第124話 絶望
文字数 3,816文字
清那達が潜む北の隠し部屋、その前を通る薄暗い通路にランプを掲げた偵察の兵が入ってきた。
清那達は矢をつがえながら、じっとその兵を目で追う。
「こちらは大丈夫だ」
偵察兵は叫ぶとさらに奥にまっすぐかけ抜けていく。
清那は兵士達に矢を下ろさせた。
彼の向かった先、突き当たりは真珠の塔の基部が貫いているだけの部屋だ。
通常は残ったいびつな空間で絵を描いたり、茣蓙 を引いて寝転がって本を読んだり、常識の範囲で各自勝手に使うことが許されていた。ここからは真珠の塔への出入り口は無く、通路からこの部屋に出入りする扉も一つしか無いため、行き来には不便でもっぱら孤独を好むものがこの空間の常連であった。
「できるだけ兵を行き止まりの部屋に入れて、『休み駒』にする。金目のものに見える美術品や宝飾品を入れておいた。兵達は群がるだろう」
『休み駒』。生きてはいても、戦闘には役に立たない戦力。盤上遊戯『天地争』で使う言葉である。
そして、戦闘に参加するため大挙して再び出てきた場合は、この隠し部屋から狙い撃ちするのだ。
「一階の守りは5人しかいないが、なあに狙う場所は4カ所しか無い」
すなわち真珠の塔基部のある部屋の入り口、工芸科創作室の2カ所、そして偵察者が通路に入ってきた場所。
「時が来たら、そこに連射だ」
しかし、弓を射ることはすなわちこの隠し部屋の存在を示すこと。
ここで息を潜めるか、それとも攻撃するか。ギリギリの見極めが必要となる。
目の前の通路を兵達が一人通り過ぎていく。清那の鋭い視線が彼らを追っていた。
「左の隠し部屋からの一行が到達です」兵が清那に報告する。
「結構足止めしたが、奴らこの奥に進んでも何も無いとわかったらしい。こちらに入ってこなくなったから切り上げてきた。こちらに死傷者は無い」
走耳が清那に小声で告げる。
「ご苦労でした、水音の道に行ってください」
「爺さんは?」
「命に別状はありませんが、怪我をされています。戻ってこられたのはお一人でした。先に食堂に行っていただいています」
「爺さんがこれしか持ちこたえられなかったということは、相当何か酷いことがあったんだな」
走耳は眉をひそめる。
「後、残っているのは?」
「大講堂の人達です」
「麗射の合図はまだか? 大講堂は苦戦してるんじゃないのか」
「ええ……」清那が眉をひそめる。「走耳?」
自由すぎる彼の従者は、すでに姿を消していた。
「どこにもありません、麗射」
「探せ、良く探すんだ」
麗射は左手を頭にあてて、記憶の底を掘り返す
皆で初めて水音の道を探した時、清那と走耳は井戸の辺りに耳を付けて、音が違うと言っていた。床の下には井戸以外に空洞がある――とも。
しかし、今の水音の道は井戸とは違う方向だ。
水脈の元は同じかも知れないが、どこかに違う道が走っているのか。
だが、皆で探しても地下の出入り口になるような場所はなかった。
麗射が考えても、考えても、先に進まない。容赦なく時間だけが経っていく。
「食堂の前の通路を、兵達が走っていきます」壁に耳を付けた青年が叫ぶ。
「と、いうことは、幻風の足止めが予想よりも早く終了したということか」
「大講堂からも、大きな音とかけ声が聞こえる」
人々のざわめきが高くなり、こらえきれずに叫び出すものが出てきた。人々も水音の道に何かあったのだと気づき始めている。
「静まれ、ここに詰めていることがわかれば、敵の攻撃がここに集中する。みんな、静かにしてくれ」
麗射の必死の叫びも届かない。
「みんな、聞いてくれっ」
しかし、麗射は出口に押し寄せる人々に突き飛ばされて、床を転がった。
「閉じ込められるのは嫌だ、」
「このまま死ぬのは嫌だ。降参させてくれ」
「ここを開ければ、見逃してくれるかもしれない」
人々は食堂の出口に向かい始めた。
「敵がいるんだ、出口を開けるなっ」麗射が止める声も、叫びにかき消される。
「あ、ああ……」
麗射は座り込んで、人々の姿を呆然と見送るのみだった。
無力だ。
人々を制しても、水音の道はすでに塞がれている、逃げる場所はない。
もうお終いだ。麗射が頭を抱える。
その時、恐慌を来していた群衆の動きが止った。
「おめえら、死にてえのか」
食堂の入り口に立ったのは、血で全身を朱 に染めた雷蛇だった。
赤い口を開け、尖った犬歯をむき出して叫ぶその姿は、冥府の獄卒そのもの。振り上げた半月等がぎらりと光る。
「入り口に手を触れる奴は殺す」
人々のざわめきが静まった。
「あきらめんじゃねえ、死にたい奴は来い。俺が一瞬で殺してやる」
群衆は徐々に入り口から遠ざかる。
彼らの恐怖ににじんだ目が、助けを求めるように麗射を見つめた。
しかし、麗射はただ、立ちすくんでいるだけ。
震えた口からは、彼らに向けて何の言葉も出てこない。
絶望。彼の心は底の無い闇に埋め尽くされている。
「もう、だめだ。俺を突き出してくれ。せめて俺の命と引き換えに皆を――」
「何を言い出すんだ、麗射っ」
美蓮が、友の襟首を掴んで振る。
「みんなが求めているのはそんな言葉じゃない」
しかし応えは無く、抜け殻のようになった麗射は瞳の光を失ったまま。
だが。
「君の背中の焼刻 は飾りかい」
突然、麗射の背後から穏やかな声が投げかけられた。
聞き覚えのある声。
「雷蛇に畑を潰されても、暴力を受けても、君はあきらめなかった。馬鹿がつくほど脳天気な楽天家、そして、どんな逆境にも負けない意地っ張り。君は自分を犠牲にしてまで、信念を貫いて氷炎を自由の身にした。その焼き印はあきらめずに最後までやり遂げた君への勲章だ」
麗射が振り向く。
「想いはあきらめたときに潰える。ここであきらめたら、背中の焼刻がなくぞ」
「耕佳……」
薄い茶色の長髪、耕作の事以外には優しい茶色の目。
獄中で麗射と芸術について語り合いながら、赤茄子をついに育て上げた盟友。
そして、わざわざ戻ってきてくれて、オアシス軍のために作物を育ててくれた恩人。
「俺の家族も、戦で死んじまってね。手塩にかけた畑も蹂躙 された。俺の戻るところはここしか無かったって訳だ」
耕佳はその透き通った茶色の目で麗射を見据えた。
「戻ってきて良かった。俺にはここで果たすべき役割があったんだ。麗射、君に自分の諦めの悪さを思い出させるという――ね」
麗射の心で、何かがうごめいた。
そうだ。俺は、逆境を乗り越えてきた。
牢獄も、学院での嘲りも、砂漠行も、底なしに思える絶望の中にあった。
だが、いつだって闇には果てがあった。
「まだ、あきらめるのは、早すぎた――」
「そのとおりだ、それでこそ麗射だ」
耕佳が、麗射の背中を思いっきり叩く。
つんのめった麗射。
ふと、彼の頭に、よろめいていた夕陽の姿が浮かび上がる。
あの時、彼は頭痛のため薬を手放さず、不安から逃れるために酒を浴びるように飲んでいた。
雨の日、酒を求めて厨房に降りたであろう、彼。
寄りかかったことで、鍵となる模様に触れて偶然開いた扉。
目の前に開いた、水音の道。
しかし、おぼつかない足取りでは――。
「生きて出口まで、たどり着けるはずが無い。闇に閉ざされた細い道を、酒に酔ってふらついた足取りでは」
麗射の顔色が変わる。
「水路だ、夕陽さんは水路に落ちたかも知れない。でも、彼は生きのびた。みんなもう一度調べてくれ、水路に何か仕掛けがないか。別方向に向かう道がないか」
麗射の言葉に、美蓮、奇併達は再び水音の道に向かう。
ランプを照らして水面を見る彼らだが、先ほども目を皿のようにして調べている。新たな発見があるとは考えにくかった。
美蓮も困ったように首を振るばかり。水路は狭いが、深さは大人の背丈ほどもある。底は暗くて上から見ただけでは良くわからなかった。
「奇併様、何か見つかりましたか?」縁筆が声をかける。
「俺にこんな地道な捜索が向いていると思うのか?」
肩をすくめて両手を広げる奇併。
その時、黒ずくめの二人組が彼の袖を引いた。
「お、お前ら生きてたのか」
奇併が嬉しそうにノズエとコウブを一度に抱き上げて頬を擦り付ける。無精髭の生えた頬が痛いのか二人は奇併の手の中でジタバタと手足を動かした。
「違う」
え?
黒い穴のような大きな二つの目がじっ、と奇併を見ている。
「お、怒ったのか?」
小さい頭が横に振られ、そのまま同じ方向を向いて止った。
奇併は彼らの視線の先を見る。
「何、が違う?」
奇併の声が震えた。
「水中の流れが、あそこだけ違う」
「奥深く、かすかに渦が見える」
彼らの指さす方向をもう一度奇併と縁筆が見る。しかし、普通の視力しか無い彼らに薄暗い水中の微妙な変化がわかるはずもなかった。
綱を付けて飛び込んだ麗射が水中から上がってくる。
集められたランプが水路を照らし、そして双眸から涙を流す麗射の顔を照らし出す。
「あった。1尺(30cm)ほど潜った所の右手に金属製の取っ手があり、そこから地下道に通じる横穴が斜め上に向かって走っている」
皆、声を潜めて歓声を上げる。
「泳ぎの達者なもの、補助に来てくれ。ここを出るのは年長者、けが人が先だ。自分で潜れるものは、自分で潜れ」
「整然と、だぜ」
いつのまにかやってきた雷蛇が釘を刺す。
人々は次々に水の中に飛び込んだ。
「で、一体この道はどこに向かっているんだ」
「さあ?」
美蓮の質問に麗射は首をかしげる。
「どちらにせよ、ここよりは良い場所さ」
清那達は矢をつがえながら、じっとその兵を目で追う。
「こちらは大丈夫だ」
偵察兵は叫ぶとさらに奥にまっすぐかけ抜けていく。
清那は兵士達に矢を下ろさせた。
彼の向かった先、突き当たりは真珠の塔の基部が貫いているだけの部屋だ。
通常は残ったいびつな空間で絵を描いたり、
「できるだけ兵を行き止まりの部屋に入れて、『休み駒』にする。金目のものに見える美術品や宝飾品を入れておいた。兵達は群がるだろう」
『休み駒』。生きてはいても、戦闘には役に立たない戦力。盤上遊戯『天地争』で使う言葉である。
そして、戦闘に参加するため大挙して再び出てきた場合は、この隠し部屋から狙い撃ちするのだ。
「一階の守りは5人しかいないが、なあに狙う場所は4カ所しか無い」
すなわち真珠の塔基部のある部屋の入り口、工芸科創作室の2カ所、そして偵察者が通路に入ってきた場所。
「時が来たら、そこに連射だ」
しかし、弓を射ることはすなわちこの隠し部屋の存在を示すこと。
ここで息を潜めるか、それとも攻撃するか。ギリギリの見極めが必要となる。
目の前の通路を兵達が一人通り過ぎていく。清那の鋭い視線が彼らを追っていた。
「左の隠し部屋からの一行が到達です」兵が清那に報告する。
「結構足止めしたが、奴らこの奥に進んでも何も無いとわかったらしい。こちらに入ってこなくなったから切り上げてきた。こちらに死傷者は無い」
走耳が清那に小声で告げる。
「ご苦労でした、水音の道に行ってください」
「爺さんは?」
「命に別状はありませんが、怪我をされています。戻ってこられたのはお一人でした。先に食堂に行っていただいています」
「爺さんがこれしか持ちこたえられなかったということは、相当何か酷いことがあったんだな」
走耳は眉をひそめる。
「後、残っているのは?」
「大講堂の人達です」
「麗射の合図はまだか? 大講堂は苦戦してるんじゃないのか」
「ええ……」清那が眉をひそめる。「走耳?」
自由すぎる彼の従者は、すでに姿を消していた。
「どこにもありません、麗射」
「探せ、良く探すんだ」
麗射は左手を頭にあてて、記憶の底を掘り返す
皆で初めて水音の道を探した時、清那と走耳は井戸の辺りに耳を付けて、音が違うと言っていた。床の下には井戸以外に空洞がある――とも。
しかし、今の水音の道は井戸とは違う方向だ。
水脈の元は同じかも知れないが、どこかに違う道が走っているのか。
だが、皆で探しても地下の出入り口になるような場所はなかった。
麗射が考えても、考えても、先に進まない。容赦なく時間だけが経っていく。
「食堂の前の通路を、兵達が走っていきます」壁に耳を付けた青年が叫ぶ。
「と、いうことは、幻風の足止めが予想よりも早く終了したということか」
「大講堂からも、大きな音とかけ声が聞こえる」
人々のざわめきが高くなり、こらえきれずに叫び出すものが出てきた。人々も水音の道に何かあったのだと気づき始めている。
「静まれ、ここに詰めていることがわかれば、敵の攻撃がここに集中する。みんな、静かにしてくれ」
麗射の必死の叫びも届かない。
「みんな、聞いてくれっ」
しかし、麗射は出口に押し寄せる人々に突き飛ばされて、床を転がった。
「閉じ込められるのは嫌だ、」
「このまま死ぬのは嫌だ。降参させてくれ」
「ここを開ければ、見逃してくれるかもしれない」
人々は食堂の出口に向かい始めた。
「敵がいるんだ、出口を開けるなっ」麗射が止める声も、叫びにかき消される。
「あ、ああ……」
麗射は座り込んで、人々の姿を呆然と見送るのみだった。
無力だ。
人々を制しても、水音の道はすでに塞がれている、逃げる場所はない。
もうお終いだ。麗射が頭を抱える。
その時、恐慌を来していた群衆の動きが止った。
「おめえら、死にてえのか」
食堂の入り口に立ったのは、血で全身を
赤い口を開け、尖った犬歯をむき出して叫ぶその姿は、冥府の獄卒そのもの。振り上げた半月等がぎらりと光る。
「入り口に手を触れる奴は殺す」
人々のざわめきが静まった。
「あきらめんじゃねえ、死にたい奴は来い。俺が一瞬で殺してやる」
群衆は徐々に入り口から遠ざかる。
彼らの恐怖ににじんだ目が、助けを求めるように麗射を見つめた。
しかし、麗射はただ、立ちすくんでいるだけ。
震えた口からは、彼らに向けて何の言葉も出てこない。
絶望。彼の心は底の無い闇に埋め尽くされている。
「もう、だめだ。俺を突き出してくれ。せめて俺の命と引き換えに皆を――」
「何を言い出すんだ、麗射っ」
美蓮が、友の襟首を掴んで振る。
「みんなが求めているのはそんな言葉じゃない」
しかし応えは無く、抜け殻のようになった麗射は瞳の光を失ったまま。
だが。
「君の背中の
突然、麗射の背後から穏やかな声が投げかけられた。
聞き覚えのある声。
「雷蛇に畑を潰されても、暴力を受けても、君はあきらめなかった。馬鹿がつくほど脳天気な楽天家、そして、どんな逆境にも負けない意地っ張り。君は自分を犠牲にしてまで、信念を貫いて氷炎を自由の身にした。その焼き印はあきらめずに最後までやり遂げた君への勲章だ」
麗射が振り向く。
「想いはあきらめたときに潰える。ここであきらめたら、背中の焼刻がなくぞ」
「耕佳……」
薄い茶色の長髪、耕作の事以外には優しい茶色の目。
獄中で麗射と芸術について語り合いながら、赤茄子をついに育て上げた盟友。
そして、わざわざ戻ってきてくれて、オアシス軍のために作物を育ててくれた恩人。
「俺の家族も、戦で死んじまってね。手塩にかけた畑も
耕佳はその透き通った茶色の目で麗射を見据えた。
「戻ってきて良かった。俺にはここで果たすべき役割があったんだ。麗射、君に自分の諦めの悪さを思い出させるという――ね」
麗射の心で、何かがうごめいた。
そうだ。俺は、逆境を乗り越えてきた。
牢獄も、学院での嘲りも、砂漠行も、底なしに思える絶望の中にあった。
だが、いつだって闇には果てがあった。
「まだ、あきらめるのは、早すぎた――」
「そのとおりだ、それでこそ麗射だ」
耕佳が、麗射の背中を思いっきり叩く。
つんのめった麗射。
ふと、彼の頭に、よろめいていた夕陽の姿が浮かび上がる。
あの時、彼は頭痛のため薬を手放さず、不安から逃れるために酒を浴びるように飲んでいた。
雨の日、酒を求めて厨房に降りたであろう、彼。
寄りかかったことで、鍵となる模様に触れて偶然開いた扉。
目の前に開いた、水音の道。
しかし、おぼつかない足取りでは――。
「生きて出口まで、たどり着けるはずが無い。闇に閉ざされた細い道を、酒に酔ってふらついた足取りでは」
麗射の顔色が変わる。
「水路だ、夕陽さんは水路に落ちたかも知れない。でも、彼は生きのびた。みんなもう一度調べてくれ、水路に何か仕掛けがないか。別方向に向かう道がないか」
麗射の言葉に、美蓮、奇併達は再び水音の道に向かう。
ランプを照らして水面を見る彼らだが、先ほども目を皿のようにして調べている。新たな発見があるとは考えにくかった。
美蓮も困ったように首を振るばかり。水路は狭いが、深さは大人の背丈ほどもある。底は暗くて上から見ただけでは良くわからなかった。
「奇併様、何か見つかりましたか?」縁筆が声をかける。
「俺にこんな地道な捜索が向いていると思うのか?」
肩をすくめて両手を広げる奇併。
その時、黒ずくめの二人組が彼の袖を引いた。
「お、お前ら生きてたのか」
奇併が嬉しそうにノズエとコウブを一度に抱き上げて頬を擦り付ける。無精髭の生えた頬が痛いのか二人は奇併の手の中でジタバタと手足を動かした。
「違う」
え?
黒い穴のような大きな二つの目がじっ、と奇併を見ている。
「お、怒ったのか?」
小さい頭が横に振られ、そのまま同じ方向を向いて止った。
奇併は彼らの視線の先を見る。
「何、が違う?」
奇併の声が震えた。
「水中の流れが、あそこだけ違う」
「奥深く、かすかに渦が見える」
彼らの指さす方向をもう一度奇併と縁筆が見る。しかし、普通の視力しか無い彼らに薄暗い水中の微妙な変化がわかるはずもなかった。
綱を付けて飛び込んだ麗射が水中から上がってくる。
集められたランプが水路を照らし、そして双眸から涙を流す麗射の顔を照らし出す。
「あった。1尺(30cm)ほど潜った所の右手に金属製の取っ手があり、そこから地下道に通じる横穴が斜め上に向かって走っている」
皆、声を潜めて歓声を上げる。
「泳ぎの達者なもの、補助に来てくれ。ここを出るのは年長者、けが人が先だ。自分で潜れるものは、自分で潜れ」
「整然と、だぜ」
いつのまにかやってきた雷蛇が釘を刺す。
人々は次々に水の中に飛び込んだ。
「で、一体この道はどこに向かっているんだ」
「さあ?」
美蓮の質問に麗射は首をかしげる。
「どちらにせよ、ここよりは良い場所さ」