第一景
文字数 1,255文字
いらっしゃいませ。そしてお帰りなさいませ。
庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。
山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。
それに加えて、時に不思議な光景に遭遇する場所でもあるのです。
さて、今回、物語収穫人である私、佐藤美月が遭遇致しました不思議な光景は、こちらからお楽しみ下さい。
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冬が巡ってくる度に、私はいつも、不思議な気持ちにさせられます。
他の季節にはすっかり忘れていた感覚を、改めて思い出していく旅になるからです。
それはすなわち、世界はこんなにも冷たかったのだということ、後にも先にも純真さしか知らない純白の雪が、ひらひらと舞い降りてくる神秘、億の歳月を掛けて積み重なってきた地層の厚みに匹敵するほどの、何者にも覆すことの出来ない、圧倒的な静けさなどです。
冬という清廉潔白な季節の中で、私が特に好きなのは、一晩中しんしんと雪が降り続いた翌朝に満ちている静けさです。
底冷えのする寒さが静寂を研ぎ澄まし、何者も寄せ付けない静けさが、冷たさを助長する…‥どちらに転んでも、格別の静けさと寒さだけが横たわる時間です。
そんな真冬からの贈り物である朝、私は厚手のコートやマフラー、手袋等にしっかりと身を包み、図書館へと向かって歩いていました。
古代レムリア文明について、調べたいことがあったからです。
清浄な大気は冷たく冴え渡っています。
思わず深呼吸をすると、ミントティーを飲んだ時のように、清々しい気分になりました。
途中で近道をして行こうと思い立ち、大きな公園に立ち寄ることにしました。
その公園の敷地内には、まっさらな雪が、昨夜一晩掛けて降り積もっていました。
その嵩は、優に一メートル余りはあるでしょうか。
そんな中、両側に雪の壁を従えた小道が、小型の除雪車によって開かれていました。
面白いことに、その雪の壁面は、切り分けられたケーキの断面のようでした。
しっとりとしたココアスポンジの上に、生クリームがどっさりと乗っています。
地表には見事な純白の雪化粧が施されていました。
そこに重石のように覆い被さってくるのは、陰鬱な銀鼠色の雪雲です。
けれども所々に現れる破れ目からは、澄んだ碧空が顔を覗かせていました。
その様相を喩(たと)えるなら、銀鼠色のベルベットが敷き詰められた宝石箱の中に、大粒のアクアマリンが三、四粒、無造作に転がっているかのようでした。
そうして新雪の表層は、薄い陽光に眩いばかりに反射していました。
まるで純白のシルクの上に、粒状の硝子の欠片を一面にばらまいたかのようです。
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・・・ 第二景へと続く ・・・
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