第六話「本屋が本を扱うとは限らない」
文字数 1,653文字
スージーと別れて十八番駅から電車で十番駅に行く。
十番駅は市街地から離れており、各駅停車しか止まらない。
駅前には小さな商店街があり、郊外よろしく閑静な住宅街が立ち並ぶ。
その商店街の隅に件の古書店は、あった。
古書店は確かにそこに存在した。
道行く人はまばらだが、特に気に留めているように見えない。
しかし、カミガカリであるまゆみ達は古書店のある空間が歪み、邪悪な意思を発していることに気づいた。
[法則障害]、それは邪神に心奪われた術者やアラミタマ自らが引き起こす超常現象である。
総じて禁断の儀式や邪神の強化を目的としたものであり、一般人を巻き込んで周囲に災害を引き起こす。
カミガカリたちは[法則障害]を文字通り消去し、アラミタマの復活や強化を食い止める。
〈ホーンティング〉は特定の建物や地域に邪悪な意思と力を持たせる。訪れる者を捕え、霊魂を吸い取り、術者の力を増幅させる。
放置しておけばますます被害が広がるだろう、すぐに消去せねばなるまい。
霊紋、超常存在の証として現れる刻印である。
カミガカリは必ず身体のいずれかに刻印を持っている。
彼らは霊紋を感情の力によって刺激し、燃焼消滅させることによって物理法則を一瞬だけ超越することができる。
無くなった霊紋は限られた方法でしか回復できず、自分の霊紋以上の霊力を行使し続けると暴走し、アラミタマとなったり死亡したりする。
〈ホーンティング〉の消えた古書店の周りから人型の魚、魚人というべきだろうか、得体のしれない生き物たちがわらわらと這い出てきた。
敵意を剥き出してこちらを囲んでくる。
一般人を巻き込むわけにはいかない。
とっさに判断した竜胆は即座に自ら持つ霊力結界を展開する。
竜胆を中心に鏡写しの世界が広がり、世界は現実と分かたれた。
霊力結界の展開と同時に竜胆は契約神獣「送り犬」を召喚した。
全長3mに近い大きな犬だ。主人に忠実なこの犬は攻守にわたって竜胆をサポートする。
護も霊力を集中させ、鉄よりも硬い氷の結晶を鎧のように装着する。
そう、彼こそ睦月達雄の一番弟子「氷結戦士アイスブルート」なのである。
そう言うとまゆみも霊力を解放する。彼女の背中から漆黒の翼が伸びる。
どこから取り出したのか、翁のお面を被った彼女は翼をはためかせ飛翔した。
竜胆はまゆみに強化魔術を施す。
魔術によってまゆみの力が増強される。
護も夜魔の王としての力を解放する。
霊力を体中に流すことで血液さえも自在に操ることができるようになる。