第34話
文字数 2,027文字
才は新興の半グレのグループが管轄するルーレット屋に潜り込んでいた。情報収集したネタをもって揺さぶりを賭けて支配下に置きシステムごと客を取り込む滝沢の計画の斬り込み部隊の一人として徴用されていた。
小波と音楽に生きたこの数週間が宝物には違いなかったが、この先も闇が湧く現実をしっかりと捩じ伏せるのか分からない。それを見極めるにもこの刺激的な仕事が必要に才は思えて、小波には何も言わずに部屋を出て来てしまった。
初めての求めた恋でもあり、迷う感情は小波と向き合うには不安が大き過ぎたのだった。
「いつまた手を離されて取り残されるのか分からないし、こちらの優しさが相手に通じていくのかも分からないし、そもそも、自らが責任を取る事の出来る代物なのかも怪しいよ」
それでも、体が小波の肌や粘膜を直ぐ近くにあるかのようにいまも錯覚している。
ハウリング・フラワーズのギターの音色が小波の指の感触を思い出させた。小波の指が才の魂の解剖と再現を一瞬にして結んでしまった。
「彼女とならば、証明出来るようになる」
そうなれば嬉しいと望みを持った。不安が影とはなってもその効果なのか望みがよりなまめかしく艶やかに浮かぶ。
「やっぱり必要なのだ。小波との心のやりとりを忘れるような、やりとりが」
メールの着信を知らせるバイブレーション。滝沢から呼び出しが入った。
「ちょっと、出てきます」と夢を一旦脱ぎ捨て、闇を纏って指定の場所へ向かった。
ホテルの部屋には、滝沢、力人、そして勇也もいた。力人は軽く視線をかわし、大丈夫と伝えたかった。
「うちの会長だ、知ってるな」
「滝沢さんに面倒を見ていただいています、鬼無です。よろしくお願い致します」
余りに素直なおじぎをするので、勇也もつい素の間合いを取りそうになる。勇也は才の顔を両手で挟むと目をじっと見つめた。
「若いな。やべえ程に、少年じゃねえか。フン、でも、確かにこっち向きの好い目をしているな」
滝沢をちらっと見た。
「魚の腐ったような目には存在の崩れていく過程が閉じ込められているようで、好きなんだよ」
勇也が発する存在感に才は戸惑っていた。暴力的な力を伴い俗な世間にいることを考えれば中元に近いが、計算式の構成からすると直行の側に近い。
修羅場を生き抜いた数から来るものか知らない凄みの差はあるが。精神的な高みを机上で捻り出すのではなく、肉体もろとも安定とチャレンジの隙間へスッと放つことから精神を浮かびあがらせ、そいつを箸で摘まんで才の口元に差し出すような人だ。
「君は小波と一緒にいなさい。あ、仕事的な間柄な。勘違いすんなよ。本当に、このクソガキ」
一瞬取り乱した勇也を見た力人は思った。
「やべえ、マズイ。一緒の部屋で寝ていたなんて言えねえ言えねえうわぁぁぁぁぁぁぁ」
胸の内側が絶賛爆裂中になった。
才は顔色一つ変えないで答えた。
「でも、ケジメを付けなければならないんです」
「けじめってなんだ。贖罪か」
「命のやりとりの極地から始めないと」
勇也はボディーに一発放った。
「悪いな」
才は何も気配を感じなかった。
勇也は萎むように丸くなった才を更に踏み付けた。
「ふざけるなよ、少年。
お前のやってきた罪とか罰とかはそんな処にはねーよ。何にも変わらない。お前が行きたい場所で、望む決着をするということは、お前の性欲が心の傷と共鳴して、その振動で射精しようっていうのと変わらないじゃねーか。ふざけんな」
力人は単語の羅列にしか聞こえず、文章としては全く解らず、オヤジをじっと見守るしかなかった。
「そこから引きずり出してやる」
内なる『才の何者か』が、頭の中、心の中、魂の中を駆け巡っていた。
「お前は小波と一緒に音楽をやれ。それだけでいいんだ」
「いろいろ、面倒があるし、迷惑が、掛かる、と、思いま、す」
「刑事が動いてるってやつか? それはなんとかする」
「自分で、しっかり責任取ります」
再び腹を一発蹴り上げた。
「取らせねーってんだよ。その事件は・・・・」
力人の方を向いて。
「悪いけど、お前かぶってくれや」
「わかりました」
才は動揺に打ち震えた。
「僕は、自分の事は自分で・・・・お願いします」
「人の想いを背負う、苦しさを罪として、共に生きていくことも、人間だ。
正直に生きるだけなら、スポーツ選手にまかせろ。そんな世界でも小狡さは大事な香辛料として必要だがな。
まあ、とにかくお前は芸術家として、内側を業火に沈まぬように泳いでみたらどうだい」
「厭だ、イヤダいやだいやダダっ!!! 」
涙と鼻水が声を物理的な自然音に潰した。
力人は上半身を起こして、ぎゅっと抱きしめ、立ち上がって才の頭をもう一度撫でてあげると、最高の笑顔を渡した。才は呼吸を失い、力人の笑顔をいっぱいにあびながら意識を失ってしまった。力人はすぐに行動を開始した。先ず才の携帯の音源をもとにサイトに自分の声で流し、滝沢と最終のシナリオを確認し詰めていくのであった。
勇也は電話を掛けた。
「小波さんよ、おとうさんだ。今どこかな?」
小波と音楽に生きたこの数週間が宝物には違いなかったが、この先も闇が湧く現実をしっかりと捩じ伏せるのか分からない。それを見極めるにもこの刺激的な仕事が必要に才は思えて、小波には何も言わずに部屋を出て来てしまった。
初めての求めた恋でもあり、迷う感情は小波と向き合うには不安が大き過ぎたのだった。
「いつまた手を離されて取り残されるのか分からないし、こちらの優しさが相手に通じていくのかも分からないし、そもそも、自らが責任を取る事の出来る代物なのかも怪しいよ」
それでも、体が小波の肌や粘膜を直ぐ近くにあるかのようにいまも錯覚している。
ハウリング・フラワーズのギターの音色が小波の指の感触を思い出させた。小波の指が才の魂の解剖と再現を一瞬にして結んでしまった。
「彼女とならば、証明出来るようになる」
そうなれば嬉しいと望みを持った。不安が影とはなってもその効果なのか望みがよりなまめかしく艶やかに浮かぶ。
「やっぱり必要なのだ。小波との心のやりとりを忘れるような、やりとりが」
メールの着信を知らせるバイブレーション。滝沢から呼び出しが入った。
「ちょっと、出てきます」と夢を一旦脱ぎ捨て、闇を纏って指定の場所へ向かった。
ホテルの部屋には、滝沢、力人、そして勇也もいた。力人は軽く視線をかわし、大丈夫と伝えたかった。
「うちの会長だ、知ってるな」
「滝沢さんに面倒を見ていただいています、鬼無です。よろしくお願い致します」
余りに素直なおじぎをするので、勇也もつい素の間合いを取りそうになる。勇也は才の顔を両手で挟むと目をじっと見つめた。
「若いな。やべえ程に、少年じゃねえか。フン、でも、確かにこっち向きの好い目をしているな」
滝沢をちらっと見た。
「魚の腐ったような目には存在の崩れていく過程が閉じ込められているようで、好きなんだよ」
勇也が発する存在感に才は戸惑っていた。暴力的な力を伴い俗な世間にいることを考えれば中元に近いが、計算式の構成からすると直行の側に近い。
修羅場を生き抜いた数から来るものか知らない凄みの差はあるが。精神的な高みを机上で捻り出すのではなく、肉体もろとも安定とチャレンジの隙間へスッと放つことから精神を浮かびあがらせ、そいつを箸で摘まんで才の口元に差し出すような人だ。
「君は小波と一緒にいなさい。あ、仕事的な間柄な。勘違いすんなよ。本当に、このクソガキ」
一瞬取り乱した勇也を見た力人は思った。
「やべえ、マズイ。一緒の部屋で寝ていたなんて言えねえ言えねえうわぁぁぁぁぁぁぁ」
胸の内側が絶賛爆裂中になった。
才は顔色一つ変えないで答えた。
「でも、ケジメを付けなければならないんです」
「けじめってなんだ。贖罪か」
「命のやりとりの極地から始めないと」
勇也はボディーに一発放った。
「悪いな」
才は何も気配を感じなかった。
勇也は萎むように丸くなった才を更に踏み付けた。
「ふざけるなよ、少年。
お前のやってきた罪とか罰とかはそんな処にはねーよ。何にも変わらない。お前が行きたい場所で、望む決着をするということは、お前の性欲が心の傷と共鳴して、その振動で射精しようっていうのと変わらないじゃねーか。ふざけんな」
力人は単語の羅列にしか聞こえず、文章としては全く解らず、オヤジをじっと見守るしかなかった。
「そこから引きずり出してやる」
内なる『才の何者か』が、頭の中、心の中、魂の中を駆け巡っていた。
「お前は小波と一緒に音楽をやれ。それだけでいいんだ」
「いろいろ、面倒があるし、迷惑が、掛かる、と、思いま、す」
「刑事が動いてるってやつか? それはなんとかする」
「自分で、しっかり責任取ります」
再び腹を一発蹴り上げた。
「取らせねーってんだよ。その事件は・・・・」
力人の方を向いて。
「悪いけど、お前かぶってくれや」
「わかりました」
才は動揺に打ち震えた。
「僕は、自分の事は自分で・・・・お願いします」
「人の想いを背負う、苦しさを罪として、共に生きていくことも、人間だ。
正直に生きるだけなら、スポーツ選手にまかせろ。そんな世界でも小狡さは大事な香辛料として必要だがな。
まあ、とにかくお前は芸術家として、内側を業火に沈まぬように泳いでみたらどうだい」
「厭だ、イヤダいやだいやダダっ!!! 」
涙と鼻水が声を物理的な自然音に潰した。
力人は上半身を起こして、ぎゅっと抱きしめ、立ち上がって才の頭をもう一度撫でてあげると、最高の笑顔を渡した。才は呼吸を失い、力人の笑顔をいっぱいにあびながら意識を失ってしまった。力人はすぐに行動を開始した。先ず才の携帯の音源をもとにサイトに自分の声で流し、滝沢と最終のシナリオを確認し詰めていくのであった。
勇也は電話を掛けた。
「小波さんよ、おとうさんだ。今どこかな?」