第11話 偏屈を認める 新津きよみ、林真理子、浅田次郎

文字数 1,465文字

1998年、新津きよみさん『ホーム・パーティー』の主人公は、経済力ある夫と暮らす妻。容子。
贅沢な暮らしと高級マンション、ハイセンスなひとびとを招くホーム・パーティーに夫の知り合いである直樹と聡美の夫妻を呼びますが、彼女は知り合いの直樹と一度寝ていたのです。
聡美はいかにも垢ぬけず、幼く、そのため侮りの対象であり、けれど若さと愛くるしさで容子の嫉妬を刺激します。
しかし聡美は見かけと違い、様々な工夫を凝らして暗に「私の夫と二度と寝ないように」と容子に警告し、容子は戦慄します。

読み終えて、ほんとうに怖いのは、パーティの席上で情事を暴露されることで、恥をかかされるでもなく経済力ある夫との結婚が破綻するでもなく、つまみ食いして警告で済むなんてラッキーではないかしらん、と思う程度には自分はスレています。

やはり夫の情事という題材では1997年、林真理子さん『年賀状』という作品が収録されているのですが、こちらは自分好み。
登場人物たちへの作者のいじわるな視線があり、価値観の提示にも自信と覚悟があり、何より捨てられた女性の恨みがちゃんと男に向いているのが素晴らしい。
そう、『ホーム・パーティー』の聡美は、どうして夫に警告をしなかったのか。

……と批判をしていますが、自分の感覚が偏っているのかもしれないと最近では思います。偏屈だな、俺。

浅田次郎さん『ラブ・レター』は映画化されたはずで、でも、ノット・フォー・ミー。
裏社会のことを知らないので偉そうには言えませんが、望まずにセックスワークに就きながらヤクザは優しいとか来日するために偽装結婚した主人公に感謝するとか、ヒロインはポリアンナ症候群だったのではと疑いますし、何でも許してくれるお母ちゃんみたいだし、主人公に養ってもらう気持ちはなかったのかと品性のないことを考えます。

浅田さん、自分は容姿に因して女性にモテないが男にはモテるので宗旨替えを試みてダイヤルQ2で若い同性愛者と会って、でも無理で、ホテルで説教したみたいなエッセイを書いていた記憶がよみがえり、説教された若いホモが可愛そうと思ったり。

浅田さんのお作を自分が自主的に手に取ることはないでしょうが、でも、思うのですけれども、本作であり直木賞受賞作『鉄道員(ぽっぽや)』は映画化もされてベストセラーとなり、浅田作品を求めた方には求めただけの理由があるのでしょう。
これは嫌味ではなく、自分のように変質的に小説に向かうのではなく、日々働いたり子育てしたり、介護したり自身が病気と共存していたり、大変な中、夢物語として本作や『鉄道員』を求めることに、自分が文句を言う筋合いはありません。
これが最高と言われたら異論を唱えますが、個々が楽しみ、個々の範囲内で称賛したり批評したり、自分だって自分の好きなものを悪しざまに言われたらムッとしますし。お笑いとか。
この変化は日和ったのではなく、大人になったのだと思いたいです。
……千原ジュニアさんは、お子さんが生まれて、ご自身が難病の手術やマイノリティ出演の番組の司会をして、最近は本来の優しさ礼儀正しさを隠さないようになり、その影響があります。
そう、ジュニアさんは大人になって、羨ましかったから。

第9巻については今回で終わります。
空気や風俗や事件を一番知っている時代の作品だけに、逆に自分には論じにくいところがありました。
ただ、時間を遡り、8巻、7巻と読み進めていくと、見えていなかった何かが見える予感もあります。

仕事が始まり不定期更新になりますが、本年もよろしくお付き合いの程お願いいたします。
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