お化けマンションのエイリアン幽霊
文字数 2,000文字
来てしまった……。満月に照らし出された通称『お化けマンション』の前に。
時刻は午前二時ちょっと前。草木も眠る丑三つ時って奴まであと少しだ。
隣には高校のクラスメイトの大和良井多恵子 と、小学生女児のササラが居る。
俺は後悔している。
夏休み中で暇だった俺は多恵子に電話をかけ、その時うっかりとお化けマンションにエイリアンの幽霊が出るんだってよーって話してしまったのだ。
で、なんだかんだで強引に誘われて、今お化けマンションの前に立っている。
「それにしても、何だよその恰好は?」
「カッコいいでしょ、通販で買って改造したのよっ」
くすんだ灰色の全身タイツにアーモンド型の大きな目を持つ宇宙人『グレイ』のマスク!
こんなにスタイル抜群なグレイなんて居てたまるかっ!
そして小学生女児のササラはこんな深夜にもかかわらずメチャクチャ元気だ。さっきから俺の尻をスパーンスパーンとハリセンで叩き続けている。
「このハリセンで幽霊を退治するのだーっ!!」
このお化けマンションは今から五十年以上も前に建てられた物だ。工事が途中で中断され現在まで放置されている。この辺り一帯は大規模な土地開発によって住宅地になる予定だったが、何やらもめにもめて結局開発は中止になったらしい。
建物内の剥き出しのコンクリートの壁には『夜露死苦』とか『○○参上』とか書いてある。その他にも壁一面にグラマラスな全裸の美女の絵が描いてあったり、呪われそうな相合傘が書いてあったり、エロ本が散乱していたり、焚火でバーベキューをした跡があったりと無茶苦茶な所だ。
そんなこんなで五階までの各部屋を見て回って、六階の廊下に着いた。その時、廊下の突き当たりに何かチラッと動く物が見えた気がした。気のせい気のせい。どうせ六階にも何も無いはずだ。
「罰野 君、廊下の突き当たりで何か動いたわ」
「うん、動いた! あれは絶対幽霊だっ!」
女子が二人とも何かが動いたとか言いやがる。
俺は二人に引きずられるようにして廊下の突き当たりまで連れて行かれる。
俺達三人は部屋の入口の前の、中身がカチカチに固まった未開封のセメント袋の山からそっと中を覗く。
ああああああああああああああああああああっっっ…………。
半分透けた宇宙人が居る! グレイの幽霊だ!
いや待て、他にも居る。
頭に三角の布を付けて白装束姿で足の無い正統派(?)の幽霊が数人……数体? 数匹? 幽霊の数え方って何だ? 数人でいいのか?
そして全身に矢が突き刺さったざんばら髪の刀傷だらけの落ち武者が数人。
三八式歩兵銃を担いで敬礼をしている旧日本軍の軍服を着た痩せた兵士。
首から千切れた長いロープが垂れ下がった営業マン風の背広姿の青年。
ドレスを着た胸に包丁が刺さったままのホステス風の肉感的な若い女性。
額や胸に銃弾の穴が空いた小指の無い893風の白いスーツのいかつい中年。
コルク半とか呼ばれる半キャップの割れたヘルメットを被った暴走族風の少年。
みんな透けてる、みんな幽霊だ。うああああああああああああ…………。
そういえば思い出した! このマンションは墓地を埋め立てて建てられたとか、この辺りは戦国時代の古戦場だったとか処刑場が有ったとかの噂を! 旧日本軍の脱走兵がこの辺りで撃たれて死んだとか、自殺や殺人事件の現場だったとかいう噂も聞いた。
「幽霊を退治するのだーーっ!!」
ササラが突然大声を張り上げた!! この小学生はっ!
グレイが猛烈な叫び声を上げる! 幽霊達がこちらに走って来る!
「二人とも早く逃げるぞっ」
一気に階段を駆け下り、後ろも振り返らずに玄関を抜け、マンションの敷地の外まで逃げ出した。どうやらここまでは追って来ないみたいだ。
俺達はチャリに乗って帰り、午後二時に喫茶店で会う約束をして別れた。
午後二時、喫茶店ではなく別の場所を指定して多恵子に来てもらった。小学生は眠いから来ないそうだ。
「罰野君、どうしてまたお化けマンションに来いって言ったの?」
「ここを見てみなよ」
お化けマンションが建っていた場所には、芝生が張られた大きくて綺麗な公園が広がっている。
「どういう事なの!? 確かに昨夜 は廃墟のマンションが建っていたのに!」
「わからない。あれから帰ってすぐに寝て、トイレに起きたら出勤前の親父に会った。昨夜の事を話したら、お化けマンションは半年も前に取り壊されて今じゃ公園になってるって言う」
「じゃあ、私達が入ったマンションは? 追いかけられた幽霊達は何だったの?」
入道雲が湧き立つ青い夏空の下、公園の奥のアスレチック施設は親子連れで賑わっている。
昨夜の出来事はいったい何だったんだろうな……。
時刻は午前二時ちょっと前。草木も眠る丑三つ時って奴まであと少しだ。
隣には高校のクラスメイトの
俺は後悔している。
夏休み中で暇だった俺は多恵子に電話をかけ、その時うっかりとお化けマンションにエイリアンの幽霊が出るんだってよーって話してしまったのだ。
で、なんだかんだで強引に誘われて、今お化けマンションの前に立っている。
「それにしても、何だよその恰好は?」
「カッコいいでしょ、通販で買って改造したのよっ」
くすんだ灰色の全身タイツにアーモンド型の大きな目を持つ宇宙人『グレイ』のマスク!
こんなにスタイル抜群なグレイなんて居てたまるかっ!
そして小学生女児のササラはこんな深夜にもかかわらずメチャクチャ元気だ。さっきから俺の尻をスパーンスパーンとハリセンで叩き続けている。
「このハリセンで幽霊を退治するのだーっ!!」
このお化けマンションは今から五十年以上も前に建てられた物だ。工事が途中で中断され現在まで放置されている。この辺り一帯は大規模な土地開発によって住宅地になる予定だったが、何やらもめにもめて結局開発は中止になったらしい。
建物内の剥き出しのコンクリートの壁には『夜露死苦』とか『○○参上』とか書いてある。その他にも壁一面にグラマラスな全裸の美女の絵が描いてあったり、呪われそうな相合傘が書いてあったり、エロ本が散乱していたり、焚火でバーベキューをした跡があったりと無茶苦茶な所だ。
そんなこんなで五階までの各部屋を見て回って、六階の廊下に着いた。その時、廊下の突き当たりに何かチラッと動く物が見えた気がした。気のせい気のせい。どうせ六階にも何も無いはずだ。
「
「うん、動いた! あれは絶対幽霊だっ!」
女子が二人とも何かが動いたとか言いやがる。
俺は二人に引きずられるようにして廊下の突き当たりまで連れて行かれる。
俺達三人は部屋の入口の前の、中身がカチカチに固まった未開封のセメント袋の山からそっと中を覗く。
ああああああああああああああああああああっっっ…………。
半分透けた宇宙人が居る! グレイの幽霊だ!
いや待て、他にも居る。
頭に三角の布を付けて白装束姿で足の無い正統派(?)の幽霊が数人……数体? 数匹? 幽霊の数え方って何だ? 数人でいいのか?
そして全身に矢が突き刺さったざんばら髪の刀傷だらけの落ち武者が数人。
三八式歩兵銃を担いで敬礼をしている旧日本軍の軍服を着た痩せた兵士。
首から千切れた長いロープが垂れ下がった営業マン風の背広姿の青年。
ドレスを着た胸に包丁が刺さったままのホステス風の肉感的な若い女性。
額や胸に銃弾の穴が空いた小指の無い893風の白いスーツのいかつい中年。
コルク半とか呼ばれる半キャップの割れたヘルメットを被った暴走族風の少年。
みんな透けてる、みんな幽霊だ。うああああああああああああ…………。
そういえば思い出した! このマンションは墓地を埋め立てて建てられたとか、この辺りは戦国時代の古戦場だったとか処刑場が有ったとかの噂を! 旧日本軍の脱走兵がこの辺りで撃たれて死んだとか、自殺や殺人事件の現場だったとかいう噂も聞いた。
「幽霊を退治するのだーーっ!!」
ササラが突然大声を張り上げた!! この小学生はっ!
グレイが猛烈な叫び声を上げる! 幽霊達がこちらに走って来る!
「二人とも早く逃げるぞっ」
一気に階段を駆け下り、後ろも振り返らずに玄関を抜け、マンションの敷地の外まで逃げ出した。どうやらここまでは追って来ないみたいだ。
俺達はチャリに乗って帰り、午後二時に喫茶店で会う約束をして別れた。
午後二時、喫茶店ではなく別の場所を指定して多恵子に来てもらった。小学生は眠いから来ないそうだ。
「罰野君、どうしてまたお化けマンションに来いって言ったの?」
「ここを見てみなよ」
お化けマンションが建っていた場所には、芝生が張られた大きくて綺麗な公園が広がっている。
「どういう事なの!? 確かに
「わからない。あれから帰ってすぐに寝て、トイレに起きたら出勤前の親父に会った。昨夜の事を話したら、お化けマンションは半年も前に取り壊されて今じゃ公園になってるって言う」
「じゃあ、私達が入ったマンションは? 追いかけられた幽霊達は何だったの?」
入道雲が湧き立つ青い夏空の下、公園の奥のアスレチック施設は親子連れで賑わっている。
昨夜の出来事はいったい何だったんだろうな……。