詩小説『僕等はまだ月の裏側を覗いたことなどない』

エピソード文字数 672文字

僕等はまだ月の裏側を覗いたことなどない

あの日僕等が見上げたからっぽの空には。
今にも消えてしまいそうな痩せた三日月が浮かんでいた。

青白く光り、わずかに僕等を照らし出す。これ以上欠けてしまうことなど、ないように。

ないように。

初恋と呼ぶことにしたその日から。僕等は最後の恋と名前を変えることを知らない。

僕等はまだ月の裏側を覗いたことなどない。僕等を乗せて廻るこの地球から、表側を見上げ思う。そして、また過ぎてゆく。

すれ違い、逸れそうな今を、ありふれた言葉で繋いで。明日が途切れないように。

僕等には後何日の月夜が残っているだろうか? 欠けていく月に夢見たのは、満ちていく光。

交差点の上、ぼんやり浮かべたこの想いは、最終電車で抱えたまま、ただ揺れていた。

揺れていた。

発車のベル、突き抜けた音。点滅する赤信号、光が滲む。世界中でまるで僕等だけ、なんて思えたら良いのに。

僕等はまだ月の裏側を覗いたことなどない。
それでも表側から眺め続けた、色々な君の表情。君にしか見えないその裏側に辿り着きたくて彷徨う。答え合わせをしよう。

はじめましての裏側と。

足りない言葉と、独りきりの時間を埋めるように、ただ手を繋いでいた。

宇宙に浮かぶ。惑星を彷徨う。月面へと降り立つ、無重力の中、ふたりを繋げ、光。

僕等はまだ月の裏側を覗いたことなどない。僕等を乗せて廻るこの地球から、表側を見上げ思う。そして、また過ぎてゆく。

すれ違い、逸れそうな今を、ありふれた言葉で繋いで。明日が途切れないように。

月の裏側へと。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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