車外へ

エピソード文字数 1,156文字

涙目になりながら、ただ謝り続けるスタッフを見ていたら、
さすがに、俺も良心が痛んできた。

謝る声がこちらまで聞こえてきたが、日本語は流暢で、外見を見なければ、日本人だと思うだろう。
そして、ところどころ、『店長』という言葉が入っているため、やはり初老のスタッフは店長だと思われた。

このまま、店長の怒りが頂点に達したら、わけのわからない弁済や解雇もあるのかもしれないなぁ。
そう考えると、自分のせいで一人の頑張っている外国人就労者の人生をだめにしてしまうかもしれないという自責の念に駆られる。


俺は意を決して、正直に謝ろうと顔を上げた。
元は、自分が蒔いた種だ。
仕方がない。
正直に謝って、ダメなときは、きちんと責任をとろう。
逮捕といっても、罰金刑だろうし、おそらくは示談、和解で済むだろう。
処分はあるだろうが、さすがに懲戒免職まではないだろうし、
最悪の場合、辞職したとしても、人に迷惑をかけてまで自分の正義を歪めるのはどうかと思う。

俺は、信条としてすべきことというのを心にしながら、頭では打算もしっかりと考える。

警察は内部組織の悪を隠蔽する体質がある。
自分も今までたくさん目の当たりにしてきたから、よくわかる。
とにもかくにも、身内に甘いのだ。
おそらくは、懲戒解雇になる前に、自ら辞職する道を残してくれるはず。

自分から辞めるのと、懲戒解雇では世間の風当たりも違うし、再就職でも全く扱いが違う。
さらに大きいのは、退職金がでるかどうかでの差だ。
これは非常に大きいことだ。

警察が身内に甘く、隠蔽体質なのは事実だが、その反面、汚点については非常に厳しい。
一回のミスをすると、ほぼ絶望的に出世への道が絶たれる。
キャリアでは顕著だ。
そうなると、モチベーションが失せ、ほとんどの人間が自ら辞めていくことになる。

何を隠そう。
この俺も、以前警察手帳と紛失し、訓戒処分を受けたことがある。
あの時は3か月間給料がカットされて、痛かったなぁ。
その件もあるから、累積扱いで、懲戒解雇は十分にあり得るかもしれない。
そう言えば、他にも『ラーメン屋死体遺棄誤認事件』でもやらかしたな。
記憶を辿ると、複数浮かんできた。
やはり、懲戒解雇かな。

ため息をつき、覚悟を決め、正直が大事!と、
そう自分に言い聞かせ、愛車のタントのドアを開けた。

ガチャという音とともに、店長とスタッフの視線がこちらへと注がれる。
醜い部分をお客様に見られてしまったという気まずい表情を一瞬したかと思うと、すぐに、作り笑顔になった。
1歩、2歩と近づくと少しづつ、表情が怪しむ目にかわる。
まるで、「何の用だ。誰だ貴様は」と言わんばかりだ。
こちらの後ろめたさがそのように見えてしまうのかもしれないが。
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