ママの秘密
文字数 1,547文字
目が覚めると、ヒカリは自分の部屋のベッドに横たわっていました。
起き上がってカーテンを開けると、朝の光に目がくらむ思いがしました。とても長い夢を見ていたような気がするのに、目が覚めるとすべてが一瞬の出来事のようにも思えました。
少しして、朝食の準備をすませたヒカリのママがヒカリを起こしにきました。
ドアが軽くノックされた後、部屋に入ってきたママの姿を見て、ヒカリはとてもなつかしく思い、ママに駆け寄って抱きつきました。
「あらあら、どうしたの、ヒカリ。怖い夢でも見たの?」
ヒカリのママはやさしく言いました。
「ううん、怖くなんてなかったわ。ただ、とても長い夢だった」
「どんな夢?」
「月光花 が降 り注 ぐまっくら森の夢よ」
その夜、いつものようにベッドのかたわらの椅子に座っておとぎ話を語ろうとするママに、ヒカリは自分がまっくら森のお話を聞かせてあげました。
話を聞き終えたヒカリのママは深く息を吐きました。
「そう……。ヒカリが行ったときにはまっくら森でも月光花は忘れられていたのね。どちらの世界にも種を芽吹かせる肥料が足りなくなっていたんでしょう。どちらか一方の世界だけではダメなのよ。でも、ヒカリとモジャリが二人で一緒に月光花をよみがえらせてくれたのね。それは美しい光景だったでしょう? 今も目に浮ぶようだわ」
ヒカリのママは部屋の壁のはるか向こうを眺めるような遠い目をして言いました。
「ママ、月光花を見たことがあるの?」
「ええ。だって、ママもきっと『月の子』の一人だったと思うから」
ヒカリは少し驚いたようにママの顔を見ました。
ママはにっこりと微笑んで、どこか得意げに話します。
「子どもは大人になると、一人二人とまっくら森のことを忘れてしまって、もう二度とあちらの世界に行くことはなくなってしまうようだけれど、ママは大人になってもまっくら森に行っていたわ」
「大人になっても行けるの?」
ヒカリは期待を込めた目でママを見ました。
「私が最後に行ったのは、あなたがおなかの中にいるときだったわ。あちらの世界では私のおなかの子の父親は、それは立派な狼 だったの。狼はいつもそばにいて、私を守ってくれたわ。あなたを出産するときに、あちらの世界でも子どもを産み落としたのよ。それからは一度も向こうの世界には行っていないから、その後、あちらの世界でおなかにいた子がどうなったのかは私にはわからないけれど」
その話を聞いてなぜかヒカリは切ない気持ちになりました。
「ママ、どうしてその狼はママを守ってくれていたの?」
「ヒカリの話だと、あちらの世界では子どもは『月の子』と呼ばれていたようだけど、狼は私のことを『月の女神』と呼んで、月と同じぐらい大事に思ってくれているようだったわ」
「ママが月の女神だったのね……」
ヒカリはモジャリが恋しがっていた月の女神のことを思い出し、こらえきれずに両手で顔をおおってわっと泣きだしてしまいました。
「ママ。ママが向こうで生んだ子はモジャリよ。私の友だちのモジャリよ」
ヒカリのママは驚いた様子でしたが、すぐにすべてを理解したような穏やかな顔つきになり、ヒカリの頭をやさしくなでました。
「ありがとう、ヒカリ」
その言葉にヒカリは戸惑いました。
「ママが言い忘れた言葉をモジャリに伝えてくれてありがとう」
「言い忘れた言葉って?」
不思議そうな顔のヒカリをみつめながら、ヒカリのママはモジャリに直接語りかけるかのようにやさしく言います。
「モジャリのことが大好きで大切だっていうことよ」
ヒカリはモジャリが最後に見せた笑顔を思い出しました。
「また、モジャリに会えるかな」
「あなたがまっくら森のことを忘れない限り、モジャリはいつもそばにいるわ」
ママの言葉にヒカリは深くうなずきました。
起き上がってカーテンを開けると、朝の光に目がくらむ思いがしました。とても長い夢を見ていたような気がするのに、目が覚めるとすべてが一瞬の出来事のようにも思えました。
少しして、朝食の準備をすませたヒカリのママがヒカリを起こしにきました。
ドアが軽くノックされた後、部屋に入ってきたママの姿を見て、ヒカリはとてもなつかしく思い、ママに駆け寄って抱きつきました。
「あらあら、どうしたの、ヒカリ。怖い夢でも見たの?」
ヒカリのママはやさしく言いました。
「ううん、怖くなんてなかったわ。ただ、とても長い夢だった」
「どんな夢?」
「
その夜、いつものようにベッドのかたわらの椅子に座っておとぎ話を語ろうとするママに、ヒカリは自分がまっくら森のお話を聞かせてあげました。
話を聞き終えたヒカリのママは深く息を吐きました。
「そう……。ヒカリが行ったときにはまっくら森でも月光花は忘れられていたのね。どちらの世界にも種を芽吹かせる肥料が足りなくなっていたんでしょう。どちらか一方の世界だけではダメなのよ。でも、ヒカリとモジャリが二人で一緒に月光花をよみがえらせてくれたのね。それは美しい光景だったでしょう? 今も目に浮ぶようだわ」
ヒカリのママは部屋の壁のはるか向こうを眺めるような遠い目をして言いました。
「ママ、月光花を見たことがあるの?」
「ええ。だって、ママもきっと『月の子』の一人だったと思うから」
ヒカリは少し驚いたようにママの顔を見ました。
ママはにっこりと微笑んで、どこか得意げに話します。
「子どもは大人になると、一人二人とまっくら森のことを忘れてしまって、もう二度とあちらの世界に行くことはなくなってしまうようだけれど、ママは大人になってもまっくら森に行っていたわ」
「大人になっても行けるの?」
ヒカリは期待を込めた目でママを見ました。
「私が最後に行ったのは、あなたがおなかの中にいるときだったわ。あちらの世界では私のおなかの子の父親は、それは立派な
その話を聞いてなぜかヒカリは切ない気持ちになりました。
「ママ、どうしてその狼はママを守ってくれていたの?」
「ヒカリの話だと、あちらの世界では子どもは『月の子』と呼ばれていたようだけど、狼は私のことを『月の女神』と呼んで、月と同じぐらい大事に思ってくれているようだったわ」
「ママが月の女神だったのね……」
ヒカリはモジャリが恋しがっていた月の女神のことを思い出し、こらえきれずに両手で顔をおおってわっと泣きだしてしまいました。
「ママ。ママが向こうで生んだ子はモジャリよ。私の友だちのモジャリよ」
ヒカリのママは驚いた様子でしたが、すぐにすべてを理解したような穏やかな顔つきになり、ヒカリの頭をやさしくなでました。
「ありがとう、ヒカリ」
その言葉にヒカリは戸惑いました。
「ママが言い忘れた言葉をモジャリに伝えてくれてありがとう」
「言い忘れた言葉って?」
不思議そうな顔のヒカリをみつめながら、ヒカリのママはモジャリに直接語りかけるかのようにやさしく言います。
「モジャリのことが大好きで大切だっていうことよ」
ヒカリはモジャリが最後に見せた笑顔を思い出しました。
「また、モジャリに会えるかな」
「あなたがまっくら森のことを忘れない限り、モジャリはいつもそばにいるわ」
ママの言葉にヒカリは深くうなずきました。