第六話「本屋が本を扱うとは限らない」

文字数 1,653文字

スージーと別れて十八番駅から電車で十番駅に行く。

十番駅は市街地から離れており、各駅停車しか止まらない。

駅前には小さな商店街があり、郊外よろしく閑静な住宅街が立ち並ぶ。


その商店街の隅に件の古書店は、あった。

やっと着いたわね……ってこれはただ事じゃない雰囲気ね。

古書店は確かにそこに存在した。

道行く人はまばらだが、特に気に留めているように見えない。


しかし、カミガカリであるまゆみ達は古書店のある空間が歪み、邪悪な意思を発していることに気づいた。

先生、気を付けて下さい。

氷室さん、すぐに戦闘態勢へ移れるように。

おう、これは……[法則障害]か?
そうね、[法則障害]……これは〈ホーンティング〉よ!

[法則障害]、それは邪神に心奪われた術者やアラミタマ自らが引き起こす超常現象である。

総じて禁断の儀式や邪神の強化を目的としたものであり、一般人を巻き込んで周囲に災害を引き起こす。

カミガカリたちは[法則障害]を文字通り消去し、アラミタマの復活や強化を食い止める。


〈ホーンティング〉は特定の建物や地域に邪悪な意思と力を持たせる。訪れる者を捕え、霊魂を吸い取り、術者の力を増幅させる。

放置しておけばますます被害が広がるだろう、すぐに消去せねばなるまい。

〈ホーンティング〉、厄介ですね。

これはカミガカリとしての基礎体力を霊力としてぶつけないと消去できません

俺は行けるが、まゆみさん。あんたはどうなんだ

私も大丈夫よ、竜胆くん! こうなったら気合よ、気合!

霊紋燃やして気合を入れれば何とかなるわ!

霊紋、超常存在の証として現れる刻印である。

カミガカリは必ず身体のいずれかに刻印を持っている。

彼らは霊紋を感情の力によって刺激し、燃焼消滅させることによって物理法則を一瞬だけ超越することができる。

無くなった霊紋は限られた方法でしか回復できず、自分の霊紋以上の霊力を行使し続けると暴走し、アラミタマとなったり死亡したりする。

気合……ですか、間違ってはいませんが、少し引っかかる言い方ですね。


ですが、僕に「救う」以外の選択肢は残っていませんのでね。

消しましょう。いつでもいけますよ

さすが竜胆くんね! 護くんもいいかしら?

いっくわよ~! 1、2ぃの!

まゆみの掛け声とともに3人はありったけの霊力を[法則障害]にぶつけ、消去した。
良い感じに霊紋を持っていかれましたね。
思った以上にギリギリだったな! 危なかったぜ
これで古書店に行けるわねって何よ、この変な生物~!

〈ホーンティング〉の消えた古書店の周りから人型の魚、魚人というべきだろうか、得体のしれない生き物たちがわらわらと這い出てきた。

敵意を剥き出してこちらを囲んでくる。

邪魔をするというのなら!

一般人を巻き込むわけにはいかない。

とっさに判断した竜胆は即座に自ら持つ霊力結界を展開する。

竜胆を中心に鏡写しの世界が広がり、世界は現実と分かたれた。

古ノ契約ニ基ヅキココニ汝ヲ召喚ス……出でよっ!

霊力結界の展開と同時に竜胆は契約神獣「送り犬」を召喚した。

全長3mに近い大きな犬だ。主人に忠実なこの犬は攻守にわたって竜胆をサポートする。

うお! いきなりかよ! 仕方ねえ、変身!

護も霊力を集中させ、鉄よりも硬い氷の結晶を鎧のように装着する。

そう、彼こそ睦月達雄の一番弟子「氷結戦士アイスブルート」なのである。

あまり見た目が良くないから好きじゃないのよね、この姿

そう言うとまゆみも霊力を解放する。彼女の背中から漆黒の翼が伸びる。

どこから取り出したのか、翁のお面を被った彼女は翼をはためかせ飛翔した。

先生、空からのサポートお願いしますよ

竜胆はまゆみに強化魔術を施す。

魔術によってまゆみの力が増強される。

ありがとう竜胆くん!

先生のカッコいいとこ見せてあげるんだから!

俺も負けてられねえぜ! うおおおおおおおおおおおおお!

護も夜魔の王としての力を解放する。

霊力を体中に流すことで血液さえも自在に操ることができるようになる。

ぴょおおおおおおおおおおおおお!
興奮した様子の魚人たちの叫び声を合図に戦闘が開始された。
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登場人物紹介

氷室 護(ひむろ まもる) 20歳

吸血鬼の血を引く夜魔で現役大学生。
退魔師協会に所属する新人カミガカリ。
【氷結戦士アイスブルート】として街の平和を守っている。
睦月達雄をおやっさんと呼び、
カミガカリの師匠として尊敬している。

久世 竜胆(くぜ りんどう) 17歳

川中高校に通う高校2年生。
それとは別に環境省特別対策室に所属するカミガカリでもある。
魔術師の家に生まれ、
とある事情から卜部正人に育てられた過去を持つ。
品行方正、容姿端麗、成績優秀と隙のないことから
「超高性能一般人」と呼ばれている。

進藤 まゆみ(しんどう) 28歳

聖堂騎士団所属のカミガカリで暗号名"聖アンジェラ・メリチ"。
天狗の血を引く半妖で川中高校の非常勤講師。
焼けてしまった神社を再建してぬくぬく生きたいと考えている。
現在独身である。繰り返す、現在独身である。

睦月 達雄(むつき たつお)

護の師匠でかつては「魔人戦士デアボロス」と呼ばれていた。
現在はカミガカリを引退し、
「バイクショップ ムツキ」と「喫茶 ムツキ」を経営している。

睦月 サツキ(むつき)

睦月達雄の孫娘。
「喫茶 ムツキ」でバイトをしている。

卜部 正人(うらべ まさと)

環境省特別対策室室長。
竜胆にとって父親のような存在。
任務の度に竜胆の無事を願っている。

テレサ・カラス

聖堂騎士団副長。
年下ながらまゆみの上司にあたる存在。
ニコニコしながら凄まじいことを言ったりする。

スージー

人造神器大好きなクレイジー技師。
ある機関から派遣され、護たちに情報を渡す。

アンジェリーク

暗号名"聖ウルスラ"。
どんな乗り物でも乗りこなせる力を持つ。
性格は適当で戦闘は苦手。

木崎宗次郎

ひょんなことから何故か事件の中心人物となってしまう男。
今回もある商売をしていたところ、事件をおこす。

ジョージ・ヒューズ

アーカム大学客員教授。
ある本が流出した際に行方不明となってしまう。

ウルタール

関西弁でしゃべる猫。
中学生くらいの女の子にも変身できる。
猫を使役して情報を集めているようだが……?

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