第6話 裕子とスマートフォン

文字数 650文字

 携帯ショップにいる母と小学生の娘。
ママ、これ買ってこれ買って!
だ〜め。裕子にはまだ早すぎます。中学生になったら買ってあげるからね
それじゃ遅いよママ。友達みんなもってるのに
よそはよそ。うちはうちです
なんで? スマホ! スマホ買ってよ〜!
だめよ。だいたいスマホなんて、一体なにに使うの
だって、スマホだったら色んなゲームができるし、いつでもどこでも遊べるもん
みんなヒマなときはいつもスマホでゲームしてるって言ってるよ
そんなことだろうと思った。ゲームなんかするためにスマホを買うんじゃありません
ゲームだけじゃないよ。スマホなら、パソコンみたいにたくさんの情報が、いつでもみれるんだよ
それでもだめよ
買って買って買って買って!
だ〜め!
買って買って買って買って――
やっぱりいらない
えっ
余計なソフトがたくさんついたスマホなんて、くだらない代物だわ
なんで私、こんなものほしがったんだろう。考え直すとバカみたいだわ
ゆ、裕子……?
空いた時間を有効に使える。いつでもどこでも遊べるっていうのは、便利なように思える。でも、なぜいつでも遊ばなければならないの? 
私たちはわずかな時間をも、何かをするために使おうとしている。でも何もしない時間が、本当に無駄な時間だといえるのかしら。ゆっくり思索にふけって自分を見つめ直す時間だって、とても大切なはずだわ
脅迫観念にかられて余裕を無くし、有効な時間の使い方を錯誤していることに、私たちはもっと気づくべきじゃないかしら
あ、あなた! 裕子が脅迫観念にかられてとかなんとかって……あなた!
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登場人物紹介

母親

ほら裕子。自己紹介しなさい

裕子

裕子です! 十歳です! 小学四年生です!

好きな教科は国語と社会で、苦手な教科は体育です!

でも友だちも先生も優しいし、学校はとても楽しいでーす!


――なんてね。フフ。

自己紹介で私の全てを知ろうだなんて、虫がよすぎると思わない?

所詮自己紹介なんて自分の中の良い部分、自慢したい能力を披露するだけのものよ。

本当の人間性はこんなことじゃ到底理解し得ないことに、この欄を読む側もそろそろ気づくべきじゃないかしら。


母親「ど、どうしたの裕子!」

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