~ACT1 パートナー~①
文字数 1,681文字
「最っ悪だぜ! なんでまた、次のパートナーがお前なんだよ?」
リールと再会したばかりのヴァルリの言葉は剣呑としていた。
ここアトランス帝国のある大陸は、古 より魔物が多く出没していた。それらの魔物を封殺できるのは年若い少年たちばかりだ。選ばれた少年たちは『ピュールヘルツ』と呼ばれ、王宮内に住みながら日夜修行を行っている。
ピュールヘルツは2人1組のペアで行動することが原則だ。それは先にも述べたように、多くが年若い少年たちだからだ。アトランス帝国国王は彼らを危険から守るため、そして正確な任務遂行のためにこの決まりを設けている。
その意図は十分にこのヴァルリ少年も理解していた。
問題はそこではない。
再び目の前にパートナーとして現れたこの男、リールが問題なのだ。
それは数年前。
初めてヴァルリがリールとペアを組んだ時のことだった。その年はヴァルリにとって厄年と言っても過言ではなかっただろう。リールの無茶な作戦に付き合わされ、散々振り回されたのだ。しかし幸か不幸か、その年でいちばん魔物を封殺したペアがヴァルリたちだったため、諸悪の根源であるリールはケロリとして『結果オーライ?』などとのたまった。
それを聞いたヴァルリが我慢の限界に達し、とうとう現国王であるラジェルへと直談判をした。
「こいつと、2度と、ペアにさせないでください!」
ラジェルは困ったように笑っていたが、自分たちの即ペア解消を行ってくれた。
それなのに、だ。何故コイツがまた自分の前に立って、飄々と挨拶を交わしてくるのだ?
ヴァルリはくるっりと踵 を返すと、再び来た道を戻ろうとした。
「あっ、ヴァルリ! どこへ行くんだい? 僕もついていくよ。だって……」
パートナーなんだから、と続くはずのリールの言葉は、ヴァルリの冷たいターコイズブルーの双眸に睨まれて死んでいく。
金髪のさらさらとしたストレートヘアに、そのターコイズブルーの瞳は見る者の印象に深く残るのだが、
「ついてきたら……、殺す!」
殺気と共に静かに言い放たれた言葉に、リールはなすすべなく、何も返せなくなるのだった。
そして再びヴァルリが歩き出そうとした時、ヴァルリの正面から鈴が鳴るような凜とした澄んだ声が聞こえた。
「探しましたよ、ヴァルリ、リール」
「国王様!」
弾かれたように見上げたヴァルリの視線の先には、違 えようのない声の主、国王ラジェルの姿があった。
まだ若いこの国王は冴えた月のような美貌を持ち合わせていた。きめの細かい肌にすっと通った鼻梁、そして武道で鍛え抜かれたほどよい筋肉は国王の男性的な肉体を強調していた。何より印象的なのは、この国王の意志の強い、黒曜石のような真っ黒な瞳だ。
しかし今、その瞳を明後日の方向へと彷徨わせていた。ヴァルリの真っ青な双眸が、じとーっとラジェルを見上げているからだ。
ラジェルは視線を彷徨わせたまま、うわずった声を上げた。
「どうかしたのかな? ヴァルリ」
「どうしたもこうしたもないですよ! 何でまた、オレのパートナーがこいつなんですかっ?」
ヴァルリは自分の隣に立っているリールを指さしてラジェルに噛みついた。
「お、落ち着きなさいヴァルリ……。これには大人の事情が深く関わっていると言うか……」
「国王様」
しどろもどろになるラジェルに、ヴァルリがじりっと詰め寄る。
ラジェルは思わず後ずさった。そんな二人の元にのんきな声が降ってくる。
「国王様、僕たちに急ぎの用なのでは?」
リールである。
ラジェルはこれ幸いというような安堵の表情になると、
「そ、そうなのだよ」
そう言って、コホンと1つ咳払いをした。そして今までの表情を一変させると、
「南の都ミュラーで、32匹の魔物が暴れている。急ぎ向かい、先に行った2人を援護するように」
それは国王が臣下に指示を出す表情だった。
「承知致しました」
臣下の礼を取るリールに対し、ヴァルリはまだ釈然としないようだ。しかしもたもたして任務に支障が出る事態は避けたい。
ヴァルリも少し遅れて臣下の礼を取ると、リールと共に南の都ミュラーへと向かうのだった。
リールと再会したばかりのヴァルリの言葉は剣呑としていた。
ここアトランス帝国のある大陸は、
ピュールヘルツは2人1組のペアで行動することが原則だ。それは先にも述べたように、多くが年若い少年たちだからだ。アトランス帝国国王は彼らを危険から守るため、そして正確な任務遂行のためにこの決まりを設けている。
その意図は十分にこのヴァルリ少年も理解していた。
問題はそこではない。
再び目の前にパートナーとして現れたこの男、リールが問題なのだ。
それは数年前。
初めてヴァルリがリールとペアを組んだ時のことだった。その年はヴァルリにとって厄年と言っても過言ではなかっただろう。リールの無茶な作戦に付き合わされ、散々振り回されたのだ。しかし幸か不幸か、その年でいちばん魔物を封殺したペアがヴァルリたちだったため、諸悪の根源であるリールはケロリとして『結果オーライ?』などとのたまった。
それを聞いたヴァルリが我慢の限界に達し、とうとう現国王であるラジェルへと直談判をした。
「こいつと、2度と、ペアにさせないでください!」
ラジェルは困ったように笑っていたが、自分たちの即ペア解消を行ってくれた。
それなのに、だ。何故コイツがまた自分の前に立って、飄々と挨拶を交わしてくるのだ?
ヴァルリはくるっりと
「あっ、ヴァルリ! どこへ行くんだい? 僕もついていくよ。だって……」
パートナーなんだから、と続くはずのリールの言葉は、ヴァルリの冷たいターコイズブルーの双眸に睨まれて死んでいく。
金髪のさらさらとしたストレートヘアに、そのターコイズブルーの瞳は見る者の印象に深く残るのだが、
「ついてきたら……、殺す!」
殺気と共に静かに言い放たれた言葉に、リールはなすすべなく、何も返せなくなるのだった。
そして再びヴァルリが歩き出そうとした時、ヴァルリの正面から鈴が鳴るような凜とした澄んだ声が聞こえた。
「探しましたよ、ヴァルリ、リール」
「国王様!」
弾かれたように見上げたヴァルリの視線の先には、
まだ若いこの国王は冴えた月のような美貌を持ち合わせていた。きめの細かい肌にすっと通った鼻梁、そして武道で鍛え抜かれたほどよい筋肉は国王の男性的な肉体を強調していた。何より印象的なのは、この国王の意志の強い、黒曜石のような真っ黒な瞳だ。
しかし今、その瞳を明後日の方向へと彷徨わせていた。ヴァルリの真っ青な双眸が、じとーっとラジェルを見上げているからだ。
ラジェルは視線を彷徨わせたまま、うわずった声を上げた。
「どうかしたのかな? ヴァルリ」
「どうしたもこうしたもないですよ! 何でまた、オレのパートナーがこいつなんですかっ?」
ヴァルリは自分の隣に立っているリールを指さしてラジェルに噛みついた。
「お、落ち着きなさいヴァルリ……。これには大人の事情が深く関わっていると言うか……」
「国王様」
しどろもどろになるラジェルに、ヴァルリがじりっと詰め寄る。
ラジェルは思わず後ずさった。そんな二人の元にのんきな声が降ってくる。
「国王様、僕たちに急ぎの用なのでは?」
リールである。
ラジェルはこれ幸いというような安堵の表情になると、
「そ、そうなのだよ」
そう言って、コホンと1つ咳払いをした。そして今までの表情を一変させると、
「南の都ミュラーで、32匹の魔物が暴れている。急ぎ向かい、先に行った2人を援護するように」
それは国王が臣下に指示を出す表情だった。
「承知致しました」
臣下の礼を取るリールに対し、ヴァルリはまだ釈然としないようだ。しかしもたもたして任務に支障が出る事態は避けたい。
ヴァルリも少し遅れて臣下の礼を取ると、リールと共に南の都ミュラーへと向かうのだった。