第4話 お互いの関係

文字数 1,464文字

「ああ。大丈夫。レティに連れ込まれても、私の寝室にはちゃんと侍女と使用人がいて、お茶をして帰ってもらっただけだから。信用出来ないなら、証言してくれる人はたくさんいるし」
 そう言いながら、サイラス殿下は私の横に座る。
 いや、そんなの口裏合わせれば良いだけでしょ? 誰がそんな戯言信じるのよ。

 心の中で突っ込みを入れていると、サイラス殿下は私の頬に手を当て、反対の手で私の手をそっと握った。
 握ったで良いのよね。だって、掴まれた手が少し痛い。

「あ。あのっ、サイラス殿下?」
「殿下なんて呼び方、さみしいじゃないか」
 耳元で囁かれてしまった。
「で……でも。でもでも、殿下は殿下で」
 自分でも何言っているのか分からない。顔が熱い。

「あ~、やっぱりここが一番、ホッとするよ」
 サイラス殿下は、私に抱き着いたまま力を抜いてホッとしている。
 重い。いや、本当に重いってば……。
「サイラス殿下。私まだ……」
 不敬だけど、両手で押しのけた。
「サイラスって呼んで。婚約は破棄しないよ。君の父上とはそう話が付いたんだ」
 サイラス様は、私に押しのけられたまま、そう言った。

 なんだ。
 お父様と、そういう話をしたんだ。
 だとすると、サイラス様がどんな風でも、私がどんな扱いを受ける事になっても、婚姻から逃れられない。

「そう……ですか」
 私は今、どんな顔をしているのだろう。
「これから大変だね。今までの令嬢の分まで、私の相手をしないといけないし……。何より、正式に婚姻を結ぶまで……もしかしたら、王妃になってしまうまで、令嬢たちからの嫉妬の嵐だ」
 サイラス様の口調は穏やかだけど、少し笑いを含んでいる。

 はい?
 私は思わず、サイラス様の顔を見た。
「サイラス様?」
「様もいらないけど。まぁ、いいか。その辺は、おいおいで……。クリスティーヌに矛先を向けられないように、令嬢たちの相手をしていたんだけど。婚約を破棄したくなるくらいイヤなら、やめるから」
 相変わらず、にこやかに笑ってはいるけど……。

「なん……で?」
「だってお茶会デビューしてからの君は、いつだって傷だらけだったじゃない。ドレスもボロボロになっていたことがあったし」
 え? 見てたんだ。

 いやあれって、相手の令嬢もけっこうボロボロになっていたからね。
 まぁ、そのせいで私の評判も地に落ちていたけど……。
 あれから、王妃教育だけでなく、淑女教育なんてものが始まったんだよね。

「私のそばにおいで。他の令嬢が意地悪する暇がないくらいかまってあげるから……」
 いや、それってどうなの? 仕事は?
「クリスティーヌ?」
 ……そんな目で、見詰めないでよ。いや、頬を撫でるな。
「分かった。分かりましたから」
 たまらず、私はサイラス様にそう言った。
 私の顔は熱くなったままだし……多分、鏡を見たら真っ赤なんだろうな、きっと。
 サイラス様は、私の隣で笑っている。



 宣言の通り、サイラス様は令嬢たちを遠ざけ始めた。
 それどころか、しつこく迫ってくる令嬢の家には、二度と王太子殿下に近付くことが無いよう通告を出している。
 
 サイラス様の、王太子としての仕事が無い時は、私たちは常に一緒にいるようになった。
 なんだか、色々な事がうやむやになってしまったけれど、仕方が無いと思う事にしている。


 そして気が付けば、私の念願だった婚約破棄どころか、婚礼の儀がすぐそばまで迫っているのであった。


                               おしまい

 最後まで読んで頂いて、感謝しかありません。
 ありがとうございました。
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