1 ✿ 魔女の似顔絵

文字数 1,873文字




「まず、特徴を…」

 警備員が訊ねるより早く、マリーは鉛筆とスケッチブックを出す。

描いた方が早いかと

 マリーは目を閉じ、犯人の顔を頭に浮かべる。
 まぶたを開き、犯人の顔を描き始めた。
 色鉛筆で、軽くパーマのかかったセミロングの髪を茶色に塗る。



「す、すっげー…」

 隣で良治は、マリーの細かい描写に感心していた。

「あなたが犯人を止めてくれたおかげです。お腹、本当に大丈夫ですか?」

「あ、ああ…。ちょっと痛むけど、もう平気だよ」

 コンコンッと部屋がノックされた。

「警察の方がお見えになっています。会場に偶然、いらっしゃった方で…」

 警備員が、部屋に一人の若い男性を通す。


「失礼します。鞍馬(くらま) (まさる)と申します」


 勝は警察手帳を見せて自己紹介をすると、被害女性、良治、マリーへ挨拶した。

マリーローゼンクランツさん…とおっしゃいました?」

「はい」

「君のイトコに、ラルフローゼンクランツさんという方は?」

「ああ、はい。イトコに間違いありません」

「やはりか。彼とは知り合いでね」

「そうなのですか」

 マリーは少し驚いた。

「その絵は君が描いたのかい…?」

「そうですけど…」

 テーブルに置いたスケッチブックを、マリーは勝に渡す。

「すごいな」

 勝も、マリーの画力に関心を示した。

「あの。…ちょっと、すみません。なんだか眩暈が」

 痴漢に遭った被害女性は、今にも吐きだしそうな表情である。
 警備員が貧血を起こした彼女を救護室へと運ぶ。
 部屋にいるのは、マリー、良治、勝の三人だけになった。

この顔…」

 勝は、マリーの絵をもう一度見たあと、

「ちょっといいかい?」

 勝はスマホを取り出す。
 痴漢事件についてラルフに一報を入れた。

ラルフさんが話したいそうだ

 勝はマリーにスマホを渡す。


マリー、無事か!? 今度は痴漢だって!? どこのどいつだ!

「大丈夫ですよ、にいさん」

 マリーは、少し恥ずかしそうに言う。
 心配するラルフをなだめ、勝に電話を返した。

「心配性のお兄さんだね」

「イトコなのですけどね。本当の兄のようです」

 マリーは、はにかんだ。

「【黄手配書】にローゼンクランツの名前を見た時は驚いたが、まさか助け出されたイトコさんとこうしてお会いできるとは思っていなかった」

 勝の言葉に、良治は目をぱちくりとした。

「手配書? ローゼンクランツ?」

 良治は、じっとマリーを見る。

「マリーの名字って」

「ローゼンクランツですよ」

手配書に名前って、どういうこと?」

悪いことをしたから、手配書が出されるとは限らないのですよ」

 マリーはそれ以上、何も言わなかった。

「それでですね、マリーさんが見たという犯人について…」

 勝は、ラルフと話をつづけていた。

「今、手もとにデータを参照できるものがないので、なんとも言えないのですが……え? どういう状況で僕が現場に、ですか?」

 勝は、苦笑いする。

「今日は休日だから、好きなアニメの展示会を見に行っただけですよ。そこで偶然、痴漢事件に遭遇し、イトコさんにお会いしたというわけです。それでマリーさんが見たという犯人の顔ですが。見覚えがあるんですよ。インターポールのデータと参照していただけませんか。マリーさん。この絵、写真に撮ってラルフさんに送ってもいいかい?

 マリーが了承する。勝は絵の写真を撮り、ラルフへ送信した。
 しばらくして、ふたたび勝の携帯が鳴った。

「今、インターポールのデータを参照した。マリーが人物描写に長けていることは、俺も知っている。彼女の絵を見たことがあるしな」

 ラルフはつい最近、自分の肖像画を描かれたばかりである。
 絵は実家の両親に送った。

「データを参照した結果、俺たちも、にわかには信じられないのだが…」

 ラルフの声は重い。


その女は、死んでいるはずだぞ


 勝は「やっぱり」と暗い顔でつぶやいた。
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登場人物紹介

マリー・ローゼンクランツ


 絵画修復士を目指す少女。

 事件に巻き込まれ、傷心旅行で日本へやってきた。

(事件の詳細は、前作:ローゼンクランツの王 を参照)

守部 良治 (もりべ・りょうじ)


 高校二年生。球児。

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