第98話   お互いの初めて 2

文字数 5,173文字

 ※



 昨夜、美優ちゃんからの連絡を受けてから、次の日。

 ラインで話があると言われ、土曜日の昼に待ち合わせることとなった。



 相談したいことがある。

 これは勿論、白竹ママの事だと思ってる。


 

 昨日の放課後、ママが校門で待っていた時に見せた彼女の表情は、今でも脳裏に焼きつくほど、悲痛なものであった。


 俺としては、別に気にしていないのだが、美優ちゃんなりに何か心に突き刺さった。そんな気がするんだ。



 

 だが、次の日学校で美優ちゃんと顔を合わせると、意外なほど笑顔だったのだ。

 これには俺の予想が外れてしまったが、ドロドロに落ち込んでいるよりも全然良い。


 これなら別に土曜日に相談する必要は無いのではないか? 

 そう思ったが、その話題は一切出さなかった。



 暫くしてから……俺は気がついた。



 美優ちゃんの笑顔には、その人を見ている感じではなく、どこか違う場所を見ている。そんな風に思えた。


 いつもと微妙に違う。どこか上の空というか……



 それは俺だけではなく、染谷くんも耳打ちしてくるし、聖奈に到っては、直に本人に「今日、あんた変よ」とストレートに言いやがる。



 違うのはみんな分かっている。だけどそれを突っ込んではいけない。

 美優ちゃんは、そんな上の空オーラを身体中から放出しているのだった。




 ※


 ※

 

 そして二日後の木曜日。


 学校の休憩時間。廊下に張り出された学力テストの成績を見ていた。


 

 

おっしゃぁ! 何とか補習無しだな。これでGWは安泰だ!
でもお前。下から50番くらいじゃねーか
 俺は158番。まぁ可も無く不可もなくて順位だ。そんで隣の西部は318番と、俺と二倍の開きがあった。
意外と真鍋は成績いいじゃないか
意外とか失礼だね。ちゃんと勉強してるよ

 真鍋は129番。こんな穴バースト野郎に負けるのは不本意だ。

 

 しかも……おっぱい職人の知り合いだと知ってから、やたらこの二人は俺に付きまとって来て、非常にウザかった。

白竹さん……やばかったな
いやいや。お前より上だからクリアだろ

 美優ちゃんは……289番。

 まぁ、一緒に授業を受けてると、ちょっとマズいとは思ったが、西部よりもちょっと上なので安心した。

あんなに可愛いからいいんじゃない?
そうだな。可愛いから許してやろう。まぁとどのつまり、天は二物を与えないってこった
待てよ。二物以上持ってるヤツがいるぞ
 俺は学力テストの上位の方を指差した。
何で授業中爆睡してんのに……1位なんだよ

 西部がぼやく。

 学力テスト一位は聖奈である。 


 あいつのチートっぷりには毎回驚かされる。

 点数を見ると500点満点中、498点とか、最早意味不明すぎる。

その下も……おかしいだろ
だね。僕もビックリしたよ
美神さんのをカンニングしたんじゃね?
聖奈は一番後ろだぞ。どうやってカンニングするんだよ
それにしても、脳ある鷹はどうたらこうたらだな。人は見かけによらねーな

 いや。お前らより俺が一番ビックリしてるんだよ。



 二位はまさかの……まさかとか言ったら失礼かもしれないが、俺の一番のお友達である、染谷くんなのだ。

染谷ってそんなに頭が良かったのか
496点だよ。美神さんとほとんど変わらないじゃん
そんで。三位は魔樹だろ? 遠方組がまさかのワンツースリーだからな

これで白竹さん弟と染谷の株が更にあがったよな?

あんな整った顔と、この学力とか……人種差別もいいとこだろ? な? 黒澤

 西部。なんで俺に同意を求めるんだよ。

 確かにお前の気持ちは分からんでもないよ。だけどな……

 

 お前と俺にも、超えられない壁があると思ってるんだが。

いいじゃん。こんなクソいリアよりも、僕達にはおっぱいがあるんだから
だな。おっぱいは人を裏切らん。現実で傷ついた心を回復してくれるのは、いつもおっぱいだった

 また始まった。

 こんな人だかりの中でも平気でおっぱいとか言い出すし。


 とにかく。こいつらがこういう話をしだすと止まらないので、さっさとフェードアウトするのがいいだろう。


 ちなみに。他の面子はというと。


 78位  坂田さん

 112位 竜王さん

 161位 王二朗くん

 217位 米山さん

 

 坂田さんはともかく、竜王さんに負けたのは非常にムカツクぜ。まぁ一番安心したのは、王二朗くんよりも上だったことか。


 餌付けしてる奴の方が頭悪けりゃ、色々と問題があるだろ。




 ※



 昼休憩になると、美優ちゃんの持ってくる弁当に群がる遠方組は、最早恒例行事となっていた。


 ついでに西部や真鍋。

 更には坂田さんや米山さんまで集まってくると、やたら賑やかになる。



 そして何食わぬ顔でやってくるのは魔樹だ。

え? ここいいの?
ふぁい! す、座ってください! どうぞっ!
まゆちんの隣でごぜぇやす。どぞどぞ~

 米山さんの動きが俊敏すぎる。


 思わず染谷くんや聖奈と目が合うと、同じタイミングでくすっと笑うのだった。


 この三人は米山さんの挙動不審なアクションに気がついている。

 あらかさまに変わっちまうからな。

でさ! 前ら。GWはどーすんだよ。何の予定もないのか?

 いつも思うが……

 なんで西部って、こんなに偉そうに仕切れるのだろうか。


 しかも聖奈や染谷くんに睨まれても、坂田さんや米山さんに突き飛ばされようとも、雑草のように生えてくるんだよな。その屈強なメンタルはマジで凄いと思う。

 

 

う~ん。予定はないけども。
私は無理ね。忙しいのよ
 そう言えばせっかくのGWなのに、聖奈は家にも遊びに来れないと言ってたからな。



 さて。俺はといえば……

 坂田さんから譲り受けるであろう、わんちゃんと一気に仲良くなる時間としてGWを使いたいのだ。

俺もちょっと用事があるかな……

白竹さんはどうっすか?

 西部。お前聞いてねーだろ!

 あらかさま過ぎて笑えてくるぜ。

う~ん。特に予定は無いけど、ゆっくりしたいかな
 そんな魔樹の一言に、米山さんの口元がクイっと上がったのを見逃さなかった。
ったく、シケてんなお前ら。どうせなら……みんなで「だんじり」いかねー?
そうそう。みんなで一緒に行きませんか?

そうそう。魔樹くん。一緒に行きませんか?

と、まゆちんが言っておられます

ちょっともうっ! みなさんも、だ、だんじり。見に行きません?
 だんじり?
何でしか? それ

あーそっか。地元民じゃないから分かんないのか。


実はGWの四日と五日にこの近辺で祭りがあるんだよ。

それをここにいるメンバーで行こうじゃないかって話になってんだ

 祭り? こんな時期に?
あーそれは聞いた事があるね。神輿に乗って練り歩くんだよね?

そそそそ。さすが秀才の染谷だな。

で……隣の地区にさ、でっかい神社があって、屋台とかめっちゃ出るんだよ。そこに行ってみない?


 屋台? 

 お~~。それはちょっと面白そうだぞ。


 昔から俺は、そういう祭りごとに出る屋台は好きなんだよ。


 勘違いして欲しく無いのが。祭りはどうでもいい。

 あくまで。祭りにに出ている屋台が。好きなのだ。



 一気に俺のハートを掴んだ祭り情報だが、聖奈はもう一度「無理」と念を押すと、染谷くんや美優ちゃん。魔樹までが良い返事をしなかった。

まぁいいか。GWの最終日が一番盛り上がるからよ。

まだ日にちはあるから。行けるようなら連絡くれよ


 そうだな。まだ一週間以上あるし。


 こりゃ凛と一緒に、わんちゃんを連れて出かけたいぞ。



 ※



 昼の休憩が終わり、六時限前の休憩時間。


 染谷くんと廊下で喋っていると、見知らぬ男子生徒が「黒澤って君?」とか尋ねられる。

ちょっとさ、付いてきてほしいんだけど
いいけど。なに?

 全く見に覚えの無い奴だった。


「僕も付いて行っていい?」と染谷くん。

 だがその男子生徒は「一人でお願いできるかな」とやんわり断ってくる。



 染谷くんも俺も首を傾げると、とりあえずその男子生徒の後を付いていく。

 一階のトイレ付近に連れて行かれると「じゃあここで」と言い残しさっさと階段を上がっていった。


 何なんだあいつ。

 そう思っていると、男子トイレから出てきたのは……魔樹じゃないか。

あれ? 魔樹? トイレ?
違うよ。君を待ってたんだ
は? 何で? ってかさっきの奴ってお前のクラスの奴?
そうだよ。僕の前に座ってる男の子

 何だかお前が男の子とか言うから、違和感があるぞ。


 まぁ……クネ魔樹ちゃんならそう言いそうだけどさ、今のお前はクル魔樹だからな。

 最近は喋らなくとも、雰囲気だけで判別可能だ。

用があるんなら、別に普通に教室に来ればいいじゃねーか
 魔樹は返答もせず、廊下の端っこまで来ると、小さな声で俺の名前を呼ぶ。
美優から……何か聞いてない?
ん? なにを?
 唐突な質問に面食らうと、魔樹らしかぬ沈んだ顔を見せてきた。
最近ちょっと……美優の様子がおかしいんだ
……お前もそう思うのか?
何か知ってるなら教えて欲しい
って……言われても、何を教えていいか分からんぞ
 その質問は唐突すぎるって。もうちょい絞れないのかよ。
俺だって、美優ちゃんとは絶対秘密のやり取りがあるから、どこまで話していいのか分からん

最近の美優はずっと自分の部屋に篭りっぱなしで……僕とも殆ど喋ってないんだ。

その前に何かあったのかも知れないけど、検討がつかない。


頼む黒澤。知ってる限りでいい。何か美優から連絡は来てないか?

 お前がこんなにお願いするなんて。初めてなだけに……

分かった。お前はお前なりに……美優ちゃんが心配なんだろ?

何を知りたいのかしらないが、このくらいなら見せられる

 俺はスマホを見せると、美優ちゃんとのラインのやり取りを見せようとする。
いいの?
ああ、何も疚しいやり取りなんてしてないんだから

 本当はこんなの。見せるべきじゃないと思うが……

 お前の顔見てたらさ、何となくその気持ちが分かる。そんな気がするんだ。

 

 魔樹にスマホを見せると、俺とのやり取りに釘付けになっていた。

前にも言ったと思うが、俺は美優ちゃんと仲良くなりたいだけなんだ。魔樹。ここまで見せるんだ。そろそろ信じてくれ

 魔樹はじっとラインのやり取りを見ていた。

 すると、ワンダーワールドの文字が出てきたとき、一瞬凍りついた。

あっ! 待て! そのワンダーワールドって奴は……
知ってる
……ふはっ。そ、そっか……まぁ内緒にしてくれるんならいいけど……頼む。誰にもバレたくないんだ
約束する。誰にも言わない
おちょくるのも禁止だぞ。わりと真面目書いてるし、その話題で弄られると、マジでヘコむから
ここまで見せてくれるんだ。この件については一切触れない
 ここぞとばかりな真摯な対応に、大丈夫だと納得するのに時間はかからなかった。


 とはいえ、魔樹はどんどん過去のやり取りに進んでいくじゃねーか。そしてある場所でスクロールをやめる。

……美優。

黒澤に送った内容はほとんど私の事ばかり。


ああ、それか。あんまり見るなよ。恥ずかしいじゃないか

 俺と美優ちゃんが魔樹についてやり取りしている場面だ。


 美優ちゃんが必死に「魔樹は本当はとっても優しい」とか「分かってますよ」とか。そんなやり取りだった。

……ありがと。黒澤。もういい
 スマホを返してもらうと、魔樹は質問してくる。
明後日の土曜日。二人で会うの?

まぁ、そういう約束になっている。そこに書いてあるだろ?

何か相談したいことがあるらしい

 ってことは……この話を魔樹は知らなかったのか。
待て。魔樹。この事は本人には言うなよ

分かってる。

この事を喋れば、僕だって黒澤だって美優の信頼をなくしてしまう。


僕に言わない時点で……知られたくないのだろう。


だけど……美優。どうして僕に教えてくれないんだ

魔樹……

こりゃショックを受けるよな……


だけど美優ちゃんは……なぜ魔樹に教えていないんだ?

変な取り方すんなよ。お前と美優ちゃんがすげー仲良しなのは分かる。


だけど仲良しだからこそ。近すぎるからこそ……

言えないことはあるんじゃないか?

とにかく。土曜日。結果はお前にちゃんと伝えるから
ありがとう。黒澤
だって……今の彼女は、俺が見ても……凄く無理している気がするんだよ
 何かあったら連絡すると伝えると、意外と魔樹の連絡先を知らない事に気がつく。
じゃあ、何かあったら連絡してほしい

分かったよ。

お前が考えているような、そんな事態にはならんから安心しろ

 あっさり番号交換をすますと、二人とも何食わぬ顔で別の階段から教室のある三階へ向かうのだった



 魔樹と喋ってからは、とにかく土曜日になるまで、核心めいた話をするのは辞めにした。

 それは美優ちゃんもそう思っている。そんな気がするんだ。



 気がつけば、その日は美優ちゃんと同人誌やアニメの話なども一切していない事に気がついた。

 向こうも振って来なければ、俺からも尋ねる訳にもいかず、時間は流れていく。






 そして――土曜日はあっという間にやってきた。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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