第30話  美神聖奈視点。特別な存在 1

エピソード文字数 4,358文字

 美神聖奈視点。特別な存在 1
ふぅ。やっと終わったわ。
お疲れ様です。聖奈お嬢様。さぁ帰りましょうか

 時計を見れば午前一時。私は仕事を終えて帰宅する。


 平八の車に乗り込んで盛大に伸びをすると、ようやく一日が終わったんだと実感した。

明日は?

午前十時から○○証券の会合ですな。午後一時には自社の定例会議。

午後九時には美神グループ本社で首脳会議となっております

朝はちょっとゆっくり出来るわね
若干余裕はありますな

 私は助手席のソファーにもたれて目を閉じた。

 仕事をする私から高校生の私へ頭を切り替える。

平八。たまには何か作ってあげようか?

いえ。私になど気を使わないで下され。

それよりも聖奈お嬢様はゆっくりお休みになられた方がよろしいかと

なに言ってるの。アンタも疲れてるでしょ?
平八は大丈夫でございます
疲れてるでしょって言ってるの。正直に言いなさい!
疲れておりませぬ

 こういう所はとっても頑固な平八。

 私よりも過酷なスケジュールの癖して、決して弱音を吐こうとしない。

 

 平八はいつも自分の事より、私の事を優先しようとする。

平八は……心配なのでございます。

高校と会社の両立でこの一週間は、ほぼ無休状態。


このままでは、お嬢様の身体が……

大丈夫よ。この程度で根を上げる私じゃないわよ
聖奈お嬢様……

今ここで頑張っておかないと。自社のトップ達との連携が上手くいくまでは気は抜けない。


これだけは今月中に達成しておかないと……私の計画全てに影響してくる。

それは平八も理解しております。


だからこそ。時間のある時はゆっくりしてくださいませ。

平八などに気を使わずとも結構でございます。

……わかったわよ

 結局コンビニ弁当を買って帰る。気分がいいからご飯でも作ってあげようと思ったけど、平八は一度言うと頑固なので諦めた。




 コンビニから数分。

 平八の運転であっという間に家に到着する。


 高層マンション二十二階。その一角にあるのが私の住居。

 ちなみに親に出してもらった訳じゃなくて、自社から得た利益で購入した、初めての大きなお買い物。




 親と離れ、私は私だけの城を構えた。 


お邪魔します
いつもいつも。そんな挨拶いらないって言ってるでしょ? あんたの家でもあるのよ

 ビックリするかもしれないけど。私は平八と同居している。

 勿論そんな関係じゃないわよ。



 だけど平八は、一緒に住む事にとにかく反抗した。「お嬢様と同居するなどと……」とか言って中々同意しなかったけど、ベッドルームもトイレも二つある場所を選び、渋々納得してくれた。

 


 彼はそんな人じゃない。

 それはもう昔から……ずっと私の面倒を見てくれた大切な人だって知ってるから。




 今ではもう一人のお父さん。

 いえ……お兄さんみたいな存在なのかもしれない。



 つまり私は平八に対し、絶大な信頼を寄せていた。





 レンジでチンして二人で食事。

 味気ない食卓だけど、私は結構満足していた。



 今までならずっと……執事やお手伝いさん。メイドに囲まれた食事に正直ウンザリだった。こうやって静かに食事する方がよっぽど気が楽なのだと知ったのは、つい最近の事。

ねぇ平八。楓蓮のお父さんってどんな人なの? とても仲がいいみたいだけど

 平八の箸が止まる。

 こほんと咳払いしてからいつもの無表情で淡々と喋り始めた。

古くからの友人です。それ以上でもそれ以下でもございませぬ。

平八が聖奈お嬢様と巡り合う前。更に昔。ぴちぴちの高校生の頃からのお付き合いです

私に出会う前。それよりも昔の話……
だからアンタの弱点も知ってたのね
いかにも。平八の弱点は全て網羅されておりますれば。彼女には適いませぬ
おっぱいに目が無いもんね。凄い大きかったし

左様でございますな。おっぱいと平八は決して切り離せぬものでございます。


しかも麗華さんのおっぱいは……国宝級でございますからな。

 おっぱいという単語を出すだけで、平八の口元がクイっと上がる。

 私はそれを見るのが大好きだった。





 弁当を食べるのが早い平八は、お茶を飲み干すと立ち上がろうとするので、私は「ちょっと待って」と言って、食べるのを待ってもらう。


 だって平八は、用件が終わるとすぐに部屋に閉じ篭ってしまうから。




 待って。もう少しお話しよう。

今日。楓蓮にね。貰ったの
私は鞄からガラケーを取り出すと、平八に見せる
昔の写メよ。平八。覚えてる?

どれどれ……おおっ。これはとても懐かしいですな。


あの頃の記憶が蘇ってくるようですぞ。

ねぇ。聞かせて平八。


私。全てを……思い出したい。思い出せなくてもいい。全てを知っておきたい

承知しました。


ですが……先にお風呂など済ませてはいかがですか?

ううん。今すぐ聞きたい。それで……思い出話を聞きながら、今日は横になりたいの

 平八は無表情で、こくっと頷いてくれた。


 ある程度空腹が満たされると、どっと疲れが出てくる。

 

 お風呂も入れないくらい疲れて、いますぐ横になりたい。

 

 聞かせて。平八。

 その話を聞きながら、眠りにつきたい。 




 ※





 ううっ……やっぱり聞くんじゃなかった。

 後悔しても遅かった。



 私が思い描いてきた素晴らしい想い出と共に、やすらかに眠ろうと思ってたのに。

 逆に眠気は吹き飛んで、落ち込むばかり。



 平八から語られる真実は、私の妄想を真っ向から否定し、完膚なきまでに叩き潰した。 



で、この後は暗がりに楓蓮お嬢様を連れて行き、恐らく【寝取られ奥さんごっこ】をされておりましたな。


平八めは「付いて来るな」と言われましたので、詳細は分かりかねますが、楓蓮お嬢様の声で大抵の遊びは判別可能でした。

バカすぎるわ……

楓蓮お嬢様がひーひー言い出すと、大抵その遊びです。


「あなたぁ~許して下さい」と聞こえてくると終了ですな。ですがたまに聖奈お嬢様がお許しにならないらしく、続行する事もございました。とても卑猥な遊びでございます。


その頃の聖奈お嬢様は、洋画にハマっておられて、よく楓蓮お嬢様で実戦されておりました。

 楓蓮は事あるごとにトラウマと言ってたけど、それもやはり真実。

 そう思うと私のモチベーションが削られていくのが分かる。

 

 しかも自分が覚えていないのが余計悔しくて、何も出来ない自分が情けなくなる。




 それにしても……

でもさ、何でそんな惨い想い出ばかりなのに、アンタは無二の親友とか言ってたのよ。

正直に真実を話せばこんな事にならなかったのに

平八には二人の関係はとても理想の関係であり、無二の親友に見えておりましたぞ。


嘘を付いた。そんな気持ちは一切ありませぬ。

話を聞く度に、楓蓮を虐めまくった事ばかりじゃないの。

いえ。こういった思い出話よりも、普段の二人はとても仲が良く、些細な場面場面では、二人ともよく笑っておられました。


楓蓮お嬢様はきっと【ごっこ遊び】の印象が強く、そちらの事ばかり覚えているのでしょうな

 それほど【ごっこ遊び】がトラウマだったのね。

 そんな事をした過去の私を、ぶっ飛ばしてやりたい。

しかし聖奈お嬢様。過去も重要だと言うのは分かります。

覚えておられないのでしたら、尚更そう思うのでしょうが……


ですが、これからの事も考える方が大事かと思われますぞ。

 分かってるわよ。

 過去は過去。もう二度と覆せない歴史。



 それよりも、これから私はどうするのか。

 楓蓮とどう付き合っていくのか、それも考えないと。


ときに聖奈お嬢様。率直に申し上げますが、蓮ぼっちゃまの事は……いかがですかな?
いかが。とは?
率直に申し上げますと、好意を持っておられるかと
それは……分かんないわよ

そうですか。いや。それが普通なのでしょうか。


聖奈お嬢様の立場からすれば、彼との存在はまだ一週間足らずの関係ですからな。失礼致しました

とても良い人なのは分かる。蓮だって凛ちゃんだって、素敵な人達に囲まれた理想の家族だった。


でも……私は……

今は黒澤家との関係を築く事が一番大事かもしれませぬな

うん……私もそう思う。


まずはもっと、彼らの事を知らないといけない。

 このタイミングで、今日楓蓮と話した事を打ち明けていた。

 すると、平八もうんうんと納得しながら、黒澤家の事を教えてくれる。

そうですな。入れ替わり体質を世間に隠蔽しなければならない彼らは、家族との絆はとても強固なものです
楓蓮もそう言ってた。家族の絆はとても強いと。

そして彼等は一度気を許したものなら家族同然に受け入れてくれるでしょう。


この平八も麗華さんには何度もお世話になりましたからな。

助けられ、時には守られ……最早下げる頭も残っておりませぬ

 平八が助けられる? 守られる? 

 それは俄かに信じられない。


 普段はクールでおっぱい職人な平八だけど、執事としてはとても優秀で、ボディガードとしての能力は超人的ともいえる、その平八が……ここまで信頼を寄せている。それが驚きだった。

でも……私も家族みたいに仲良くなれるかな?

 実はちょっとした憧れがあった。


 私は一人っ子だから、兄弟とか姉妹とか……欲しかった部分もあって……

勿論でございます。彼らの秘密を知るのは、入れ替わり体質の人間を除けば……この平八と聖奈お嬢様のみ。


ある意味私達は彼らに選ばれた。認められた存在なのです

 ※



 選ばれた存在。認められた存在とか言われると、まるで何処かのゲームの主人公みたいに思えてくる。そんな風に考えてると、ふとこんな台詞を思い出してた。





《聖奈は特別な存在だから》



 あのシーンを思い出すと、思わず一人で照れてしまう。

 

 あいつ。そんな事を恥ずかしげも無く真摯な態度で言ってくるもんだから。なんて言っていいか分からないのよ。



《仲良くやろうな》

《分かった。楽しみにしてる》

《聖奈。これからはもっと仲良くしよう》




 ああっ。もおっ! 思い出すだけで……頭が変になる。

 聞いてるこっちが恥ずかしくなるのよ!

どうしました? 顔が赤こうございます
ううん。違うのよ。あいつって……恥ずかしい事もストレートに言ってくるから

 別に男に対して耐性が無い訳じゃない。

 海外でも私に迫ってくる男はいたし、お父様の会社で紹介された御曹司にも、プロポーズみたいな事は言われてきた。




 でも楓蓮はそれと違う。

 なんていうのかな……



 あいつは恋人とか、そういう目で見ているのではなく、私を家族のように接しようとしているから? その違い?



 慈愛に満ちたような、敬愛しているような。

 まるで私を崇めるような目で訴えてくる。



 仲良くしたい。その気持ちが身体から溢れ出てるし……

 あんな顔は……反則よっ。



嬉しいけど。だけど……どんな顔していいか困るのよ

なるほど。やはり楓蓮お嬢様も昔と変わりませんな。


麗華さんにそっくりです

対応に困っているようですな。


ならば平八から黒澤家についての七不思議。その一つを教えて差し上げましょう

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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