され、拡散された。
地下通路沿いに街路樹のように、長く幅広い森林帯が育成された。
有機、林業で。
原生態系と土壌と土壌菌をそっくり、保全移植して。
農場と牧場も、地下に移った。
今は公認の恋人同士?となったらしい…
ヨシノとタカノは。
二人で仲良く。
地底に残留組を、選んだ。