帰ってきた少女6
文字数 1,743文字
右手を組みに行った楓は、美奈子の左手を掴もうとした。
が、完全に空をきってしまう。
さっきまでそこにはあったはずの美奈子の左手は、もっと下の方へ移動していた。
というより、楓の腰に美奈子の両腕がいつのまにか巻きついていた。
高速のタックルだった。
左手のフェイントが効いているので、楓からみれば美奈子のスピードは魔法のように速く見えたはずだ。
そのまま楓は仰向けに倒された。
馬乗りになられる危険を避けるために、楓は両足で美奈子の腰をかかえるようにしてコントロールしようとした。
いわゆる、ガードポジションというやつだ。
馬乗り~マウントポジションを防御するために最適な防御方法である。
世界最強の寝技系格闘技である、南米のグレイシー柔術によって一気に有名になった攻防である。
グレイシー柔術ではこのポジションを取ることを最も重視していた。
事実、馬乗りになられると下になった者のパンチはまともに上の者に届かないし、たとえ届いたとしても威力は半減してしまう。
反対に上になった者は殴り放題である。
頭をガードすれば、ボディを攻撃して、息が詰まってボディを庇えば頭を攻撃する。
もし、それからも逃れようとして、うつ伏せになれば後頭部を殴られた挙げ句にスリーパーで締め落とされる。
そういう運命しか待っていない絶望的なポジションであり、いかに楓が強くてもそれだけは避けなければならなかった。
だが、美奈子は楓の予想を超える行動に出た。
楓の両足を抱えるとそのまま回転を始めた。
ジャイアントスイングである。
一見、派手で効果のないように見えるこの技は、しかし、実際、かけられた者の三半器官を揺さぶって、平行感覚を狂わせ、一時的に戦闘不能にするものであった。
パワーがなければ使えないために使い手は少ないが、フィニィッシュホールド、決め技へのつなぎとしては絶好の技であった。
楓も自分がかなりヤバイ状態にあることは認識していたが、一度、乗ってしまったレールはなかなか外せない。
ただ人形のように技を受け続けるしかなかった。
『意外とこの子、頭脳派ね』などという、のんきな感想は遠心力でどこかに行ってしまった。
そう、完全に楓は美奈子の必殺パターンにはまりつつあった。
十回転ぐらい回された後だろうか。
突如、マットに放り出された楓は必死で立ち上がる。
ふらふらと立ち上がりながら、次の技を防御しようと頭部を両手で庇おうとした。
パターンからいけば、次はローリングソバットを顔面にヒットさせてくるはずだ。
だが、いつまで経っても次の技は来ない。
代わりに、美奈子の声が耳元で聞こえた。
「残念でした。楓先輩」
背後から楓は抱きかかえられていた。
「さようなら」
その囁きを楓は最後まで聞くことはできなかった。
そのまま背後へと投げられていたからだ。
柔道の裏投げである。
プロレス技で言えば、変形のバックドロップというところか。
後頭部を強打した楓は、たまらずマットの上でバウンドする。
ぐったりとした楓の両手をフルネルソンにとらえると、ついに美奈子のフィニッシュ・ホールドが炸裂した。
ロコモーションジャーマンスープレックスホールド。
このオリジナル・ホールドのために美奈子は、将来のエース候補に登りつめたと言っても過言ではなかった。
楓は再び背後に投げられて肩から後頭部にかけて痛打した。
だが、それは一度では終わらなかった。
美奈子は普通のジャーマンを放った後、綺麗なブリッジから、両手をホールドしたまま楓の上を乗り越えて再び、ジャーマンの態勢に戻っていた。
そして、楓はまた投げられた。
それが相手の意識を全て奪い去るまで続けられるのだ。
「楓、しっかりしなさい!」
楓の耳に、セコンドの神沢恭子の声がかすかに聞こえた。
薄れゆく楓の意識には、神沢勇の顔が浮かんだ。
が、完全に空をきってしまう。
さっきまでそこにはあったはずの美奈子の左手は、もっと下の方へ移動していた。
というより、楓の腰に美奈子の両腕がいつのまにか巻きついていた。
高速のタックルだった。
左手のフェイントが効いているので、楓からみれば美奈子のスピードは魔法のように速く見えたはずだ。
そのまま楓は仰向けに倒された。
馬乗りになられる危険を避けるために、楓は両足で美奈子の腰をかかえるようにしてコントロールしようとした。
いわゆる、ガードポジションというやつだ。
馬乗り~マウントポジションを防御するために最適な防御方法である。
世界最強の寝技系格闘技である、南米のグレイシー柔術によって一気に有名になった攻防である。
グレイシー柔術ではこのポジションを取ることを最も重視していた。
事実、馬乗りになられると下になった者のパンチはまともに上の者に届かないし、たとえ届いたとしても威力は半減してしまう。
反対に上になった者は殴り放題である。
頭をガードすれば、ボディを攻撃して、息が詰まってボディを庇えば頭を攻撃する。
もし、それからも逃れようとして、うつ伏せになれば後頭部を殴られた挙げ句にスリーパーで締め落とされる。
そういう運命しか待っていない絶望的なポジションであり、いかに楓が強くてもそれだけは避けなければならなかった。
だが、美奈子は楓の予想を超える行動に出た。
楓の両足を抱えるとそのまま回転を始めた。
ジャイアントスイングである。
一見、派手で効果のないように見えるこの技は、しかし、実際、かけられた者の三半器官を揺さぶって、平行感覚を狂わせ、一時的に戦闘不能にするものであった。
パワーがなければ使えないために使い手は少ないが、フィニィッシュホールド、決め技へのつなぎとしては絶好の技であった。
楓も自分がかなりヤバイ状態にあることは認識していたが、一度、乗ってしまったレールはなかなか外せない。
ただ人形のように技を受け続けるしかなかった。
『意外とこの子、頭脳派ね』などという、のんきな感想は遠心力でどこかに行ってしまった。
そう、完全に楓は美奈子の必殺パターンにはまりつつあった。
十回転ぐらい回された後だろうか。
突如、マットに放り出された楓は必死で立ち上がる。
ふらふらと立ち上がりながら、次の技を防御しようと頭部を両手で庇おうとした。
パターンからいけば、次はローリングソバットを顔面にヒットさせてくるはずだ。
だが、いつまで経っても次の技は来ない。
代わりに、美奈子の声が耳元で聞こえた。
「残念でした。楓先輩」
背後から楓は抱きかかえられていた。
「さようなら」
その囁きを楓は最後まで聞くことはできなかった。
そのまま背後へと投げられていたからだ。
柔道の裏投げである。
プロレス技で言えば、変形のバックドロップというところか。
後頭部を強打した楓は、たまらずマットの上でバウンドする。
ぐったりとした楓の両手をフルネルソンにとらえると、ついに美奈子のフィニッシュ・ホールドが炸裂した。
ロコモーションジャーマンスープレックスホールド。
このオリジナル・ホールドのために美奈子は、将来のエース候補に登りつめたと言っても過言ではなかった。
楓は再び背後に投げられて肩から後頭部にかけて痛打した。
だが、それは一度では終わらなかった。
美奈子は普通のジャーマンを放った後、綺麗なブリッジから、両手をホールドしたまま楓の上を乗り越えて再び、ジャーマンの態勢に戻っていた。
そして、楓はまた投げられた。
それが相手の意識を全て奪い去るまで続けられるのだ。
「楓、しっかりしなさい!」
楓の耳に、セコンドの神沢恭子の声がかすかに聞こえた。
薄れゆく楓の意識には、神沢勇の顔が浮かんだ。