第50話  入れ替わり体質の欠点 1

エピソード文字数 3,333文字

 


 ※


 昼の休憩になると、聖奈を起こすのは俺の役目である。


あぁ~~よく寝た
今日は一度も当てられなかったし、9時頃からストレートで爆睡してたよな。
聖奈ちゃん。お昼さんですっ

 白竹さんが補助鞄から取り出したのは、二つの大きなバスケットだな。

 中身を開けるとこりゃ見事なサンドイッチだった。

あ、これアンタが作ったやつ? 


そです! 約束のブツですよ。

くりょ澤くんも、染谷くんもどぞ~

マジっすか。あざぁ~~~っす!
ありがとぉございます。いただきます

 そのサンドイッチは以前、魔樹が持って来たのと変わらない美味さだった。

 姉弟揃って喫茶店で出せるようなレベルに、心底脱帽するぜ。

美味しいっ! さすが店に出してるだけあるわね
 聖奈も認める味。それはつまり本物ってことだ。
こりゃ美味い。今度こっちも頼んでみよう。
 そうだね染谷くん。オムライスばかりじゃなく、色々と食べてみるといいぞ。 

 


 そんな時、周りの視線が突き刺さる。

 発生源はもちろん男子生徒である。西部を筆頭に真鍋まで目をギラギラと輝かせるのだった。


あ、みなさんもど~ですか? 良かったらどぞ~

まだあるよ。いっぱい作ってきましたから。

いいの? はいっ! 食べますっ!
ちょ! こら真鍋っ! 抜け駆けは許さんっ。って。ぬぅわっ!
どきなさいよっ! 白竹さんっ。私も食べていい?
あひっ! もちろんですっ! どんどん食べちゃってくださいね

は~~い! 私も欲しいっ。いるいる~~!

 クラスの皆が白竹さんの机に一気に集まると、凄まじい速度でサンドイッチが無くなって行く。

 

おいしい~~! 白竹さん。めちゃ美味いじゃない
いい奥さんになれるよね。お料理できる女子わ憧れますねぇ
白竹さんは喫茶店でバイトしててさ、そこで作ってるから。マジ美味いんだよね
プロのシェフでもこんな美味しく作るのは難しいわよ。

あふっ。あ、ありがとぉです。

だ、だけど。これわ私だけじゃなくて。魔樹も一緒に作るのですよ

 そう聞いた米山さんがやたらビックリしてる。

 こりゃきっと……彼女の中で、魔樹王子のイケメンレベルが上がったに違いない。

魔樹くんって……料理まで出来るのね。しかも上手だし……


すご~~い! 

なぁ俺にも……一つだけでいいから。

 床を這いずり回って出てきた西部。


 お前一番最初に気づいておきながら、他の奴らに揉みくちゃにされてたからな。

あら残念。もうカラッポだわ

の、のぉ~~~!

あう。ごめんなさい……いっぱい作ってきたんだけど

 ショックを受けた西部はそのまま床ペロすると動かなくなった。


 他の生徒もサンドイッチがなくなると、白竹さんに感謝の言葉を並べ自分の席へと戻る。

西部。ほら。半分やるから立ち上がれよ
マジ?
そんなヤツにやらなくていいのに。勿体無いわっ

 聖奈は西部のことをすげー嫌ってるからな。

 染谷くんも、笑顔でキツイ事を連発するし。


 まぁウザイのかもしれないが、コイツが完全敗北してると、その姿がやたら可哀想でな……

ありがとぉ黒澤っ!

やっべーこれ。めっちゃうめーし!

あんた。美優にも感謝しなさいよ
もちろんっす! ありがとぉございます! 白竹さん! 最高っすっ!

 そこからは遠方組のみんなで喋っていると、教室に入って来たのは……


 ん? あれは紫苑さんじゃないか。

あ、ここのクラスやったんやね?
あ、紫苑さぁん! どもです~~!
お昼時やのにすんませんね。ちょ~っと美優ちゃんに話があってな

 パッツン頭も相変らずだが、制服姿なのはまた新鮮である。

 年上とは聞いていたが、二年生なんですね。

ちょっとバイトの話でな。そのまま言いに来たんやけど……

今週の水曜日。出勤できるかなって。人足りてる?

 水曜日? そりゃ楓蓮と一緒になれますね。
うんうんうん! 全然おけですよぉ。きっとじいじも魔樹も大歓迎ですっ!

良かった。めっさ助かるわ。

ちょっとな……稼がなあかん用事が出来てもて……じゃあよろしくお願いしますっ

 上級生なのに本当に謙虚な方だな。

 だけど関西弁だというギャップがまた可愛い紫苑さんであった。


 そんな時……「先輩!」という大きな声が聞こえてきた

ん? あれ? あんたら……
ほいっす! 百済先輩っ! 我がクラスに何か用ですか?
どうもです。先輩!
おおっ。まゆちん? あれ? 二人ともクラス一緒やったんか
 ん? 坂田さんや米山さんと知り合いなのか?


 白竹さんとの話が終わると、紫苑さんはすぐに坂田さんの元へ行くと速攻後ろから抱きついていた。

ど~ですか? 大安(たいあん)ちゃんは元気ですか~?

もうバッチリやで。すっかりウチに懐いてしも~てな……

てゆーかさ。その名前で呼ぶの止めて~や。今はもう……マジョリーナちゃんやから!

 やたら仲が良さそうだな。


 後輩にも慕われてる感があるし、蓮でも楓蓮でも好印象な珍しい人だ。


 マジョリーナちゃんって何だろうか?

 ペットかな? 犬? 猫? 多分そんな感じだろう。



 そんな事を考えていると、一瞬スマホがぶるった感覚がした。

 

 俺は普通にポケットから取り出して画面を見る。

ん? 凛から? 

こんな時間に……?

 そして凛が送ってきたその文章に……俺は一瞬で凍り付いてしまうのだった。

《頭痛いよ。学校終わるまで持たない》

 そのメッセージに、先程までの楽観モードは一瞬で掻き消えてしまった。


 ※


 

 俺はスマホを見ながら椅子から立ち上がり、廊下へ出ると聖奈も一緒に付いてくる。


 こいつは俺のただならぬ雰囲気を察知したらしい。


どうしたの?
凛からだ。あいつ……

 現在時刻は午後一時過ぎ。

 小学校は遅くても四時前までは拘束されるはずだ。

 

 この時間でリミットを告げる頭痛が来るなんて……

 学校が終わるまでとか……


 絶対に間に合わない!


《どうなってる? 何回目の痛みなんだ? 最初の頭痛から何分たった?》

《学校のどこにいる? 詳しい場所を教えてくれ》



 すぐに返答するが、既読にならない。

 顔が歪む。歪みまくる。



 何でこんな事に……

 ってか、リミットが来るのが早すぎるだろ!



 そう思っていると、今朝方の事を思い出していた。

 俺が朝起きた時、あいつは既に凛になっていた。それで「入れ替わるの早すぎ」と忠告した。



 その時、凛は「大丈夫だよ」とか余裕で言いやがって……

 あんの馬鹿野郎! 



 凛! お前は……俺よりも一時間以上、男でいられる時間が短いんだって、何度も言っただろ! 



 だからいつも、遅刻ギリギリの時間帯まで華凛で過ごしてるのに……



 ってかあいつ! 早く返事を寄こせっ! 


 早く俺のメッセージを読めよ! 


 頭が痛いだけじゃ詳細がわからねぇじゃねーか!


蓮……大丈夫なの?
いや……まずい。かもしれない

 聖奈がいつにも増して真剣な顔になっている。それにようやく気が付いた。

 きっと感情を曝け出した顔になっていたのだろう。



 とにかく……凛の連絡を待つしかない。




 いや、まてよ……

 もしかすると俺に連絡の取れない状況に陥っているとしたら?


 先生にスマホを没収されたとか、逃げ出す際にスマホを教室に置いて来てしまったとか、色々と考えられる。



 もしそうだとしたら……

 こんな場所で呑気に連絡を待ってる場合じゃない!


こりゃダメだ……俺。帰るわ
 そういい残し、さっさと自分の席にある鞄を持つと、尋常じゃない雰囲気を悟ったのか、染谷くんが真剣な顔で「どうしたの?」と、言ってくれる。
いや……弟が学校で熱出したらしくて、迎えに行って来るよ
あら。大丈夫でしか?
ええ。平気っす。じゃあ行って来ます
 あっという間に教室を出ると、聖奈が後ろから俺の名前を叫ぶ。しかも俺と同じように鞄を持っていた。
私も行くわっ
何でだよ。お前はそのまま授業受けてろ
ちょっと。待って!
待てねぇ! 頼む。一人で行かせてくれ!

 お前と一緒に行けるほど、悠長な時間は無いんだ! 

 急いで階段を下り、誰も居ない場所になると、一気にジャンプして一階へ降りる

蓮っ!
すまん! 後で話す

 聖奈の叫ぶ声に天井に向けて叫び返す。

 俺は上履きを履きかえると、ここから一気にダッシュしていた。




 まずい……このままじゃあいつは……

 知らない人間の前で、女になっちまう可能性がある!




 それだけは、それだけは、なんとしても阻止せねば!

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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