さざ波

文字数 417文字

小さないびきのその奥にある
夢の世界をふとのぞき見て
ぼくは思い出す
古い記憶を鮮明に
風の吹く海の
溺れるような塩っ辛さと
三ツ矢サイダーの蓋を開けるときの
シュッという音と
手を繋いでバスに乗り込んだ
母親の手のぬくもりと
布団の中で鳴っている
自分の心臓の鼓動を
ぼくは思い出す
高熱にうなされている
あなたが見ている夢の世界には
大きな雲が
流れているのかもしれないし
透き通るガラスのような
澄み渡った青空が
広がっているのかもしれない
そんな思い出に目を向けると
ぼくはぼくとして生きてきたことを
ようやく理解できる気がして
潰れかけた小さな病院の
待合室の白い壁のような
雨の降りそうな空に
見えない重りを背負わされた
その小さな身体の
先祖から続く悲鳴が聞こえてくる気が
 する
だからぼくたちはいつもより
早く明かりを消すのだ
早く朝を迎えるために
早く夜空の冷たさか逃れるために
ぼくの鼓動と
きみの鼓動が
隣から聞こえる
さざ波のような
小さないびきのその奥にある
夢の世界をふとのぞき見て
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